第78話 あまりにもな名称
ゴールデンスプリングシープ狩りに多くの人員を割いたからか、高ランク冒険者を対象とした依頼書が掲示板に多く貼り出されていた。
その中でも厄介なのは、沼地に群生する固有植物"ヴィレムス"の伐採だな。
依頼内容から判断すると、この木に実る果実が魔物を呼び寄せているようだ。
高さはそれほどないらしいが、それでもひとりでは手が出せないほどの広範囲に広がっていると聞いた。
この依頼は冒険者だけじゃなく、林業ギルドと専属の薬師を含む専門家たちを合わせた大規模な合同チームの募集になる。
当然、木を引っこ抜くだけじゃ終わらないはずだ。
そのための専属薬師が参加する依頼ともなれば、相当の参加人数になる。
しかし、ヴィレムスの特性を巧みに利用する盗賊団のせいで一向に人員が集まらないんだろうな。
寄ってきた魔物を避けながら行動してくる連中の手段も判明しない以上は、こちらからは手が出せないのが現状のはずだ。
他は護衛依頼。
南の街道を進む商人の護衛と、北の町へ向かうための馬車護衛か。
どれもランクだけでは参加できない、実績重視の護衛依頼みたいだな。
特に北の町への馬車護衛は、かなり危険度が高いようだ。
草原を北に進むと小高い丘に出るが、そこは周囲を一望できる見晴らしのいい場所で別段危険なことはない。
だがさらに進むと、若干森と森を抜けるような昼間でも薄暗い道が続くらしい。
正直、その一帯がいちばんの難所と言えるだろう。
さすがに盗賊も近寄らない薄暗い道は、"ハミングバード"と呼ばれる厄介な魔物が真上から襲ってくる。
名前から判断すればハチドリしか連想できないが、"こいつはそんな可愛らしい小鳥なんかじゃねぇぞ"とサウルさんたちに教えてもらった。
そう呼ばれる所以は姿形のみで、問題はそれが巨大な魔物と分類されるヒュージ種である点だ。
およそ50センチにもなる巨大な体躯と刃物のような鋭い嘴を持ち、若手冒険者では反応するのも難しいと言われるほどの速度で襲ってくる厄介さに加え、何よりも危険なのはこちらの攻撃を見極めて空中で静止する。
ぶんぶんと耳障りな羽音が耳に届くだけでも精神的にイラつくらしいが、問題は移動速度とホバリングによる回避能力の高さだ。
こちらの攻撃を避けて嘴で刺してくる単調なカウンター型の魔物ではあるものの、単調だからこそ厄介だと言える。
逆に耐久力は非常に低く脆いため、攻撃が当たりさえすれば若手冒険者だろうと倒せると聞いた。
だが問題は凄まじいと言われるほどの速度で動く相手、それもホバリングで回避した瞬間に仕掛けてくる嘴を避けられることを前提とした依頼である点か。
当たらなければ意味がないと言わんばかりの攻撃的なスタイルは、若手冒険者では全滅しかねないほど厄介な魔物であることは間違いない。
最悪の場合は4、5匹の群れで襲ってくるとの報告もあって、北への街道は精鋭以上の冒険者が護衛しなければ無事に到達することも困難と言われている。
ただし、その肉は適度な脂身もある非常に上質な肉で、ゴールデンスプリングシープほどではないにしても相当美味いらしい。
どうもパルム周辺は美味い酒だけじゃなく、美味いものが溢れているようだ。
盗賊団が近くにいることを考慮すれば微妙ではあるが、ハールスから近いこともあって果物も豊富な上に水も美味い。
綺麗な水で作られた料理はそれだけでも質が高くなるから、酒が飲めない人でも好んで町に住む気持ちは俺にも分かる気がした。
それでも、近くに総数不明の盗賊団がいるってだけでマイナスではあるんだが。
どの道、俺はパルムを離れられないから護衛依頼は受けられないが、危険手当を考えるとかなり好条件の仕事と言えるだろう。
ゴールデンスプリングシープの群れが見つかっていなければ、すぐに掲示板からなくなる依頼なのかもしれないな。
他には……。
『"
もし見つけた方は"鋼鉄の車輪"まで。
最低額7万キュロから値段交渉します』
……希星石。
聞いたことのない石だな。
この世界独自の鉱石なのは分かるが、パルム周辺に鉱山はない。
となると、相当レアな物なんだろうか。
受付で聞いてみるか。
カウンターへ視線を向けると、どうにも表現しづらい気配を感じた。
好意的と言っていいのか分からない印象のものだが、少なくともこちらへの興味をとても強く感じさせるものだった。
先日の一件はギルド職員からすると好印象だったのかもしれないが、俺はしたいことをしただけで、褒められるような行動は取っていないはずだと思うが……。
「おはようございます、ハルトさん」
「おはよう、リンネアさん。
"希星石"について聞きたいんだが、教えてもらえるだろうか?」
「はい、もちろんですよ。
希星石とは、パルム周辺ではあまり見かけない希少な鉱石のことです。
別名、"
「……魔剣なんて、あるのか……」
ぽつりと呟いてしまった。
あまりにも創作物を強く感じさせる名称だから、当然なのかもしれないが。
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