第92話 笑顔を守るために
見た目からは不愛想で感じの悪さすら思わせる姿だ。
それをふてぶてしい小僧だと感じる先輩も多いだろう。
だが、ここにいる誰もができないことを、少年は続ける。
すべては捕縛作戦をより確実に成功させるため、パルムに住まう人々の笑顔を守るために、彼は激痛に耐えていた。
広範囲索敵。
そう言葉にすれば聞こえはいいが、その代償は小さくない。
他者からは想像できないほどの強烈な反動が使用者に襲い掛かる。
だが作戦開始時刻を間近に控えた現状で、少年は可能な限りの策を弄していた。
この状況で襲撃されれば、様々な面倒事となるだろう。
最悪の場合は全滅すら導き出す愚行だと判断されるかもしれない。
それでも、少年は周囲を探り続ける。
動くものが魔物か動物か、それとも人なのかを正しく判断するために。
一度確認さえすれば魔物対策にもなるだけでなく、索敵範囲外から足を踏み入れた存在に集中できるからだ。
世界が揺らぐほど平衡感覚が狂おうとも、頭が割れるほどの激痛が襲い続けようとも、戦えないわけではないのだから索敵しない手はなかった。
しかし、この状態では手加減ができないと彼は理解している。
そうなれば捕縛することも適わず、貴重な情報源を永久に失うことになる。
もし仮に別組織と繋がりがある場合、今回の一件では収まらないとも予測される以上、盗賊団の頭目を生きたまま捕らえるのが最低条件だと少年は判断した。
相手が狡猾であればあるほど、こちらの準備が万全となる前に先手を打とうとする可能性も高い。
手加減の難しい現状で遭遇すれば間違いが起きることも十分に考えられた。
確実に捕縛できないタイミングでの対峙は非常に大きな問題となる。
作戦上では捕縛が難しいなら討伐する手筈ではあったが、それでは意味がない。
別の組織と繋がりがあるのか、それとも単独で団を率いていたのかを明確にしておかなければ、本当の意味でパルムの人たちを救ったことにはならないと少年は強く感じていた。
* *
作戦開始時刻が差し迫り、各々の配置に付きながら最終確認をする一同。
ピリピリとした緊張感が張り詰める中、憲兵隊の大隊長ウルマスは言葉にした。
「時間だ。
"魔物防壁"の効力も出始める頃か。
濃霧による視界不良は相手も同じだ。
冷静に目視を続け、異変があれば即時報告を」
耳に届くほどの声量で答える憲兵、冒険者の合同チーム。
その中で少年だけが未だに同じ体勢を保ち続けていた。
さすがに厳戒態勢ではあまり褒められないと感じた冒険者が苦言を呈そうと口を開いた瞬間、少年は瞳を開けながら言葉にした。
「――来たぞ。
1時方向、距離120メートル、数7、
違和感を覚える衣擦れのような音が全員から確認、要警戒。
視界を遮断する薄いローブかヴェールの魔道具と推察」
少年から発せられた言葉に目を丸くする一同は、呆気に取られたように視線を彼へと向けた。
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