第6話 手紙
駒姫は聚楽第に来てからずっと不安だった。自ら望んで来たわけではない。行かなければお家取り潰しになるかもしれなったから父の為、家族の為に覚悟を決めて側室になる為に来たのだ。なのに秀次は自分が来た日に伏見に連れて行かれ、そのまま高野山で切腹してしまった。自分は会ったことのない男の一味として謀反の疑いをかけられここから出る事も出来ずにいる。
皆が不安がっている。切腹の知らせがあった日、一の台様が皆を集め話した。男児は殺される事になるから覚悟しておくようにと。自分達は出家し助命されるのが武家の習いであるが軽率な行動をとり付け入る隙を見せるような事はしないようないとおっしゃていた。母から教えられてきたから自分の出家する覚悟はあるが、最上家にも何か処罰されないかが心配で仕方ない。一緒にきてくれた侍女の梅が自分を元気付けてくれているのが心強い。両親に会いたい。弟や妹に会って話したいと思った。
数日後、一の台様がいらっしゃった。硬い表情をしている。処遇が決まったのだと思い覚悟を決め話を伺う。
「今、石田治部殿の家臣である島殿が来ております。石田治部殿は太閤様の重臣であり行政の中核を担っている方です。その方から私とそなたに伝える事があると」
石田治部三成の事は名前は聞いた事がある。太閤の重臣であり文治派の代表格のような方だと。かなり生真面目な人物とも・・・。
「私たちの処遇に関する事かもしれません。急ぎ支度をし一緒に会いますよ」
そう告げると一の台は去って行った。
「姫様、急ぎ支度を。待たせるわけには行きません」
梅に促され、急いで身支度を整える。怯えているような姿を見せるわけにはいかない。最上の姫として侮られるわけにはいかないのだ。
支度を終えると一の台様と一緒に島左近に会った。自分はお咎めなしで最上に返したいと考えている事。自分が関白に会ってないのは彼の主君が連れて行ったからなので、それを疑う余地はない為。咎が及ぶようであれば石田殿が被ると。聞き間違いだと思った。自分の為に身をもって守ってくれるとは思わなかった。
家に帰れる。家族に会える。その為に、その旨を踏まえた文を太閤様と父に書かねば。
「姫様、文は太閤様には事実のみ書き、寛大な処遇をお願いすべきかたと。殿には島殿と話した事を踏まえ石田様と話し合って欲しいとお書きになるべきでしょう」
梅に手紙に書く内容を相談しているとそう言ってきた。
「そうね。そのほうがいいい。石田様も一緒にご覧になられるだろうから。事実だけのほうがいいわね。父上には、石田様に会って私の事や最上の事を話し合って欲しいとお願いするわ」
ここに来て初めて嬉しい気持ちになった気がする。希望が見えてきた。こんな目に合う原因を作った関白を恨んだりもしたが、先の見えない暗闇から抜け出せたような気が。
手紙を書きを終えるともう一度、島殿に会うために客間に向かっていると他の側室の方が数人手紙を渡してきた。どうやら一の台様が声をかけていたらいし。両親への手紙。自分が渡すのは両親への手紙。誰の両親かは言う必要はない。駒姫の手紙なのだから。
一の台様様の一通手紙を持っていらっしゃった。話に出ていた方宛てなのかも知れない。
「手紙がずいぶん多いですな。駒姫様が書き溜めいた御両親への手紙しかとこの島左近預かりもした」
島左近それだけいうと心得た様に頷いた。
良かったと駒姫は思った。この人にはこちらを気遣う情がある。味方になってくれると思った。手紙は両親に届く。私の、手紙を書いた皆の両親へ・・・。
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