第24話「私のせい」
しかし、タイミングを見誤っていた俺に天罰が下った。
☆☆☆
「はぁ、先輩と付き合ったですって⁉」
先輩からの電話からの翌日の出来事だった。
その日は特段用事もなく、生徒総会のための会議が終わった後各々解散となり、帰る前に先輩と一緒にトイレに向かったところで事件は起きた。
「その、具体的に先輩と付き合ってるってどうすればいいんですか?」
「ん~~、両親が分かるようにくっつくとか?」
「そ、それはさすがに……」
先輩の事もあって色々と渋っている俺の元に、後ろから追いかけてきた美鈴に話の内容が聞こえてしまったのだ。
「は⁉」
静かな廊下に分かりやすく怒号が響き渡る。
そんな声に俺も先輩もすぐに振り返った。
もちろん、そこにいたのは美鈴だった。
「んなっ」
「あっ」
可愛く綺麗な顔がくしゃくしゃになっていて、今にも爆発しそうな火山のよう。
目は血眼で鼻からはふんすと競走馬のような息が漏れる。
内股の仁王立ち、昔から見たことがある起こった時の美鈴の姿がそこにあった。
「な、何よ、今の話は⁉」
当たり前の質問だった。
そりゃ、本人からしてみれば自分の大切に思っている幼馴染がなぜか生徒会長と付き合っているかのような内容の話をしていて、でもそんなのは聞いてなくて、コソコソと話しているこの状態。
しかし、俺も先輩もいきなりのことで対応なんてできるわけもなかった。
「なんか言いなさいよ! 何の話よ!」
ドンっと振り下ろす脚。
その声で思わず俺も先輩も両手を上に掲げる。まるで銃でも向けられているかのような光景だったが個人的にはそれに勝る恐怖を感じた。
そして、加えてその瞬間。
スカートがふわりと上がり一瞬だけパンツが見える。
唐突のラッキースケベに俺の胸はドキっと跳ねた。
意識したら駄目な奴に感情が巻き込まれてどんどんと脚に視線がいく。さすが俺も男、幼馴染が相手でも性欲はちゃんと機能していたみたいだ。
「翔琉君、どこ見てるの!」
「あ、いえいえ! どこも見てなんか!」
「見たでしょ! ほら、今のパンツ!」
ポカーンとしていると隣の先輩が俺の足をぐりぐりと踏み押してくる。それに否定していると無き者にされていた美鈴が再び怒気を強めた。
「ねぇ、わたしの話聞いてる?」
凄まじい睨みつける視線に怯えてしまって思わずこくりこくりと頭を上下させる。
「あ、はいっ」
「ごめんなさい」
「それで、何の話だったのか教えてくれるわよね?」
ギロッと尖ったナイフのような視線に怯えながら俺と先輩は頷いた。
「じゃ、じゃあその一旦……トイレ行ってきていいかな?」
「行ってきて、生徒会室で待ってるから」
☆☆☆
「やっと戻ってきた。もう帰ってこないと思ってたわ」
俺と先輩が冷や汗をかきながら生徒会室に戻ると美鈴は会長の席に座りながらぎろりと睨みつけてきた。
なんか、見覚えのある構図。
俺と先輩が通り魔に襲われたときもこんな感じだった気がするけど、今日は一段と殺気を放っていた。
「荷物置いてきてるんだから、帰るわけないだろ?」
「そうだよ、翔琉君の言う通りだよ。生徒会長の私が君の申し出に逃げるわけないだろう?」
淀んだ空気を帳消しにするために苦笑いのまま言い返すと「そ」と目を逸らして、続けてこう言った。
「はっ。どうだか、言っていおくけどわたしの信用は今地に落ちてるからね?」
「それはまじで悪かったって! 俺がしっかり言うべきことを忘れれただけなんだよ……しっかり説明するから許してくれよ」
「説明する? 何をなの?」
ギギッと鋭い視線を向けながらとげとげしい言葉を投げかける幼馴染。
厳しいなと思いつつも俺の心には嬉しさもあった。
美鈴は友達思いのいいやつなんだ。
昔からよくしてくれたからこそ、こういう時はしっかり言ってほしかったと思っているのだろう。気難しいところがあるしろ、俺が重んじていなかったからこうなっている。
そのせいで先輩にもおかしな視線も向けられちゃっているわけだし、俺がしっかり釈明しないと。
「あれだよ、説明足らずだったんだよ」
「説明足らず? 何が? そこのあたふたしてる愛しの先輩ちゃんと付き合ったんでしょ?」
「い、愛しって……別にそう言うわけじゃないけど」
「へぇ、そういうわけじゃないのに付き合ってるわけ? わたし思ってなかったな~~カケルがそんな考えだなんてね!」
「あ、ってそうじゃないだろ! そんなことはないって!」
「そう、だったの?」
切れる美鈴に、横からは悲しそうな表情を見せる先輩。
釈明がどんどんと違う方向へ移っていく。
さすがにこのままいくとヤバいと悟った俺は先輩の方に耳打ちする。
「ち、違いますからっ。別にそんな風には思ってませんよ、先輩は大切な人なんで!」
「ほんとに?」
「ほんとです!」
そう言うとどうにかわかってくれたようで潤んだ涙を袖で拭きとった。それはそうと、そうしていると目の前にいる美鈴が追い打ちをかける。
「何が違うんだって?」
「そう言う意味じゃなくて、言っても驚くなよ?」
「えぇ、何ももう知ってるからね」
「いや、だから、先輩と俺は仮で付き合ってるんだよ」
「は?」
「仮っていうか、そのさ……付き合ったふりをし様って話をしてたんだよ」
「……何言ってんの?」
意味が分からないわと首を傾げる美鈴。
さすがの俺も二度目は間違えまいと、先輩には色々と悪かったがすべて丸裸に話すことにした。
「へぇ、それで? だからって、許されるとでも?」
「そこは何とかしてくれよ……頼むって。俺も先輩が心配だし、ほらさ、さすがにさ、そんなのが理由で転校しちゃうって困るだろ?」
「困らないけど? そしたら会長になるの私だし」
「いやなんだよその権力競争はさ……とにかく俺は悲しいし、美鈴もなんだかんだ言って嫌だろう?」
危うく始まりかけそうになった美鈴の権力争いを同断し、俺はなんとか訴えかける。しかし、納得はしたもののまだ不満は消えない美鈴は中々折れなかった。
隣にいた先輩が手を掴んできて、
「大丈夫だよ。ほら、美鈴君の言う通り。私の身勝手なお願いだし……」
「いやでも、それじゃ先輩が!」
「いいの、大丈夫。その気持ちだけで十分だからさ。私もちょっとずるしてる気分になるし……」
「せ、先輩がそう言うなら無理強いはしないですけど。でも、先輩だって嫌がってたじゃないですか! 見知らぬ人と結婚するのは凄く嫌で、もしも彼氏一人いなかったら引き戻されるかもしれないって」
「それはいいの! ほんとに、大丈夫、だから」
ドンっ。
と先輩の拳が生徒会の会議テーブルに振り落ちた。
異様な覇気がこもった拳の音に俺が腰を引かしているとつづけるようにこう言った。
「それに、私の身勝手なんだし。翔琉君はあの日救われたと思っているかもしれないけどさ。気ままに声掛けただけだし、恩義なんて感じなくていいんだよ」
「でも、俺にとってはあれはっ」
「いいのっ。本当に大丈夫だから」
それだけ言って先輩は顔も見せなかった。
しかし、すぐに立ち上がる。
目元を抑えて、逃げるように言い捨てる。
「ごめん、私が悪かったの。だから、うん。その、今日は先に帰るねっ——」
「え、ちょ、先輩!」
「ごめんっ!」
全くいきなりの事で動けなくしていた俺の目にはバックを手に取り走り去っていく後姿がどんどんと消えていくのが見えていた。
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