第93話 盗賊であれば

 敵は想像していた以上に迅速に動いたが、内通者はいないようだ。

 これなら捕縛は可能だとしても、問題は身に纏っているものだ。


 何かあるとはパルムの上層部も考慮していたはず。

 それでも、姿を隠す・・・・魔道具の話は聞かなかった。


 つまるところ、そんなアイテムは存在しない・・・・・んじゃないかと思えるが、今はその可能性を頭から排除して作戦に集中するべきだな。


 少なくとも足音を感じさせず、草を踏みしめる音のみが耳に届いてる。

 迫る敵の気配に気付かなければ、致命的な不意打ちをされていただろう。


 姿は見えず、音も聞こえず。

 こちらの混乱に乗じて逃亡を図るはずだ。

 そうなれば最悪のシナリオへ向かうことになっていた。


 やはり、広範囲に索敵していたのは間違いじゃなかったな。

 必ず何か策があると考えていたが、それでも姿を隠すアイテムは想定外だ。

 未だに目を丸くする彼らの中で敵を気配で知覚できる者はいないと思えるから、現状で俺が取れる手段もおおよそ決まった。


「単独で先行し、風圧による視界遮断の無効化を試みる。

 可能であればそのまま捕縛へ移行するが、許可をもらえるか?」


 冷静な口調でウルマスさんに指示を仰ぐ。

 ここで俺が勝手に飛び出すわけにはいかない。

 そんなことをすれば、チームに混乱を招くだけだ。


 俺の問いかけに意識をこちらへ戻せたようだ。

 ウルマスさんだけでも事前に伝えておくべきだったが、口頭で説明したところで理解しづらい内容が多く含まれていることを理由に避けたのが悪手になったか。

 あとでしっかりと謝っておかないといけないな。


「……行けるか、ハルト?」

「あぁ、問題ない」

「分かった。

 作戦通り、ハルトには遊撃を任せる。

 自身の判断で行動してかまわない。

 だが、無茶だけは許可しない」

「了解した。

 2分ほど待機し、連中を引き寄せてから攻撃行動に移る」


 目標は強者の気配を隠しきれてない左から4番目だ。

 恐らくはこいつがボスか、その護衛者で間違いないだろう。

 つまりそいつか、その左右に位置する盗賊を捕縛すれば終いだ。


 こればかりは頭の切れるやつでも図れない。

 盗賊が自分よりも弱い者に従うとはとても思えないからな。


 ……狙う3人が盗賊であれば・・・・・・、ではあるが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る