第3話 真っ暗な家



「はぁ……何も生卵を投げつけることは無いじゃない。ヴァルトの国で家への攻撃は重罪だって分かっていないのかしら?」


 やっと帰宅した私は、ヒマワリ平原に建つ自分の家の壁を雑巾で一生懸命に拭いていた。

 本当は家を再召喚すれば外壁も内装も元通りになるのだけど、さすがに卵の白身がベットリとついた壁は……何となく嫌だ。



 基本的に、イエ族は建物を建てることはない。

 やっぱり手入れの必要が無い自分の家が一番便利だし、家族ファミリーになれば家を繋げることが出来るから。

 だからイエ族は家と家族ファミリーを何よりも大事にする。

 それを傷付けるものは、誰であろうとも絶対に許さない。



 ――だけど、私は私の家が大嫌いだ。



「はぁ。なんで私の家ってこんなにヘンテコなんだろう。家具が使えない家なんて住めないじゃない……」


 夕焼け色に染まった家を見上げながら、深くて長い溜め息を吐く。

 掃除を終えた私はバケツの水を捨てると、隣りにある川で綺麗な水をみ直す。

 よいしょよいしょと重たくなったバケツを抱えながら、家の扉を開けて帰宅する。



 見た目だけは凄く立派な私のおうち。

 見惚れるほどに真っ白な外壁に、透明な窓。

 雨漏りなんてしないし、誰も見たことの無い家具だって置いてあった。


 初めて召喚した時は、周りの人も驚いていたっけ。

 だけど生活するのに必要なランプもついてないし、料理の為のカマドもない。

 かまがついてないからお風呂なんていつも冷たいし、井戸も無いからこうやって川の水を持ってこないと料理もできない。


 ……いったいコレのどこが家なのか。


 どうして私だけ、こんな家に住むことになってしまったの。

 だけどその問いに答えてくれる人は、誰も居ない。



 真っ暗になってしまった家のキッチンで、私は洗った雑草をザクザクと切ってサラダを作りはじめる。

 考えれば考えるほどに、どうして、なぜ、という思いで頭がいっぱいになってくる。

 無意識に包丁を握る手が強くなり、まな板に黒いシミがポタポタと落ちていく。


「なにやっているんだろう、わたし……」


 気付けばまな板の上の雑草は無残にも微塵みじん切りになってしまっていた。

 もう何度目か分からない溜め息を吐きながら、コトリと包丁を置いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る