第30話「いよいよ生徒総会」


 それから時間は経ち、生徒総会がある金曜日がやってくる。


 生徒総会はうちの高校ではかなりの時間を使う行事の一つであり、新たに発足した新生生徒会が初めて躍動する場でもある。


 生徒会選挙から生徒会発足まで、それからすぐに行われる行事としても、何よりこの舞台が唯一生徒会が主役の行事でもあり、そのせいか、一般生徒の男たちからしたら欠かせないものになっているため他校と比べて盛り上がり方は異常。


 サッカーW杯と引けを取らないレベルに大盛況する。


 まぁ、先生方の狙いよりもやや斜め上の観点で盛り上が利を見せちゃってるのは少しアレだが、やらないよりはマシだというのも最近の保護者からの意見もちらほらあるとかないとか。


 とにかく、この行事の評判は置いておくとして、今回は先輩の未来と将来がかかっている前哨戦。


 美鈴の理解もある。

 存分にかましていかねば失礼ってやつだな。


 体育館のステージの袖裏から様子を見つめる先輩の姿が見えて、俺はパイプ椅子を設置し終えると隣に並んだ。


「先輩、凄いっすね。この熱気」

「翔琉君……まぁ、初めてだもんね」

「はい。凄いとは聞いてましたけど、ここまでとは」

「まぁ、男子生徒は美鈴君とか鈴夏君を目的にしてるようだけどね」


 またもや卑屈になる先輩、間違っているわけではなかったがああいう男の子もいることを思い出してほしいものだ。


「不純な動機も動機の一つですし、俺は——彼女の活躍を見に来ていますけど?」

「っき、緊張するからやめてよ」


 あまり強く否定しないことに驚いたが頬は赤く染まっていた。

 

「まぁ、あれですもんね。いちおう保護者も来ますし他の生徒の親からも評価されるって考えると俺もしっかりせざる負えないっすね」

「全くその通り。私のおやはもちろんだけど、君は書記としてやらなきゃいけないことが多いんだから。それに、先輩の書記もしっかり見てるんだからね?」


 先輩が指さすと三年生が並んでいる席に手を振る男子生徒が一名。

 どうやら、先代の書記さんらしい。


 だが、俺が引き継ぎをした人は確か2年生だった気がする。


「先代生徒会書記の先輩。私が見習いしてたときに書記だった人ね」

「あぁ、そう言うことですか。知らない顔だなぁと」

「それに——ほら、あそこには先代の生徒会長がいるし、隣には彼女の先代生徒会書記がいるし、向こう側には会計の先輩もっ」

「おぉ、さすが。見つけるの速いですね」

「皆の顔はよく見るようにしているからね」


 すぱすぱ見つけていく先輩も先輩だったが、それに対してすぐに手を振る先代の方々も凄かった。


 やはり、俺以外の生徒会メンバーはちゃんとした志を持ってきているのが目に見えて分かる。


「よし、もうすぐね」


 時計の針は時刻9時をさしていて、スタートまで残り10分。

 選挙の集計や校則の見直し、各部活へのお金の分担、文化祭のお金の分担などその他諸々とやることが多いがここから始まる初陣に緊張感と楽しみを残しながら、俺は袖裏に再び隠れた。



 そうして、10分が経ち、初陣が始まった。





☆☆☆





「いやぁ、先輩っ。それにしても凄かったですね、まさかあんなことで揉めるに 揉めるなんて考えても見なかったですよ!」


 始まってから約6時間が経過し、様々な紆余曲折を超えながらこの生徒会で初で最後の生徒総会が終わったのだった。


 生徒を教室に戻し、帰りのショートホームルームを終らせて戻ってきて今は体育委員会と生徒会メンバーで後片付けをしていた。


「そうだね。でもまず、口じゃなくて体動かしたらどうかな?」

「え、す、すみません」


 緊張から解き放たれて気分よく話かけると、先輩はなぜかジト目でそう言った。

 ここはなんか感想をいってほしかったんだが……あれ、またまずいことしたのかなと若干不安になる。


「まぁまぁ、真礼ちゃん。翔琉ちゃんがかわいそうだから乗ってあげなさいな」

「っ——」


 すると、横からパイプ椅子を消毒している鈴夏さんが優しく話しかけてきた。

 そんな言葉にぎくりと背中を刺されたようなリアクションする先輩に、俺は少しハッとして訊ねてみた。


「もしかして、先輩。緊張してます?」

「——え⁉ き、緊張なんて私がするわけっ!」


 どうやら俺の予想は当たっていたようで、先輩の反応は予想以上に図星そのものだった。


「体の動きで丸分かりですよ、先輩」

「そうね、緊張してるのがもろに伝わってきたからね」

「あ、やっぱり美鈴も思うか?」

「えぇ、そりゃもう。まったく、そんなんで務まるのかしらね?」

「ん、務まるって何がぁ?」


 事情を知っている美鈴が挑発気味にそう言うと先輩も負けじと食らいつこうとしていたが、ここにきて鈴夏さんがお得意の「何々入れて~~」を発動したことでバレないように二人が協力する姿が目に映る。


「はぁ……まったく。まぁこれで、安心かなぁ」

「恋人関係が」

「そうですね。ひとまず平常運転なのは間違い――へ⁉」


 目の前でも揉めている三人を横目にスゥ―ッと幽霊のごとく現れたのはご存じの生徒会会計椎奈御影先輩だった。


 急に現れた彼女に思いっきり驚いて距離を取ってしまったが普段通りの目つきの悪さで怯えて定位置に戻ると腕を組み、立派なものを強調しながら怪訝な表情を浮かべてくる。


「そこまであからさまに避けられると困るのだけれども」

「それはその――不可抗力と言いますか」

「不可抗力……勃起と一緒ね」

「な、なんてこと言ってるんですか、はしたない!」


 唐突な卑猥な発言にビビってしまう俺、しかし椎名先輩はまったく動じず何もなかったかのような顔で続けて――


「いや、私そもそも生徒会の中で影薄いし、大丈夫だと思うけど」

「急に卑屈なこと言わないでください――」

「まぁ、こいつのせいで一部の男子から見られているのは知ってるけどね」

「……俺はなんて返せばいいんですか?」

「笑えばいいと思うよって」

「笑えばいいと思うよ」

「にひっ」


 せっかく乗ってあげたのに笑いもしない無表情の「にひ」はやめてほしいなと心底思ったことはどうでもいいのでいいとして、というか、話はそっちじゃなかったな。


「——それで、いきなりなんなんですか。というか、なんで恋人関係がって?」


 卑猥発言やらいつも通りの椎名先輩の読めない発言で話を逸らしていたが話はそっちだった。


 なぜ、俺と先輩の事を見ながらそんなことを言ってきたのか。俺と先輩の今の関係時と状況は美鈴以外知らないはずだ。


 しかし、そう訊ねると何も答えず無表情で目を見つめられた。


「あ、あの——何か」

「……なんで知ってるのかってことでしょ?」

「あ、はい、まぁそうなんですけど」


 やっぱり、なんかこの人のリズムって難しいところあるよな。引き込まれたら全部持っていかれる的な。というのも、今なんか急に冷静な思考になっているのが何よりもの証拠だし。


「なんで知っているのかね~~なんででしょうか」

「いや、椎名先輩が自分から白状しといてなんで謎なんですか……」

「ん~~。だって、どこからともなく聞こえてきちゃったからね」

「どこからともなく?」


 というと、どういうことだ?


「なんか、生徒会室に忘れ物したから取りに戻ってたらすっごい声がして、そしたら急に会長が飛び出ていくし……ね?」

「……」


 いつもは変わらない口角が若干上に上がった気がした。

 今、俺がどんな顔をしているかは分からない。ただ、確実に驚いたような顔をしているだろう俺を見て――椎名先輩は「っふ」と笑み交じりの息を吐いた。


「——まじですか」

「えぇ、まじよ」

「どうか内密に、お願いします」

「どうしようかな?」

「そこは何とか誰にもばらさないようにお願いしますよ!!!!」

「そうね、それじゃあ一つだけ言うこと聞いてくれるならいいわよ」

「ひ、一つ……」


 ゲスな心情だろう椎名先輩の言葉には乗りたくはない――がここは致し方ない。


「わ、分かりました。なのでお願いします!」

「うん。よろしいっ」


 そんなところで鈴夏さんを挟んだ三人の揉み合いが終わり、俺たちは片付けを再開することにした。

 

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