第3話 ただの旅路から
二人旅を初めてから二年が経った。
ただただ流浪の日々。
夜盗や山賊を返り討ちにし、時にはそのアジトに攻め入り、農家の手伝いをし、薬を調合し、魚を釣り、獣を狩り、そして週に2,3度稽古をする。
東馬は気紛れに。
龍厳は死に物狂いで。
朗らかな優男と仏頂面の強面の二人組は、どこに行っても最初は奇異の目で見られてはいたが、数日もすればすっかり馴染んでしまっていた。
親しみやすい好青年は老若男女問わず、誰とでもすぐに打ち解けた。
無口の大男は力仕事、体力勝負の仕事をする男達にやたらと歓迎された。
大きな手で器用に子供の玩具を修理、手入れなどをする事もあり、最初でこそおっかなビックリだった子供達も、いつしか龍厳に遊ぼうとせがんでくる事も珍しくなかった。
勿論、仕事の時も、修理の時も、遊びに付き合う時ですら、終始無言で仏頂面のままだったが。
どこでもそんな調子であったので、定住を望む声も珍しくなく、中には二人に縁談を持ちかける者や、士官を斡旋しようとする者までいた。
しかし、長くても一週間、短いと一日として留まる事もなく旅を続けた。
雨の日も、風の日も、雪が降ろうと台風が来ていようと、二人にはまるで何事もないかのように旅を続けた。
龍厳はその事に対し、何も聞かなかった。
東馬は一度、引き留めようとする人に答えた事があった。
『我らには鬼が着いてくるのでね。迷惑はかけられん。』
『気楽な旅を続ける為の方便』
龍厳はそう思った。
『何かやらかして追われる身か?』
とばっちりは御免と、強く引き留める者はなかった。
それから更に月日は過ぎて、三年目に差し掛かる頃、鬼が出た。
誰もいない夜の街道での事だ。
雲のない満月の光で見えるのは、いかにもと言わんばかりの、大きな体躯、ゴツゴツと盛り上がった筋肉、全身赤く、牛のような角もある、鬼そのものだった。
身の丈は3メートル程だろうか。
裸足に尖った爪。
手には2メートル近い太い金棒。
ぼろぼろの袈裟を纏い、憤怒の表情。
やや細い目をカッと見開き、血走った目で二人を見下ろしている。
大きな鼻。
への字に固く閉じた薄い唇。
突然地面から沸いてきた鬼を見ても、まったく動じる様子のない東馬とは対称的に、龍厳はひどく動揺した。
鬼など見るのは初めてだったから。
それは確かに大きかったが、それ以上に驚いたのは、その顔だ。
見覚えのある顔。
一生忘れないであろう顔。と、言うよりは、一生付き合っていく顔。
東馬は振り返る事なく、いつもの調子で、まるで『蕎麦でも食べて行こうか?』くらいの感覚で言った。
「龍厳、どうだい?自分の顔をした鬼を見た感想は?」
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