第11話 太閤
茶が用意された。話が長くなるだろうと察した小姓が出してきた。よく主人やその周りを見ていると三成は思った。主人の気持ちを察し先回りして動く事は重要だ。
「儂に話があるのだろう。ずいぶん珍しい組み合わせよの。じゃが茶々には関係ないはずぞ」
不機嫌そうに言った秀吉に対し、利家が宥めるように話した。
「分かっていると思うが、今回の件はやり過ぎだ。せめて女どもは出家に留めるだけにすべきだ」
聚楽第への処遇が重すぎる事を告げる利家を静かに秀吉が見ていた。そしてその二人を淀が見ている。冷たく暗い影を宿した瞳で。
「太閤様、前田権大納言殿のおっしゃる通りです。もし、武家だけでなく民衆も慣習に習い助命されると思っております。ここは出家に留めるべきです」
秀吉はこの三成の言葉に驚いていた。常に自分の事を最優先で考えその行動をしてきた男が反対したのだ。
当初は流罪で話していた。正室や側室等は流罪、名のしれた侍女は出家させ、身分の低いものは放逐すると。自分が死罪と言い出したからか・・・。豊臣家の評判を気にしてからかもしれない。悪評が立ちすぎるからよせと言いたいのだろう。
「なりませぬ。謀反人どもを許すなど。皆死罪でなければ」
茶々は秀吉に詰め寄った。寝所で話した事を覆さないで欲しいと訴えた。三成にはなぜ自分の邪魔をするのか、北政所の肩を持つとは何事かと睨みつけた。
家康は面白い事になったと思った。自分を敵視している三成から使者が来た最上の駒姫の件で。三成から連絡を受ける前から最上から太閤に取り成してほしいと連絡が来ていた為、急ぎ京にきていたがこんな事態になるとは・・・。隙が出来た。太閤亡き後の対立構図が目の前ある。てっきり三成は淀側に組みすると思っていたが北政所の影響も受けるのか。三成が北政所の意図を汲むのであれば小西もつくだろう。
豊臣政権で実際に日ノ本の政を滞りなく出来るもは少ない。加藤、福島は武将としては有能で三成は遠く及ばないが官僚と見た時は三成劣る。銭の事、政の事等でまでは気が周っていない。あの二人は大名になっても一武将のままなのだ。だから対立している。それを危惧した北政所が三成を自分側に留めようとしている。自分が彼らの抑えになるようにと。淀にはそれが分からない。自分の味方のはずの三成がなぜ北政所の肩を持つのか。どうしてお拾の安全を確保してくれないのかとしか思わいなのだろう。
子飼いの武将にとって豊臣家は秀吉と北政所が作り築き上げたもの。だからこそ三成は北政所の意図を汲み聚楽第の者達の助命に動いたのだ。隙が出来た。邪魔な三成を抑える事が出来る人物が分かった。色々やりようがある。天下を奪う為のやり方が・・・。
淀を見て思った。自分があの美しいお市の方を死なせた。二度の落城を味合わせた。茶々をお拾を守る為にすべき事はすべてする。だが、おねは自分に対し反対した。お拾の事を考えるなら助命し、決して恐怖で政権を運営するような事はするな、豊臣家の為にならないと。
ずっと苦楽を共にしてきた女が言ったのだ・・・。
「皆の考えは良く分かった。一旦、聚楽第の件は保留じゃ。追って沙汰出す」
これでいい。おねと話さねば。茶々に対する気持ちを打ち明けよう。そしてどうすべきかを昔の様に話し合ってみよう。
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