第23話「私の彼氏になってくれませんか?②」
急な告白かと思えば今度は絶望の知らせ。
唐突の2連続コンボによって若干の精神崩壊が起きそうだった俺は一瞬だけ意識を失っていた。
あれ……俺ってフラれたのか……?
ここで俺の恋愛はやっぱり終わり?
あげて落されるのはさすがにきついよ……。
頭がぐるぐると回り、視界が歪む。
そんなところで遠くの方から声が聴こえてくる。
『ねぇ、聞こえてる? 翔琉君、聞こえてるの⁉ ねぇってば!』
すると、ハッとして遠のいていた意識が一気に戻ってくる。
「え、あぁっ、すみません先輩。なんか意識が」
『意識⁉ 大丈夫なの? 妹さんはいるの、病院!!』
さすが生徒会長と言ったところで俺のことを心配してくれる優しい先輩。改めていい人なんだなと思うと同時に大ごとにされるのはヤバいのですぐさま否定する。
「大丈夫です! なんかそのびっくりしただけなので、はい」
『本当に大丈夫?』
「ちょっとその、はい、本当に大丈夫です!」
『なら、いいんだけど。びっくりした……』
肩を撫でおろす先輩に笑みがこぼれる。
「あはは、ごめんなさい。それでその、話の続きは」
『話、あぁ、そうだったね。えとね――』
そうして説明が再開した。
☆☆☆
「ってことは……その、つまり? 俺が彼氏役として先輩のご両親の前で振舞えばいいって言うことですか?」
『まぁ、そうなるかな』
あまりにもあっさりとした返答に俺の脇と額からは冷や汗が止まらなかった。
話の内容はこうだった。
まず、先輩の両親の話。
母親の病気の影響もあって、男の子を産むことが出来ず、先輩を家業の後継ぎにすると決めたらしい。
そこからは後継ぎになるべく一人娘の先輩を厳しく育ててこられて、本来なら地元の進学校で堅実に大学へ進学してそのまま実家に就職するという未来があったのだが、唐突に来た思春期と同時にそれが枷になっているのが嫌になり一人で田舎の学校から札幌の進学校にやってきたとのこと。
でも、それには条件があり、受験が普通に始める3年生になるまでに将来の伴侶となる人を見つけることというものだった。
なぜそう言うものを作ったかというと両親しか分からないらしいが、先輩曰く、もしも先輩にそう言う相手を作れなかった場合は田舎の地元に連れ戻し、親が紹介した家業を共に継いでくれる人と結婚してもらうことになっている。
そんな流れがあった。
だからこそ、3年生までに親にも認めてもらえるような彼氏を演出するためにひとまず俺と仲良くしている姿を見せつけたいとのことだ。
形はどうであれ、先輩と付き合えるのは嫌ではないし、むしろ妹にも言われた通り嬉しい限りだったが正直なところ本当にいいのか悩んでいた。
本能ではいいと思っていても、それが例え先輩の未来に直結するとしても、理性が常識が俺を止めていた。
「そ、うですか……」
『ダメかな? 正直、私がものを頼める男子なんて翔琉君くらいしかいないし。どうすればいいか分からなくて』
「ダメって言うわけじゃないんですけど」
『じゃあ、してくれる⁉』
電話越しに伝わってくる嬉しそうな声に俺は口を噤む。
これは俺がヘタレで一歩を踏み出せていないのか。それともそう思うのが正しいのか。
その二択が選べない。
「ほ、本当に俺でいいんですか?」
弱腰でダサいのは分かってはいたが引っ掛かる靄にそう訊ねると先輩が何の迷いもなく呟いた。
『……翔琉君がいいんだよ』
「え」
『あいやっ、そのね。その――お互い良く知ってるし頼めるのが翔琉君だけだなって』
「あ、あぁ……ですよね」
『それでやっぱりダメかな?』
再び尋ねられてもう一度考えるも正直答えは浮かんでこない。
ただ、上ずるような先輩の声に断ることも俺には出来なかった。
「先輩がいいのなら俺は良いですけど……」
『ほんと⁉ やった! これで安心だよ~~!』
喜ぶ声とは裏腹に俺は自分のダサさに何とも言えなくなっていて、それと同時に今まで突っかかっていたものを理解した。
どうやら、心底の俺は先輩の事がしっかり好きだったみたいだ
仮にも告白を受け入れたと事でなぜか頭がぽわぽわしていて、テーブルの上でボーっと座っていると隣に座りスマホを取り出したララがぼそりと呟いた。
「兄さん、何かいいことあったの?」
「え」
「ねぇ、聞いてる?」
「あ、はい、なんでしょう?」
頭の中が蕩けていて何を言ったのか分からなかったが隣の妹の表情は何とも言えない表情だった。
「きも……ちょっと」
「あっ、ごめん。なんかぼーっとしてて」
「間抜けな表情やめてよ。なんかすっごく嫌な気分になったんだけど」
「あははは……なんかごめん」
「まぁ、別にいいんだけどさ」
律儀に謝るとなぜかボっと顔を赤くして許してくれる。
そんな妹に俺は何があったのかを説明する。
「はぁ、付き合うの⁉ 真礼ちゃんと⁉」
「いやいや、ちょっと話が飛躍しすぎだって……付き合うって言うかあれだよ。生徒総会が終わった後に先輩のご両親と会うみたいだからそこで彼氏としてふるまってって」
「ま、まじですか、そう言うことでしたか、ビックリしたわよ」
「な、だから言っただろ? そう言うのじゃないって」
はぁと肩を撫でおろすララを見て、なんとかなったと思っているところでララが何かに気づいたのかジト目でこう聞いてきた。
「でも、兄さん」
「ん?」
「美鈴ちゃんはいいの?」
「美鈴? あ、あぁ……そうだな、しっかり言わないとだよな」
「言わないも何もね……」
「え?」
「いや、なんでもないわ」
「なんでもない?」
今度は「はぁ」と呆れたようにため息を漏らした。
何が何だかよく分かっていない俺を見て続けて呟く。
「まぁ、どうせ面倒になるのは兄さんだしね」
「何が面倒になるんだよ」
「いや、女的にね」
「女的? ちゃんと話すし、美鈴はそれで納得してくれるだろ? 悪いやつじゃないんだし」
「はぁ。そんなんだからなんだよなぁ」
「何が――」
「はいはい、その話は終了っ。別に私が気付かせる義理ないしね~~」
何やらわかっている様な口ぶりでララは台所の方に戻っていったのだった。
「えぇ……」
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