第五章 わかる気がするよ
第77話 仕事探し
早朝にもかかわらず、がらんとしたギルド内に寂しさすら感じた。
飲食スペースにも空きが目立っていたが、さすがに朝食を取りに来る人は少ないようで、主に独り身と思われる男性が10人ほど席に座っているだけだった。
館内右側に設置された掲示板には同じ年代にも見える新人冒険者たちが、なにやら話し合いながら依頼書を見ていた。
俺と同じように今日の仕事を探しに来たんだろうな。
どこか幼さを感じさせる彼らの姿に、一条が重なった。
あいつは今、どこで何をしてるのやら。
アイナさんとレイラから足りないものを学んでいるだろうか。
それとも自尊心の高さから、わがままを通してふたりに迷惑をかけてるんじゃないだろうか。
「……まぁ、ふたりが傍にいてくれるなら、そんなことにはならないか」
余計なお世話と一条に言われそうだな。
俺は俺のできることをしよう。
仕事を探しに掲示板へ足を向けた。
貼り出された仕事内容を見てみると、かなり限定された依頼が目立っていた。
むしろ、誰も受けないからこそ掲示板に残り続けているんだろうな。
魔物の討伐依頼もいくつか貼られている。
しかし、沼地に向かう可能性があるものは危険すぎる。
俺がパルムで受けられる討伐依頼は、ディアやボアなどの一般的な魔物だ。
ハールスでならもっと格上の魔物だろうとギルドマスターが受理してくれるが、この町では新人冒険者だからな。
連絡役と思われる盗賊を捉えたことを評価されるのは、まだ先になるはず。
ともかく、できればそういったものじゃなくて、もっと一般的なものがいい。
薬草採取や荷物の運搬、手紙配達に護衛依頼といったものが並ぶ中、ふと気になったのは先日冒険者たちが向かったゴールデンスプリングシープ討伐か。
だが、さすがに捕獲、討伐依頼は貼り出されていなかった。
多数の冒険者による共同依頼の類だろうから、いまさら参加も難しいと思うが。
恐らく通常とは違う扱いになってるんだな。
掲示板に依頼書が貼り出され、受付時間や参加人数が定員を超えるとギルド職員が剥がしてるのか。
特にあの魔物は広範囲を移動してるらしいから、多くの冒険者が連携して追い込み、囲うようにして遠距離攻撃で倒すような戦い方が妥当か。
肉以外はスプリングシープと変わらないそうだし、遠くから狙い撃ちするような倒し方だろうとそれほど問題にならない素材が多いこともあって、冒険者たちからは動く肉のような扱いを受けていそうだな。
……なぜか、鬼気迫る表情で全力で逃げるイノシシを追いかけるヴェルナさんのとても嬉しそうな姿が脳裏に浮かんだが、あまり考えないようにしよう。
随分と人気のある依頼だが、ゴールデンスプリングシープの魅力は俺もしっかりと体験したからな。
あれほどの味なら、目の色を変えて狩りに行くのも分からなくはない。
それは同時に、パルムの人々の胃袋を満たすことにもなる依頼だ。
リンネアさんの話では、冒険者たちが戻るまで数日かかるらしいし、料理店に並ぶのはまだ先になるか。
残念ではあるが、楽しみは取っておくことにして別の仕事を探そう。
……"リカラの実"の採取依頼、か。
一応、初心者用の依頼となっているが、参加推奨人数は3人から4人。
草原には大量にディアがいる。
それらを避けながら採取する必要はあるんだが、所詮ディアだからな。
鹿を狂暴にした程度なら何十頭もの群れが襲ってきても撃退できる。
町から近いこともあって、討伐した魔物は邪魔にならない場所に寄せておけば、纏めて回収業者にお願いできる。
素材代を考えると薬草採取よりも遥かに高額になるが、この町はトルサと違い、薬草不足で困ってはいないんだろうか。
掲示板を見ていると、採取依頼として貼り出されているのは複数枚あるとはいえ、そのどれもが薬屋から出された一般依頼書だ。
中には沼地方面に群生する採取依頼書も貼り出されていたが、相当高額だった。
『薬草"メリルオト"の採取。
枯れていないものに限り、一株12万キュロ。
総数不明の危険度A盗賊団が目撃されるため、参加資格はランクA以上』、か。
依頼書が貼り出されてから相当時間が経っているんだろう。
他の依頼書とは年季の違いをはっきりと感じさせるほど色あせていた。
ギルドが示した危険度A判定は、同ランクの冒険者が数名含まれる凄腕チームでなければ達成できないと聞いた。
おまけに盗賊団である時点で危険度はさらに跳ね上がる。
数人の盗賊相手なら何とかなっても、どれだけいるかも分からない連中を相手にするのはリスクが高すぎる。
誰も受けないのは納得だ。
むしろ俺なら絶対に近寄らない。
敵の総数が不明な上、地形的にも疎い場所へ無策で向かうなんて、無謀どころの話じゃないからな。
それにギルド側が協議し続けている案件に首を突っ込むような勝手はできない。
これも受けられないな。
他に良さそうな依頼は……。
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