第4話 真夜中の訪問者


 今日も苦いだけで美味しくもない夕ご飯を食べ終わった。

 明日から食べるものをどうにかして手に入れなくっちゃだ……でも、どうやって?

 疲れた身体でそんな考え事をしていたら、いつの間にかキッチンの椅子で座ったまま、ウトウトとうたた寝をしてしまっていたらしい。


 ――トントントン。


「う……ん……?」


 まだ幸せだったころの夢を見ていた。

 お母さんが居て、一緒にご飯を作って食べている夢。

 やっぱり一緒に食べるご飯はおいしいね、って言おうとした瞬間。

 私は玄関の方からドアをノックする音で目が覚めた。


「……誰かしら」


 涙で濡れた目をゴシゴシと擦りながら、ムクリと起き上がる。

 せっかくの幸せな夢を邪魔されたこともあって、今の私は不躾ぶしつけな来訪者にイライラしていた。


 第一、街の外れにある私の家を訪れる人はまず、居ない。

 窓を見てみれば、外はもう真っ暗だ。

 いつの間にか雨まで降っていて、大きな雨粒が風に煽られてバツバツと窓に叩きつけられている。

 こんな中、外を出歩く人なんてオカシイ。


 もしかしたら盗賊かもしれない。

 こんな何もない私の家を襲ったってしょうがないと思うけれど、ここに私の味方は居ない。

 だから出来る限りの用心は必要だよね。


 納戸に置いてあるモップを片手に、そろりそろりと物音を立てないように忍び足で玄関へ向かう。

 もし本当に盗賊だったらこんなのじゃ敵うわけもないけれど、無いモノはしょうがない。



「……どちらさまですか?」


 取り敢えず、扉の向こう側に居るであろう人物に話し掛けてみる。


「すみません、旅の者ですが。行く当てが無くて……少しだけ軒先のきさきを貸しては貰えませんでしょうか」



 ……あやしい。

 返ってきたのは、若い男の声だった。

 一見丁寧な語り口調だけど、この男が言っていることは矛盾だらけ。


 だって旅人は旅の間も自分の家に泊まるのが普通だし、いくら街の外だからって少し歩けば王都がある。

 だから行く当てがないからって、わざわざ私の家に訪れる理由にはならないのだ。


 

 だがこの人を追い返すには、まだ早い。

 不審者を問い詰める衛兵にでもなった気分で、スゥっと目を細める。

 もう少しだけ情報を聞き出してみよう。



「……もう少し南に向かえば王都がありますよ?」

「……実は王都からやって来たんです」


 それを聞いた私はつい笑ってしまいそうになり、慌てて口を塞ぐ。


 だって、余計に怪し過ぎるんだもの。

 夜に王都から出て行く当てがないなんてこと、有り得ない。

 理由が理由になっていない時点で、この男を家にあげるという選択肢はかき消えた。


 これ以上関わり合いになるのはお断りしよう。

 だけど、彼にすみませんが、と言い掛けたところでドサッという何かが落ちる音がした。


「え? な、なに??」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまったが、家の外からは何も返ってこない。


「ちょっ、どうしたのよ!? もしもし? もしもーし!!」


 ――トントン、ドンドンドン!!


 動揺し過ぎて逆に私が内側からノックをするという、ワケの分からない行動に出てしまう。


 ……が、遂に何の反応もしなくなってしまった。

 果たして彼に何が起こったのか?

 つい気になった私はチラ、と僅かに扉を開けてみることにした。


「ちょっ、大丈夫!?」

「ううっ……」


 扉の隙間から見えたのは、壁に寄りかかるようにして崩れ落ちているボロボロな姿の少年だった。



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