第21話「両手に高嶺の花、真ん中には高嶺のモブ」


 変態アラサー教師を成敗した後、色々と仕事を終らせて来週から始まる生徒総会のまとめを話し合い解散することになった。


「先輩、今日は残りますか?」

「んー、今日は残らないかな。私も帰るよ」

「っち」


 先輩からの朗報に隣から舌打ちをする音が聞こえたが効かなかったことにしておこう。




 準備を終らせて玄関で靴を履いて先輩を待っていると、隣に座っていた美鈴が不服そうな顔で一言呟いた。


「なんで一緒に帰るって言ったのよ」

「美鈴、逆に訊きたいんだけどどうしてそこまで嫌なんだよ」

「それは……その、言い表しずらいって言うか」

「それじゃあよく分からないって」

「だ、だって……その、す……」

「す?」


 問い詰めると美鈴は頬を真っ赤にしてもじもじと指をいじり始めた。


 別に嫌いなら嫌いって言えばいいのになと長く疑問に思っていた俺からしてみれば正直よく分からない。


 今まで考えてこなかったけど、先輩は悪い人じゃないんだけどな。

 もちろん、贔屓目無しでね。俺の気持ちは抜きにしてだ。


 人望も厚いし、コンプレックスはあれど全部を覆せるスペックを持っている。それでなお異性からも同性からも好かれるユーモアもあって、責任感がある。


 それのどこが悪いのか。


「す、す……」

 

 すると、「す」と言いながら小刻みに揺れ始めて、遂にはドンっと思いっきり地面を足で叩いた。


「うわっ、な、なんだよ」

「……し、知らないし」


 またしてもツンツン節が炸裂して、俺はその理由を聞けずじまい。結局、タイミングよく奥の方から先輩が小走りでやってくる。


「お待たせ~~っ」

「あ、先輩っ」

「ん、ごめんね。待たせちゃって」

「いえいえ、大丈夫っすよ」

「ふん、遅いわよ」

「あははは、それじゃ帰ろっか」


 そうして、俺たち三人は珍しくも一緒に帰路に着いたのだった。





「——それじゃあ総会の日は俺が視界に回った方がいいんですか?」

「え、それじゃあわたしもやるわよ!」

「美鈴君は駄目だよ。色々あった時に困るし、実際に副会長としてやる仕事があるでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「美鈴、心配してくれるのは嬉しいけどさすがの俺も大丈夫だぞ?」

「そうじゃないのよっ」

「じゃあ何なんだよ」

「そ、それは……言えない」

「んも、分からんなぁ」


 何をそこまで心配するのか。

 特段酷いことをしでかしたことはないって言うのに。幼馴染からの信頼を得られないのは色々と辛いものがあるな。


 まぁ、クラスの皆はこんなんでもバカすか言ってくるんだろうけど。毎回毎回、弄ってくるしなあいつら。


 唯一分かってくれるのは上野のやつだけだし。だいたい、幼馴染ってだけで好きとかそう言う仲じゃないってのに。確かに仲は悪くないけど。


 お風呂一緒に入ったことあるならもうだって言われるけど、みんな家族ぐるみの幼馴染がいればそんなの当たり前で入るに決まってる。


 そんな風に考えていると、美鈴と同じ考えの人が反対側にもいた様で顎に手を当ててうんうんと頷いた。


「でもまぁ、美鈴君が心配する理由も分かるけどねぇ」

「え、先輩も⁉」


 まぁねと折り返す彼女。

 たははと笑みを浮かべて痛いところを付いてくる。


「なんか翔琉君って肝心なところでダメダメだしね」

「ほんと、そうね。肝心なところで弱いし」

「おいおい、二人してかよぉ」

「ま、でも期待してるんだから頑張ってよね?」

「言われなくても頑張りますよ。なんか酷いこと言われてやる気無くしちゃいますけど」

「やる気でないの?」

「出ないも何も、それじゃあ割に合わないですよ」

「そっかぁ、何か欲しいならあげちゃってもいいけど」

「わ、わたしはそんなのしないからね」

「じゃあ美鈴君の分まで私がしなきゃかな」

「どういう……?」

「そうだね、せっかくなら元気出るようにデートとか?」

「え?」

「はぁ⁉」


 いきなりのご褒美に目が飛び出そうになる俺と美鈴。

 いや、その言い様は先輩の柄じゃないでしょ。と思うもよくよく見ていれば背伸びをしている様で頬が赤くて足元がもじもじと揺れていた。


「……無理してません?」

「そんな無理なんて、私はこれでも生徒会長なんだよ?」

「足元が震えてるように見えるんですけど」

「それは気のせい。あと、ああだこうだ言うんだったらしないよ?」


 なんだか前のめりな先輩に疑わざる負えないが、ふと落ち着いて冷静に考えてみると俺も先輩も二人で買い物に行ったりしたことはあった。


 そう考えると特段ふしぎなことでもないし、いつも通りではと考えてしまう。


「先輩、俺たちって割と二人で遊んでますよね?」

「え? そ、そうだっけ」

「忘れるのが早いですよ。あの通り魔事件の日だって夜一緒に本や行ったじゃないですか」

「勝手に二人でほかにもあそんでいたの⁉」

「あぁ、美鈴は一旦待って」

「はぁ⁉」


 隣で叫び出す幼馴染は一度シャットアウト。


「ま、まぁ、そう言われたらそうだし、分かった。一つしてほしいことを叶えてあげる」

「してほしいこと?」

「何かあるでしょ? ほしいものとか、行きたいところとか、色々払ってあげる」

「そこまでしなくても」

「ほしいって言ったのは翔琉君のほうでしょうがっ」

「いでっ」


 先輩のジト目ツッコミチョップが炸裂。

 脳天直撃を食らった俺は決めることにした。


「待ちなさいよ」


 すると、忘れていた美鈴が横からドスっと身体を入れてくる。


「わたしもついて行くから」

「ついて行くって?」

「ど、どっか行くなら私も行くからっ! 監視、監視よ!」

「はぁ」


 とはいえ、彼女だけの獣にすることはできず、心配性の美鈴と先輩、そして俺のなぞの協定が出来上がったのだった。

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