第59話 信じた男に

 盗賊ふたりを引きずりながら馬車へ戻ると、ヴェルナさんが最後の盗賊に一撃を加えるところだった。


「おー、早かったな。

 こっちもちょうど終わるとこだ」


 地面で悶絶する盗賊の顎を鋭く蹴り上げ、意識を飛ばした。

 俺と同じように両手で男ふたりを引きずりながら、サウルさんも合流する。


「問題は6人分も縛る縄がないことだな。

 まぁ、パルムまで気絶させたまま荷台に転がしておくか」


 3時間程度で着くなら、それでも問題なさそうだ。

 もっとも一般人だったら悪党は縛り上げないと危ないだろうが、暴れるようならもう一度眠ってもらえばいいだけだからな。



 戦利品を荷台へ乱雑に積み終えた俺たちは、パルムへ向かう旅に戻った。

 その最中もしっかりと周囲警戒を続けたが、どうやらこいつらの他にやってくる輩の気配は感じないようだ。


 盗賊行為を木々の陰から狙っていた連中が単独のチームであるはずもなく、拠点となる場所に仲間がいるのは間違いないが、その調査は俺たちの役目じゃない。

 あとは憲兵隊に任せればそれで充分だろう。


 何よりも組織立った悪党を相手にするならそれ相応の覚悟は必要だし、少なからず犠牲者も出ると思えた。

 作戦を立てた上での集団行動をしなければボスに逃げられると思えるから、色々な面で俺たちには相性の悪い相手だ。


 "そもそも3人で何ができる"って話にもなりかねない。

 雑魚どもには目もくれず、ボスを捕らえることのみに集中すればできなくはないだろうが、そうなった場合は逃げた下っ端が周囲に散らばるはずだ。


 俺たちが関われば余計な混乱を招きやすい。

 作戦に参加するのなら、憲兵隊長の指示で動かなければ失敗するかもしれない。

 現場をかき乱すような行動は最小限に留めるべきだからな。


「俺もヴェルナも、知らねぇ誰かに従うのは好きじゃねぇんだ。

 従うなら実力だけじゃなく、考え方に共感できなきゃ無理だろうな」

「アタシらはよ、わがままなんだ。

 気に入らねぇやつの下に付くくらいなら、"自由"を選ぶぜ」


 それを"わがまま"と言うのか、俺にはわからない。

 けど、少なくともふたりが指示に従ってくれたのは信頼あってのことだと、はっきりと伝わった。


「……ありがとう」

「よせよ。

 そいつぁ俺たちの言葉だ」

「だな。

 アタシらはアタシらの信じた男に従っただけだ」


 とても小さな言葉に、ふたりはしっかりと答えてくれた。

 それがどれだけ嬉しかったのか、俺の語彙力で伝えることは難しく思えた。



 *  *   



 空が徐々に赤みを帯び始めた頃、俺たちはパルムに到着した。


 当たり前ではあるんだが、荷台に転がる戦利品の数々を目視した憲兵たちは騒ぎ始め、その説明をしながら隊長格が来るのをその場から動かずに待った。

 こういう時、ハールスとパルムを何度も行き来するふたりがいると心強い。

 顔馴染みであれば必要以上に警戒されることもないからな。


「待たせたな。

 詳細を聞くから詰め所まで同行してくれ」


 そう言葉にされたのは、30分ほど憲兵たちと話したあとだろうか。

 随分と勇ましい顔立ちの男に連れられて、俺たちは詰め所へと向かった。


 この町はそこそこ人口が多いと言われているが、街門近くに造られた憲兵詰め所はトルサとあまり変わらないように思えた。

 年季の入った椅子や机が置かれた部屋で詳細を説明すると、憲兵隊長のウルマスさんはサウルさんから渡された依頼書を確認しながら答えた。


「……なるほど。

 依頼内容と現状把握はできた。

 サウルが一緒なら問題は起きないと信じてる。

 しかしヴェルナが共にいて、盗賊どもが無事だったことには驚きを隠せない」

「すげぇだろ!?

 アタシも大人になったもんだな!」

「念のため言うが、褒めてないからな」


 豪快に笑う彼女にため息をついたウルマスさんは、白い目を向けながら話した。


「……まぁいい。

 ハールス冒険者ギルドのお墨付きに加え、お前らが一緒なら調べるまでもない。

 だが盗賊の捕縛に関する報酬は情報を精査した上でパルムの上層部が決定する。

 数日は時間がかかるかもしれないが、入手したもの次第で金額は増えるだろう。

 急遽パルムを離れる必要が出た場合は、この詰め所まで足を運んでほしい」

「わかった」


 俺が短く答えると、笑顔を見せたウルマスさんは言葉にした。


「ようこそ、パルムへ。

 少年の勇気ある行動に、憲兵隊を預かる者として深く感謝する」

「なんだ、俺らはハルトのおまけか?」

「折角綺麗に締めてるのに、話の腰を折るなよ」


 どこか楽しそうにも思える声色で、彼は答えた。

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