新時代占い研究所

 着信があった。


 番号を見ると知らない番号だった。エス氏は不審に思いながらも出た。


「もしもし」


「もしもし。こちらは新時代占い研究所。新時代の占いを体験してみませんか?」


「なに? 新時代の占い? それは、なんだ?」


「新時代の占いは旧い占いと違い、手相や顔で判断するのではありません。全てこちら側のAIが行うのです」


「なんだ、それなら占いではない。AIから統計を取って、誰にでも当てはまる当たり障りのない答えをするのだろう。期待して損をしたよ」


 そう言って電話を切ろうとすると、相手は慌てて止める。


「ちょっと待って下さい。一度占ってみませんか? そうすればこれが占いであることが分かるはずです」


「そうか。ならば私が明日靴を右から履くか、左から履くか教えてくれ。それを聞いて逆にしてしまえば、その新時代占いだかAIだかが間違いであることが証明できる」


「それを聞くのは、オススメしませんよ。このAIが占ってしまえば未来は決して変わりません。そのような質問をした方は皆、不幸な目に合っていますよ」


 それを聞いてエス氏は元気になった。


「ほら、答えられないからそうやってごまかそうとするのだ。不幸な目が、なんだ。早く占ってくれ」


「仕方ないですね」


 相手がそう言うと、電話の向こうでなにやら高い機械音が不規則に聞こえてきた。そして少しするとそれも聞こえなくなり、相手はゆっくりと口を開いた。


「答えは、あなたが明日靴を履くことはない、だそうです」


「なんだ、それは。どういうことだ」


 エス氏が聞くと、相手は低いトーンで、喉の奥から絞り出すような声で付け加えた。


「それから、AIから海外の殺し屋へ依頼が送信されています。標的はあなた。きっと今日の間にも、あなたは殺されてしまうでしょう」


「な、なんだと? それはひどすぎる。どうして止めてくれなかったんだ。あぁ、AIもAIだ。なぜ私を殺そうとするのだ。今からでも依頼の取り消しはできないのか」


「無理でしょうね。私はこのAIの行動に干渉する権限を持っていないのですから。それから、あなたはAIになぜ私を殺すのか、と問いましたよね?」


「あぁ、言った。そうだ、そのAIで私を助ける方法を占ってくれ。そうすれば、私は生きられる。」


「先ほども言いましたが、このAIが一度占ってしまった未来は変えられませんよ」


 エス氏は絶叫した。どうしてこんなわけの分からないAIに殺されなくてはならないのだ。理不尽に憤慨しながらも、己の行く末を想像して泣きわめいた。


「こんなひどいことはないぞ」


「仕方ないのです。このAIには的中率100%になるように設定されています。的中率を100%に保つにはどんなことだって行いますよ」


「ロボットの三原則を無視しているじゃないか。こんなドライな占いは初めてだ」


「そうでしょうね。これは新時代の占いなのですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る