第13話 一の台
聚楽第に残る者達の処分を伝える使者が来た。皆が死罪。武家の習いに従い若君達は死罪を覚悟していたが、皆死罪になるとは・・・。そこまで太閤様は関白様を許さないのか・・・。お拾様の為か、お家騒動を防ぐ為に。年若い側室達を見た。皆を集め自分達に使者に告げられた事を言うのが辛かった。我が子を出しめ泣いている者を慰めるすべをもたない。せめて一緒に逝けるのが救いとでも・・・。駒姫は呆然としている。彼女は側室ではないのに死罪になった。聚楽第に入ったというだけで、まだ目通りもすんでいないものさえも死罪にするのかと怒りが湧いてくる。いつ牢に移される事になるのだろう。不安が心の中で渦巻いている。親に言われ年の離れた関白様に嫁いだ。娘も差し出した。なのに見捨てられた。秀吉が関白になれたのは父上の根回しのおかげなのに。正室になったのも後継者の教育や支えとなるようにと言われたからなのになぜ・・・。自分がしっかりしないといけない。最期の瞬間まで。彼女らを支えてあげられる自分だけ・・・。
また、使者が来た。あの太閤の重臣の石田治部の家臣が来た。我らの刑を実行するのは治部か。抜かりなく行うつもりだと分かった。噂に聞く男なら慈悲なく子供らも手にかけるだろう。太閤の為ならなんだってするような男だと聞いている。
使者の島左近はどうやら駒姫に用があったらしい。そして私も。駒姫を伴い三人で会う事になった。こらちらは緊張しているのにこの男は飄々としている。まるでこちらの事情など知らない様に。
島殿話を聞いて少し混乱している。手紙を書かねば、父上に北政所様と協力して太閤を説得してもらわないと。治部は本当に信頼出来るかは分からない。島殿がこちらを心底同情しているのは分かった。駒姫の両親に渡す手紙に他の側室達の手紙を紛れこませる事は出来ないかしら。声だけでもかけてみよう。もしかしたら一緒に渡してもらえるかもしれない。
苦笑しながら手紙は全て受け取ってもらえた。少しでも刑の撤回へ繋がればいい。自分は無理でもせめて若い者や姫君達だけでも助かってほしい。
暫くして最上家から人が来た。駒姫を迎えに来た。姫は許された。太閤の書状にお咎めなしで家に返される事になったのだが、姫が頑なに出ていこうとしない。自分一人だけここから去るのは出来ないと言っているらしい。皆が許されないのに一人だけ助かるわけにはいかないと言ってくれているのが嬉しく思いますが、別れの挨拶をしないと
「駒姫、貴方が無事に許されてよかった。私の最後のお願いを聞いて頂けないかしら。治部殿に直接会ってお礼申し上げるのです。そして北政所様に会える様に取り計らってもらって」
治部を通して北政所様に会って聚楽第の事を伝えてほしいとお願いした。
駒姫は泣きながらそんな事を言わないで欲しいと言ってくれた。託せるのは貴方しかいないのです。ここの現状を北政所様に伝える事が出来る人は貴方しかいないのと諭した。
「必ず治部殿にお会いします。北政所様に皆さまを助けて頂けるようにお願いします」
駒姫は一の台を見ながら頷いた。自分一人だけ助かる事があってはいけないと、必ず皆が助かるようになんだってするとそう言ってくれるだけ、一の台は嬉しく思った。
駒姫が去った。狼狽えたるもの達を𠮟責し、落ち着かせないといけない。大阪城は太閤派と北政所派で聚楽第の件で揉めている。死罪になっていた駒姫が許されたのは北政所様が治部殿を動かしたからだ。太閤も重臣が北政所様に付いた事で考え直したのだとすると、自分達を死罪にしたがっているのは太閤ではないのかしら?ではだれが・・・。淀殿。彼女しかいない。天下人の後継者を産んだという事が彼女の支えなら、ここは邪魔者溜まり場のように思っているのかもしれないわ。息子を脅かすものは赤子だろうと関係ないと思っているのかもしれない。彼女には実家がない。実家があっても頼りになるとは限らないけれど、落城を経験している彼女はきっと容赦する気がないのかもしれない。駒姫が許されたのはお目通りが済んでいなかったからかしら。だとすると自分達は処刑される。せめて姫君達でも助けてあげないと。死ぬにあまりにも幼すぎる、そうと思えば思うほど涙が出てきた。
また、使者が来た。死罪は一旦保留になると一方的に告げてきた。惨めだと思う。ただ待つ事しか出来ない我が身が惨めで仕方ない。喜ぶ者達を不安にさせない様に毅然と振る舞いましょう。私は関白の正室、その地位はまだいるのですから。
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