第3話
駅前へとあてどなくやって来た陸は、想像以上の人出の多さに少し困惑した。
幼少の頃より見知った街ではあるが、勤めていた工場と寮は、駅から離れた郊外に位置しているため、久しくこちらへやって来ることはなかった。
バスロータリーに面したスーパー前は買い物客で賑わっていた。
区画整理を経て多少変化した部分もあったが、通りに構える店の面々は変わらない。
パチンコ屋の喧騒、昔馴染の美味しいコロッケが自慢の総菜屋の匂い。
久々に見る光景に陸は懐かしさを覚えた。
裏路地に入ってしばらく歩みを進めた陸は、ふと足を止めた。
そこは店内を解体整理されている、中学生の頃に陸が友人達と通っていたゲームセンターだった。
当時は種々のゲームが流行していて、皆競い合うように熱中し、腕の立つ子は仲間内で一目を置かれる存在となっていた。
外壁の看板は既に取外されていた。
照明が消えた薄暗い店内へ足を踏み入れると、中のゲーム機は全て撤去されていて、あの頃の面影を残すものは何も存在しなかった。
壁紙が剥がされてコンクリート壁がむき出しとなった店内は静寂に支配されていた。
ただ陸の脳裏では在りし日の記憶が
見知らぬ大人たちからバトルアクションゲームの勝敗で言いがかりをつけられ、喧嘩を吹っ掛けられたこと。
中学生の立入規制時間を超えてもなかなか帰らずにゲームに熱中していたところ、店長にどやされて追い出されたこと。
全てが懐かしく思い出されると共に、あの頃の仲間達と久しく連絡を取っていないことを実感した。
時代の移り変わり様は激しく、あれ程隆盛を誇ったゲームセンターも各地で集客に苦戦していると耳にしたことがある。
そこへコロナ禍の影響に追い打ちを掛けられて、この店が持ちこたえられなくなったのも想像に難くなかった。
けたたましい電子音に満ちていた世界はもうそこにはない。
それでもそこには喧騒の記憶が確かに残っていた。
薄暗い空間の中へ微かに差し込む外光の中に塵の粒子が舞うのが見えた。
その無数の粒子はまるで陸の想い出を包んでいるかのように淡く輝きながら、静かに薄暗い虚空へと立ち昇っていった。
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