第70話 当たりだな
あと1時間もすれば日も傾くと思える時点で、残り7匹ほどまで捜索が終わっていた。
体調が戻ってから急いで探したのが功を奏したんだろう。
だが、カトリーナはまだ見つかっていない。
残りの猫と思われる気配もカティが探している子である保証などないし、家に戻ってる可能性も十分考えられる。
本音を言えば、この辺りにいないことも否定できない。
そうなれば夕刻までに戻ることは無理だ。
「……これは、あまりいい報告ができないかもしれないな」
弱きな発言をしつつも気合を入れ直し、路地へと駆けた。
確認すべき猫の数は残り少ないが、いないと決まったわけじゃない。
もしかしたらこの中にカトリーナがいるかもしれないんだから、希望を捨てずに探し続けるか。
薄暗く狭い道を進むと、猫を見つける。
しかし、白猫の首元に黒い模様のある子だったようだ。
急速に迫る俺に気付いた子は飛び上がり、一目散に逃げ出した。
随分と驚かせてしまったことに謝りながら、次の気配に向かう準備をする。
……どうやら寝ていた子たちが起き始めたみたいだな。
どこかに向かって動き出した猫へ足を進めようと力を込めた瞬間、嫌な気配を感じ取った。
……纏わりつくような、気色の悪い気配……。
この感覚には覚えがある。
となれば、俺の予想が悪い方へ当たっていたことになる。
いや、ある種の最悪な状況になりかねない事態だ。
気配を抑えられない程度の相手がふたりなら、そう時間もかけずに捕縛できるだろうが、問題はその先だ。
憲兵詰め所に届け、事情聴取を受けるとなれば時間もかかる。
優先順位を決めることはしたくないが、こればかりはこちらを先に片付けるべきだと思えた。
「……カティには悪いが、こちらを優先させてもらうか……」
路地の奥へ気配を消しながら、物音を立てないように進む。
ガラクタのような物が転がる中、大きめの樽に腰かける男がひとりと、左の壁に体を預ける男をひとり見つける。
どちらも怪しい恰好ではなく、一般人と思われる姿だった。
……まさか本当にいるとは思わなかったが、このまま離れるわけにもいかない。
何やら話しているが、ここからだとさすがに聞こえなかった。
周囲を見回し、少し路地を戻る。
壁伝いに屋根を上り、男たちの近くで耳を立てた。
「……で、どうする?」
「どうするも何も、報告するしかねぇだろ」
「そうじゃねぇよ。
どうやって接触するかって話だよ」
……当たりだな。
同時に連中は墓穴を掘ったのかもしれない。
こいつらが持ってる情報次第で、攻め落とせる可能性も見えてきた。
「ともかく、夜まで待つしかねぇ。
それなら確実に会えるからな」
「……仕方ねぇか。
俺はそろそろ戻るぞ」
「そうしろ。
あまり離れると怪しまれる」
……ここまでだな。
男たちの眼前に降り立ち、言葉にした。
「動くな。
お前たちを拘束する」
「――なッ!?
誰だてめぇは!!」
「よせ。
……俺らに何の用だ、少年」
「言葉にしなきゃ伝わらないなら言ってやるよ、
巧く潜伏できたようだが、俺を欺けると思うな」
軽く威圧を込めて話したが、やはりこの程度では効かないか。
なおも白を切る男の姿は安い三文芝居を見ているようだと思えた。
「何を言っているのか、俺には分からないな。
というか、証拠もなく人を盗賊呼ばわりすればどうなるのか、知らんの――」
一気に距離を詰めて右こぶしを額に叩き込むが、少々威力が強かったか。
後ろの壁に後頭部を直撃した男は、そのまま意識を失って地面に倒れ込んだ。
「くだらない芝居は憲兵詰め所で披露するんだな。
もっとも、そんな態度が続けられるほど憲兵は甘くないが」
「てめぇ!!
何すん――」
ズボンのポケットからナイフを取り出そうとしたんだろう。
手を入れた直後、俺の左足が男の腹部に突き刺さった。
すでに意識の途切れた男へ向かって言葉にした。
「すべての動作が遅すぎる。
お前ら、そんな腕でよく町に潜り込めたな」
ぐしゃりと前のめりに倒れた男に、呆れながら言葉にした。
まぁ、こんな程度の連中ならこちらも助かる。
これなら十分に情報が手に入るかもしれないな。
「ともかく、時間もない。
さっさと憲兵詰め所に運ぶか」
その前に最寄りの詰め所の場所を聞く必要があるな。
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