第79話 受ける依頼

 魔剣とは、魔力を帯びた武具のことで、剣に限定されるものではないそうだ。

 たとえば斧や槍といったものから、弓や杖にもそういった加工がされる。


 実際に魔剣で何ができるのかを聞いてみたが、込められた魔力によって火が吹き出たり水が飛び出たりする、ある意味では想像通りの性能を持つとも言えるんだが、当然のように発現できる力は有限で、使い切るとただの武器になるようだ。


 便利そうに思えるが、魔剣はそう気軽に作れるような武具でもないそうだ。

 希少な希星石きせいせきの入手もその理由のひとつだが、それよりも作り出す技術を持つ職人のほうで相当限られるようだな。


 掲示板に貼り出された依頼書の件についても聞いたが、魔剣職人となるために修練用の希星石を集めているように思えて、それほど本腰を入れて制作するならパルムでの募集はしないのではとリンネアさんは話した。


 魔剣制作に本気で取り組むなら、希星石代でもかなりの資金が必要となる。

 そう言った点を踏まえると、低ランク冒険者でも頑張れば購入できる額の魔剣を作っているのかもしれないな。


 残念ながら安価で売られている魔剣は、それほど強力な効果を持たないらしい。

 恐らくは投げナイフのような使い方で戦闘後に回収するといった、"投擲用の道具"として使われているのか。


 込められた力次第では戦況を左右するほどの効果を持つのだとか。

 つまるところそれは、俺自身にも投げられる・・・・・可能性があるってことだ。

 さすがにリンネアさんは魔剣の細かな性能について詳しくないみたいだから、サウルさんたちと合流したら聞いてみるか。


 ともかく、この周辺ではまず見かけない石で、上流から流れてきたものを近くの川で見つけたりといった入手法しかないようだ。

 俗に"魔鉱山まこうざん"と呼ばれる、世界でも限定された場所でしか採掘できないため、希星石の価値は非常に高い。


 中でも大きくて質のいい希星石は、専門のオークションにかければ高額に跳ね上がることも多いそうだ。

 一攫千金を目的とした連中に荒らされないよう魔鉱山はそれぞれの国で厳重に管理され、無断で侵入しただけでも目が飛び出るほどの罰金が課せられるのだとか。


 一般人には関係なさそうだが、魔剣の存在は警戒する必要がある。

 強力な武器だけじゃなく、使い方次第でも十分に危険な性能を持っていると思えてならないが、希星石については俺が手にすることはないかもしれないな。


「そういえば、一般的な薬草採取の依頼書を見かけなかったが、この町では必要とされていないのか?」


 希少な薬草、特に相当価値があると思われる素材の依頼書は見かけた。

 当然それらの入手には盗賊団を避ける、もしくは退ける力が必須のため、難易度は相当高い依頼になるだろう。

 そこまでして金を稼ぎたい理由も俺にはないし、新人は新人に合ったものを選ぶべきだから採取に向かうことはないが、一般的な回復薬を含む材料の採取依頼が見られなかったのは意外だった。


 だが、その必要はなかったみたいだ。

 ある意味では当たり前かとも思えてしまったが。


「薬師さんの多くは商業、林業ギルドとも深い繋がりを持ちますので、専用のハーブ園を所有している方も多いんですよ。

 栽培した薬草を販売する業者さんもいますので、パルム外での一般的な薬草採取依頼が貼り出されることはとても少ないんです」

「なるほど」


 確かに薬草を育てればあらゆる面で利点になるし、トルサは王都からとても近い上に小さい町だったから頻繁に募集していた、ということか。

 少なくとも冒険者を雇うだけの人件費も必要ない点を考慮すれば、自分の農園で栽培したほうが遥かに安上がりだろう。


 となると、回復薬の相場もこの町では安いのかもしれないな。

 ……どの道、俺には十全な効果が得られないから、買うことはないと思うが。


 なら、俺にはこの依頼が適任だろう。

 盗賊どもを捕縛した件の情報が冒険者ギルドにも伝われば話は変わるが、冒険者としての経験は素人だからな。

 できるだけ初心者用の依頼を受けて勉強させてもらいたいところだ。


 思えば、サウルさんとヴェルナさんに参加してもらうのも申し訳ないからな。

 これもふたりと離れた今のうちにできることのひとつなのかもしれない。


「"リカラの実"の採取依頼を受けるよ。

 籠を借りられると書いてあったが、まだあるだろうか?」

「はい、少々お待ちください」


 満面の笑みで応えてくれるリンネアさんは籠を取りに奥の事務所へと向かった。

 今晩の食事にリカラの実を付け合わせて注文しようかと考えながら彼女が戻るのを待っていると、後ろから声をかけられた。


「なあ、ちょっといいだろうか?」

「なんだ?」


 振り向きながら俺は訊ねた。

 まぁ、先ほどからこちらに視線を向けながら話し合ってた連中だから、誰なのかは分かっていたが。


「その依頼、俺たちと一緒に行かないか?」

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