第5話 聚楽第
駒姫の準備が整うまでしばらく時間を頂きたいと言われしばし待つことになった。ここは華麗すぎて落ち着かないと思った。目に入る全て秀吉がかつてここをどういった場所にしようとしていたかを物語っている。栄華を極めた城。そしてこれから失われていくもの・・・。
「一の台と駒姫がいらっしゃいました」
下女が声をかけてくる。
左近は礼を取りながら話しかけてくるのを待った。
「表を上げよ」
威厳にみちた女の声が聞こえる。一の台が厳しい表情をしたまま左近に声をかけてきた。側に控えている若く美しい姫が駒姫だろう。少し不安そうな表情をしている。
一の台は左近に話すように促しながらこちらの出方を探っているようだ。
「この度は急なお目通りにもかかわらずお許し頂きありがとうございます。我が主、石田治部少輔より一の台様、駒姫様宛に伝言を言付かっております。他言無用の為、書状でない事をお許しください」
2人とも内密と聞くと驚いたようだ。書状には残せない。太閤様でなく北政所様の意向を優先しようとしているのだ。
「我が主は、駒姫様は関白秀次様にお目通りがかなっていない以上最上の姫君である為、太閤様には実家へ返すように話し、太閤様も賛同しつつあります。姫様には太閤様の意志を固める為、太閤様と御父上様に書状書いて頂きたく存じ上げます」
駒姫には関白に会ってない事、会っていない理由は三成が伏見に連れて行った日だからだという旨を書くように伝えた。姫が不利になる事は三成が被ると言った。三成が駒姫の件で責任を負えば秀吉も少しは自重するだろう。
「一の台様には、非常に申し訳ございませんが、若君たちはお覚悟をして頂きたい。ただ、さる方が非常に心を痛めており、皆様を助命する為に動いていらっしゃいます。太閤様にもっとも近く苦楽を共にされてきた方です」
小さな声で一の台はおね様がと呟いた。
「島殿、すぐに手紙を書きます。待っていてくさい」
そういうと駒姫は急いで部屋を出て行った。
「治部殿はどこまで覚悟をお決めに?そなた1人の考えでばないだろうな」
姫がいなくなった後、一の台が聞いてきた。左近がかって言っていると思ったらしい。鋭いなと思いつつ現状を話した。
「治部様は駒姫の関しては自分が責任を負うつもりで太閤様と話されております。そして、聚楽第の皆さまに関しては当初、皆さまは流罪と考えておりまた。ですが、ある方がどんなに厳しくとも出家に留めてほしいと、出来るならば男児も死罪ではなく出家で済ませてほしいとおっしゃっており、まだ処遇が決まっておりません」
「そう・・・。出来るのであれば武家の習いに従ずみな許されて欲しいが無理でしょう・・・」
彼女自身には子はいないが、側室の生んだ男児はみな・・・。分かっていても辛いものがあるのだろう。公家の娘として生まれた彼女には辛い事かもしれない。まて、公家?彼女は菊停春季の娘。
「一の台様、御父上様に頼んで朝廷に働きかけ出来ないでしょうか。貴方様とあの方が力を合わせて朝廷に働きかければ太閤様も無視できないはず」
「したくても手紙すら出せないのです。出入するものはすべて前田殿の息のかかった者。誰を信じ、誰が信じられないかも分からい。自ら助かる為なら他者を売りかねない」
密かに手紙さえだせないのだ。見つかればそれは謀反の証にされる。内容などどうでもいい。密書を出した事が罪になる。
「この島左近が預かります。表向きは忠告する為によった振りをして手紙を渡して参ります」
「何もしないよりはましか。そなたではなく北政所様を信じます。少しでも多くも者を助かるなら」
自身ではなく北政所様という辺り、胡散臭く見られたのか背後にいる三成の評判が悪すぎる為か分からなくなった。
二人の手紙が書き終わるまで茶を飲みながら待つことになった。言ったものの男児は厳しいだろうな。いっその事死んだ振りをして誰かの養子にでもしたほうがいいのではとバカな考えが浮かんだ。死罪の際は公開処刑になるからまず無理だ。非公開で尚且つ太閤が首の見分をしない上、全員ぐるでないと・・・。
ばかな事を考えていると2人が戻ってきた。駒姫は嬉しそうに手紙を渡してくる。太閤と両親宛てた手紙・・・やけに多い。どうやら一の台様が他の者にも声をかけたようだ。どうりで遅いわけだ。皆が手紙を書いていたのだから。
「たしかに駒姫様の手紙をお預りしました。この島左近、命にかえても太閤様と御両親に届けて参ります」
預かったのはあくまで駒姫の手紙のみ。年若い娘が不安なあまり手紙を多く書いても別におかしくない。
聚楽第を後にしながらまずは今出川家に出向かなければと思いながらも後ろを一度振り向いた。自分の行動次第で彼女らの命運が決まるのを確認するする為に・・・。
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