第73話 慎重に調べる必要が
「連中の目が覚め次第、聴取を開始する。
だがこれは町長を始めとして各ギルドにも連絡をしなければならない案件だ。
状況にもよるが、もう一度ハルトには詳細を聞きに行くかもしれない」
「かまわないよ。
"跳ねる子羊亭"に泊ってるから、いつでも来てくれ。
依頼を受けた場合は遅くなるかもしれないが、夜には戻るつもりだ」
いざとなれば深夜でも起こしていいと伝えた。
そんな緊急事態などないと祈りたいところだが、何が起こるか分からない。
最悪の場合、潜伏している盗賊が一斉に蜂起して、その隙を盗賊が狙ってくる可能性だって考えられるんじゃないだろうか。
限りなく低い確率だとしても相手は盗賊に身を落とした輩だからな。
相手を貶めるためにはどんな非道でも涼しい顔で実行するだろう。
「……悪いな」
「気にしなくていい。
事が事だけに、憲兵の務めを優先してほしい」
「そう言ってもらえると助かる」
とはいえ、問題は山積みだ。
どれだけの規模で潜入しているのかもまだ分からないし、地形を利用して居を構える盗賊団の頭は未だに姿はもちろん、その痕跡さえ一切見つけさせない周到さがある。
並大抵の頭脳しかないのなら、もうとっくに捕縛されているはずだ。
となると俺の推察も的を射ているのかもしれない。
元騎士団所属か元軍人。
もしくは国家の暗部を思わせる工作員か。
どちらにしても頭の切れるやつがトップにいる。
これがいちばん厄介だと思えてならなかった。
戦略に長けたのが頭にいると、面倒どころでは済まないからな。
盗賊の総数も把握できていない上、湿地帯のように広がる浅い沼とその周辺は容易に攻め込めないし、下手に行動をしようものなら甚大な被害を被るだろう。
最悪の場合、捕虜と引き換えに多額の金銭を要求されかねない。
「軽々しく攻められない現状では長期的な膠着状態となると、パルムの上層部は考えてるようだ。
だが、ハルトたちが連れ帰った盗賊共と今回の男たちの情報を精査することで、これまで机上の空論だった活路が現実味を帯び始めるかもしれない。
そうなれば形勢が一気にこちらへ傾き、盗賊団の一斉検挙も見えてくる。
当然、それほど単純な話でもないし、そう簡単にはいかないことも承知の上だ。
しかし、それでも俺には今回の一件で何かが繋がるような気がする」
「男たちの会話から判断すると、確かにそう思えなくもないですね。
話に出た"報告"する予定の人物が判明すれば、色々と見えてくるでしょうし」
「どういうことっすか、先輩?」
なんとも間の抜けた声色で訊ねた後輩憲兵にため息をついたアニタは、呆れた様子で答えた。
「あのね、マルコ。
盗賊団と繋がりがあると思われる者が、このパルムに潜んでいたのよ。
恐らくはそれなりに地位のある人物と接点を持っている可能性が高いの」
「……あー、つまり……町長が盗賊かもしれないってことっすか?」
「極端な話だし、あくまでも可能性だけど捨てきれないわね」
「そんな!?
マズイじゃないっすか!!
どどどどうするんすか!?」
「落ち着きなさい。
私は、"その可能性が捨てきれない"と言ったのよ。
あまり言いたくはないけど、ギルドに潜入してるかもしれない。
疑い出せばキリがない状況で、軽々しく行動するわけにはいかないの」
「そうだな。
俺たちの動きが読まれたように逃げられ、わずかな情報すら掴めていないこととも関連があるかもしれない。
先日、ハルトたちが捕縛した男どものほとんどは情報を持たされていない末端だが、その中にひとりこれまで捕まってきた盗賊とは毛色の違うやつがいてな。
口の堅さも相まって、中々の情報を持っていることは確実だ。
今日捕まった連中との繋がりも慎重に調べる必要がある」
それには裏付けするまでの時間もかかるが、確実に捕まえるための条件は揃いつつあるようにも思えてならない。
今回の一件が何らかの光明をもたらしてくれるのなら嬉しいが、残念ながらそう単純に解決できるようなことでもないのは間違いないだろう。
アニタさんもそれはないと分かってて発言したことは理解できるが、町長が盗賊と繋がりがあるとは思えない。
どこへ行くにしても町長という肩書は非常に目立つからな。
大きめの町とは言ってもそれは変わらないはずだと思えるし、町民の目を掻い潜って怪しい連中と接点を人知れずに持つのは難しい。
その場合、複数の協力者が必要になる。
そしてその推察は、この町を陥落させかねない最悪のシナリオに繋がっているように思えてならなないが、あまり考えないようにしたほうが冷静な判断ができるかもしれないな。
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