第5話 お腹を空かせた少年


「……申し訳ない」

「いいのよ。結局、貴方は強盗じゃなかったみたいだしね」


 私の目の前には、行き倒れの少年が川で汲んできた水を大事そうに飲んでいる。

 どうやら彼は本当に迷い人だったらしい。


 だけどなんで王都からやって来たばかりだというのに、こんなにも泥まみれになっているのだろう?

 彼に事情を聞いてみたんだけど、本人は何も覚えていないって言うし。

 それを信じるなら、今の彼はいわゆる記憶喪失の状態らしい。


 見た目はこの国では珍しいサラサラの銀髪。

 背は私より少し高いぐらいだし、歳もたぶん私と同じ十六歳ぐらいかな。

 一体どこで何をしたのか、泥で全身が汚れていたけど、顔を雑巾で拭いてあげたら息を飲むほどの美形だった。

 もしかしたら、王族か貴族の隠し子だったりして。

 自分では何故か家魔法で家を出せないって言っていたし、私みたいに迫害されて追い出されちゃったのかも。


 とまぁ、彼の介抱をしている間に分かったのがそんな感じのことだった。

 そして、唯一の手掛かりが……



「レーベン。これは貴方の名前なのかしら?」

「……たぶんね。生憎と、そのドッグタグしか持ち物が無かったんだ」


 キッチンのテーブルの上にある、一つのチェーンネックレスに二人の視線が集まる。

 彼の首から提げられていたシルバーのアクセサリーが、我が家の唯一の明かりである蝋燭の火でユラユラと揺らめいていた。



「まぁ、分からないならそれでも良いわ。その様子だとお腹も空いているでしょ? 今から何か作るわ」

「――うっ。重ね重ね申し訳ない。実はもうずっと何も食べていなくて……」


 どうやら図星だったようで、お腹を抱えながらグッタリとこうべを垂らしてしまう。

 さっきからグーグーとお腹が鳴っていたし、恐らく空腹で倒れてしまったのだろう。

 彼の様子を見ていると、何となく幼い頃に近所で可愛がっていたふわふわの毛並みのワンコを思い出す。


「いいのよ。それにそんな堅っ苦しい言葉遣いは止めて欲しいわ。私たち、同い年ぐらいでしょう?」

「いや、そんなわけには「やめないと、ご飯は抜きよ」わ、わかり……分かった。お願いするよ」


 それで良いのよ、と答えると、より一層レーベンは困ったような顔でポリポリと頭を掻く。


 ふふふ。レーベンは歳の割に落ち着いた態度だし、悪い人でも無さそう。

 それに目尻を下げて苦笑いをする彼は不思議な愛嬌があって可愛いしね。


 私はついつい口元を緩めそうになるのを我慢して、奥にある食品庫へと向かった。



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