第16話 助命へ道筋

 駒姫は初めて会った治部殿を見て父上と違って線の細い神経質そうな人という印象を持った。この人が自分を助けてくれたのが少し不思議に思えた。放し方も端的だし、いつ北政所様にお会いしお礼を申し上げたいと言ったらいいのかしらと考えていたが、治部のほうから北政所に礼を言うようにと言ってきた。なんだか事務的というかあっさりと会える事になったので大丈夫かしらと思いもしたが一の台様達を助ける為にも北政所様にお会いしなければと改めて決意した。


 

 北政所は優しそうな人だった。治部殿の案内で父上と一緒に会う事になった。それを聞いた徳川様も一緒に。自分の無事な姿を見る良かったとおっしゃってくれた。

「北政所様、この度は誠にありがとうございます。この恩になんと報いればいいのか」

父上と一緒に何度もお礼を申し上げた。

「駒姫、聞きずらいのですが聚楽第の様子はどうでしたか」

後に残った一の台様達の様子を聞いて来られた。

「北政所様、一の台様幸は無実です。なのに罰せられようとしております。お子様達は異様な雰囲気を感じ日々怯えております。どうかお助けください」

一の台様から密かに託された手紙を北政所様に手渡した。


 おねは駒姫から渡された手紙を何度も読んだ。一の台は自分の事は諦めている。若い命や子供らをどうにか救ってほしいとあった。これは聚楽第の総意だと・・・。幼い子らが流罪になれば耐えられると思えない。姫君達は流罪地で死ぬ事になるだろう。若君達は死罪になるのは覚悟しているが出来る事なら救ってほしい。その為なら自分は死んでもかまわないと。関白の正室としての誇りと秀吉に対する怒りが文面にはあった。佐吉と言って三成に手紙を渡す。三成も静かに読み出し、目を伏せた。

「若君達は難しゅうございます。淀殿が決して許さないでしょう。姫君達の出家も・・・。流罪地を僻地ではなくどこか安全な場所にし、常に監視すると言って説得しても・・・」

難しいだろうと言った。秀吉が厳しく当たると言った。それに便乗した淀がお拾の邪魔になる者達を死罪にするようにと言い出した。だが大老や朝廷が抗議して死罪は不当であると訴えて流罪で決まりつつある。これ以上の譲歩は無理だろうと三成は言ってきた。

「出来ても姫君達の出家まででしょう。当初は出家で話しておりましたゆえ」

三成は手紙を家康に渡しながら言った。もう少し、内府に気を使いなさいと言いたかったがおねはこらえた。家康は気にしてないと首を振り手紙を読み始めた。

 

「この件を始め話し合った際に太閤様は厳しくあたると某におっしゃいました。ゆえにどこで線引きするかを決めたのです。若君達は死罪、ご正室、子を産んだ側室と名の知れた侍女は流罪、他は出家させる。出家の中には姫君達も含まれたおりました。お命を奪う気はありませんでした。駒姫は最上家へ返す事はすぐに決まっておりました」

全員死罪にするつもりはなかった。でも急に変わったのだと言った。誰もが淀の事を考えた。義光は今にも淀のところに行きそうな程であった。


「どうにかなりませんか。せめて流罪地だけでもどうにか」

僻地に送るな事はしないでほしいと駒姫は訴えた。何もないような島に送られてら子供でなくても女性は耐えられないだろう。せめて監視されても心穏やかにいられる場所であればと思った。そうすれば実質謹慎処分になる。流罪地からでなければ姫君達もその地で健やかに育たれると。


「いっそこと治部殿のが監視役になられればよかろう。若君達の件も治部殿がされるのだから今回の一件全て自分に一任して欲しい言えば太閤も何も言うまい。流罪地を佐和山にすればいい。であれば我ら五大老のも手を貸しやすい」

手紙を読み終えた家康が言ってくる。三成はそれは流罪ではなく謹慎だと言いたかったが、駒姫とおねが自分を見てくる。そう訴えてくれと目が語っている。狸め、監視役が足りないだろうと言って自分の部下を送ってくる気か。間者も含めて。

「場所がありませんぞ。某の城は実務優先ゆえ、他の方のような内装ではないですぞ。妻のうたにも苦労を掛けるような有り様ですゆえ。見にくれば分かりますぞ」

存外に聚楽第の者置くような城ではないと告げた。本当の事だ城の中は簡素なのだ。見たら驚くかもしれない。


「この話が上手くいったら我ら五大老が佐和山に屋敷を建てましょう。そうすれば治部殿も安心し、太閤の説得にしやすくなりましょ」

笑いながら言う家康に再度心の中で毒づく。自分を家康が動かしたと言いたいのだろう。三成は自分に屈したと。おね様の為にこいつの言う通りに動かないといけないのは嫌だが二人の気持ちを蔑ろには出来ない。義光も自分見ているし。

「分かりました。太閤様に言ってみます」

一瞬、家康が勝ち誇ったような表情をしたのを見た。こいつにしてみたら結果はどうでもいいのだろう。おね様に気を遣った。自分を動かしたという実績が出来た時点で目的を果たしたのだら。

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