第15話 三成
太閤と淀が去った。三成はため息が出そうになったのをこらえた。結局淀君殿を優先するのかという思いがあった。お拾様のご生母であるから側室の中でも優遇されるはしかたないが、おね様の事ももう少し考えてほしいと思った。ここ最近二人は会えば聚楽第の事で怒鳴り合っていると聞いている。
「治部も大変だったな。腹を切る覚悟で諫めるとはおもわなかったぞ」
利家がそう自分に語りかけてくる。戦下手な自分をこの人はあまり好いていないのは知っている。ずっと戦働きで身を立てたこの人から見れば自分は口が達者な小賢しい寺小姓のままなのかも知れない。ただ、徳川に対する事では協力出来る相手とは思っているようだが。少し見直したと言わんばかり利家の視線に軽く頭を下げた。
「まこと驚きましたな。治部殿がここまで太閤に反対されるとは思いませんでしたぞ。おかげで我らの説得が通じましたぞ」
家康はそう言った。実際は淀のおかげであるがこちらを持ち上げる気でいるらしい。抜け目ない男だと思った。今回の一件で最上へ影響を持とうとしている。そして他の大名達にも。自分は太閤を宥める事が出来るとそれとなくしかし確実に噂を流すだろう。あの三成も困って自分に泣きついたと言いつもりか古狸めと一瞬睨み付けたくなったがこらえた。今はこいつの力が必要だ。まだまだ働いてもらうぞ。
「お二方のおかげです。助かりました」
礼を言うとなぜか二人に驚かれた。特に家康は礼を言われるとは思わなかったなのだろう。
「聚楽第の者達の件ですが、皆死罪になる事は豊臣家の為になりません。民衆はこれからは争いが終わり泰平の世が来ると思っていたのに朝鮮出兵。ここでさらに幼子まで一族郎党を許さぬような事があればみな太閤を様を恐れやがて反発に繋がります。死罪を避け、一部の者は流罪にし他は出家に留めたいのですが、お力を貸して頂けないでしょうか」
流罪にするというと二人は難色を示した。全員出家ではいいと思っていたのだろう。だがそれでは秀吉様いや淀殿が納得しない。正室や子を産んだ側室とその子供達は流罪でないと皆の命は救われないだろう。
分かっていたといえ厳しいなと三人で話し合った。朝廷から死罪は駄目だと難色を示し流罪と出家のほうで説得していくと決めた。
「治部は辛い立場だな。男児の処刑の監督を秀吉は命じるぞ」
利家がそう言ってくる。三成もそうなると思っている。他の者は嫌がって逃げるだろう。幼い子を殺すのを見届けるのはいいものではない。遺体は恐らく打ち捨てるように言うだろう。首はさすがに晒すような事はしないと思うが・・・。
「前田権大納言殿、我らも北政所様に協力して朝廷や他の大老を動かして太閤を説得しなければなりませんから中々骨が折れますぞ」
家康は口でそう言っているものの内心は笑っているのだろう。一人の女に振り回されていると。
あの忌々しい話し合いから少したった頃に最上家から今回の礼を言いたいので訪ねたいと使者が来た。
駒姫を伴って義光が来るらしい。礼なら使者がさんざん言ってきたから別にいいものをと思ったが左近がお礼を受けるだけですよ、会わない方が変に思われますというものだから会う事になった。別に手紙でもいいのにと言うとそんなのだから横柄だと言われるのだと言われた。
茶室に案内する。ゆっくり茶でも点てながら話したほうがいいだろうと思ってだが大丈夫だろうか。駒姫にしてみたら自分を死罪に仕掛けた男に会うなど嫌ではないのか。
「この度は娘の命を救って頂き、お礼申し上げる」
義光と駒姫が礼を言ってきた。礼は不要だと伝えた。こちらこそ巻き込んですまなかったと謝った。
なるほど噂になるわけだ。駒姫は美しい姫だ。これからもっと美しくなるのだろう。義光は歴戦の武将らしい風貌を兼ねそろえていた。
「治部殿のおかげで私は命を助かる事が出来ました。両親や再び会う事が出来たのは治部殿のおかげです。感謝してもしきれません」
駒姫はそういって再び頭を下げた。
「某一人の力ではありませぬ。北政所様が太閤様を説得して下さったからこそです」
礼を言うならおね様にと言うと、是非お礼が言いたいと言ってきた。おね様に会えるように取り計らうというと嬉しそうだった。
義光はこれからは石田家とは仲良くしていきたと言って姫を連れて帰って言った。抜け目ない人物だ、自分を通じて中央に繋ぎを付けたいのだろう。そして徳川との間にも。
おね様に最上が礼を言いたいで会ってほしいと連絡せねばいけない。早い方がいいだろう。そのついでに聚楽第の件を話さなければ。
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