第22話「私の彼氏になってくれませんか?①」

「あれ、お兄ちゃん電話来てるよ」

「ん、え、まじ?」


 翌日、いつも通り生徒会の用事を済ませ、バイトに言った先輩の代わりの仕事もこなして帰宅するとバイト終わりの先輩から電話がかかってきた。


「あぁうん。ほら、真礼ちゃんからっ……ってもしかしてなんかこそこそやってる?」

「なわけないだろ! 多分生徒総会とかの連絡だよきっと」

「そぉ」


 不貞腐れたように台所へ戻るララを横目に俺はスマホを耳に付けた。


「もしもし~~どうしたんですか、こんな夜遅くに」

『あ、翔琉君! こんな急にごめんね!』

「いえいえ、何かあったんですか?」

『えと……そのね、すっごく言いづらいんだけどね』

「いいづらい?」

『うん。まぁ、その。ちょっと色々あって』


 俺がそう訊ねると先輩が一瞬だけ深呼吸をして、声のトーンを低くした。急に重くなった空気に心音が高鳴った。


 なんで急に。

 電話してきて、俺に報告か何かあるのかな。


 そう思っていると先輩は唐突にこう呟いた。


『私の恋人になってくれないかな?』


 は?

 今なんて?

 

 唐突な文字の羅列に俺は何を言われたのかがまったく理解できなかった。


 恋人になって?

 先輩はそう言ったのか?


 確かに言った?


 不意に訪れる漠然とした感情。

 しかし、それにブレーキがかかる。


 いやいやいや、待とうよ俺よ。

 

 まさか、そんなわけ。

 急にそんなわけがない。


 万が一にもあるはずがないって……だいたい、俺もどんだけ好きなんだよ。そこまで好きなら言っちゃえばいいのによぉ。


 まったく童貞が考えることもやれやれだな。


 どうだよ、俺が付き合えるわけないんだ。耳が妄想で一色になってしまっていた。そうじゃないそうじゃない。


 きっと、あれだ。

 この前ララが言っていたやつだ。先輩は自分の事をモテていないというけど俺みたいに憧れている人はたくさんいて、きっとその一つが実ったんだ。


 俺ではなく、違う人で。

 先輩をモテさせることに協力するのはあまりできなかったけれど、実ったのならそれはそれでいいじゃないか。


 嫉妬はやめろ、嫉妬は。

 そんなの気持ち悪いアイドルのファンしかしない。俺はそうなったらいけない。先輩の色恋沙汰は素晴らしいで締めくくればいいじゃないか。


 焦るな、深呼吸だ、深呼吸!


『ね、ねぇ、聞いてる?』

「え、あはい!」

『あぁ——と、その、話聞いてた?』

「もちろんです! 先輩に恋人ができたって話ですよね! いきなりでびっくりしちゃったんですけど、もう感激ですよ! おめでとうございます!!」

『……』


 作り笑顔ではあったが個人的にはよく出来ていたと思う。

 震える手をガッチリと固めていると先輩が黙り込んだ。


「あ、あの……先輩?」


 何か悪いことしちゃったのか黙々と雑音だけが聞こえてきて、恐る恐る訊ねる。


『っ‼‼‼‼‼』


 すると、スマホがガタッと揺れる音がした。


「あ、え、先輩⁉」

『ねぇ、翔琉君』

「あ、良かった急に変な音がして俺何かやったのかと……」

『やってるよ!!!! もう‼‼‼‼』


 急に響く怒声がスマホを通じて俺の耳をつんざいた。


「うっ」

『私はそんなこと言ってないんだけど?』


 怒気を強める先輩。

 いきなりの告白に、急な怒り。訳が分からないであたふたとしていると先輩言い直す様に言った。


「え?」

『だから、私に恋人ができたなんて言ってないんだけど?』

「……はい?」

『聞いてる?』

「聞いてますけど……あの、恋人出来たんじゃないんですか?」

『はぁ……。だから、できてないって言ってるの!』


 ドスンとふんぞり返った声に俺は思わず黙り込んでしまった。


 先輩に恋人はできていない?

 そう言ったのか?


「あ、あの、本当に……できてないんですか?」

『だからそう言ってるじゃん!』

「い、いなかったんですね⁉」

『そうよぉ……も、もぅ、私にそんな悲しいこと言わせないでよぉ』


 うぅと垂れる声がして、俺はようやく理解することができたのだった。





 ☆☆☆



 自尊心を傷つけてしまった先輩を何とか電話越しでなだめて、俺は何を頼んだのか一つずつ順を追って聞くことにした。


 話を聞くにどうやら先輩は俺に告白してきたのではなく、一時的に彼氏役になってほしいとのお願いを言いたかったらしい。


 それも、来週からある生徒総会の様子を見たいと先輩の厳格なるご両親が来るとのことらしい。


 そこでどうにか恋愛にも完璧なイメージを持ってほしいということらしく、一番男子の中で仲が良かった俺を選んでくれたとのことだ。


 まぁ、ツッコミどころはあるが先輩の家庭についは俺もよく分からない。先輩自体が厳格な親があまり好きではなく、ほぼ逃げるようにこっちに来たとは聞いていたが色々とあるようだ。


「でも、どうして俺を先輩のご両親に彼氏として紹介しないといけないんですか?」

『……まぁ説明しないと駄目だよね』


 当然の疑問を投げかけるとグぬぬと眉間にしわを寄せた。

 猫っぽい声を上げているから、眉間ねこ?


 いや、ごめんなさい。

 何でもありません!


『そのね、私の家はちょっと複雑なのは知ってるでしょ?』

「まぁ知ってますけど……」

『私の家は毎回跡取りがいないといけないの。子供は私一人だし、すっごく優しく厳しく育てられてきて二人には感謝しかない。でもね、私将来の相手が決められているんだよ』

「え?」


 まさかの言葉に俺は絶句した。

 





 え、これって実質。

 俺ってフラれたのでは?





<あとがき>

 こちら、僕の自信作であり、新作です。

 是非、よろしければ読んでみてください!


「隣の席の地味巨乳はいつもブラジャーが透けている~もしかして、おれって誘われていますか?」キャッチコピー【実はエッチな漫画を描いているんです……これはその、羞恥プレイの一環で】


 https://kakuyomu.jp/works/16817139557329078026

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