第14話「第三のヒロイン(?)」
「おかえり、兄さん」
美鈴と別れて家に入ると早速迎えに来てくれたのは妹のららだった。
松本らら、今は叔母さんの家から一番近い中学校に通っている中学2年生だ。
まん丸の綺麗な黒色の瞳に、炎髪のショートボブ。ちょっとだけくせっ毛なのでアホ毛がぴょこんと伸びている先輩と同じくらいの背丈の俺の可愛い妹だ。
「おう、ただいま」
「ん。今日もこれまた遅かったね」
「まぁな、生徒会のやつが色々とあって」
「ふぅん。それはお疲れ様だね」
「今日は随分と冷たいんな。一昔前まではお兄ちゃん大好きっ子だったのになぁ~~」
いたずらに言ってみるとエプロンを前に掛けた人妻っぽい我が妹はジト目を向けながら一言。
「うわ、きもっ」
「お、おいガチ目なトーンで言うなよ。傷つくぜ、さすがの兄さんも」
「だってきもかったんだもん」
「悲しいぜ。昔は最高のお兄ちゃんって慕ってくれたのによぉ」
「最高にキモイ兄さんだね、今は」
「……なきそぉ」
「きもいきもい。やめて兄さん」
「はぁ。演技も意味なしか」
「はいはい。ほら、いいからとにかくお風呂入ってきて。まだご飯出来上がってないし」
「わかったよ。もぅまったく」
「こっちの台詞なんだけど」
止まらないチクチク言葉。今となっては慣れたものだが、これが思春期ってやつなのか。両親がいないララにとってその対象が兄の俺になるのは少々辛い。
ただ、ララもララで一番大事な時に母親を失っているわけで。そう考えるといつもよくやってくれている。こうやって叔母の家でも上手くやっていけてるのはララが叔母といい関係を作ってくれているからだしな。
「あ、ララ」
「ん、何?」
「いつもありがとな」
ふと思ってララを呼び止めてそう言うと、少し驚いたように狼狽えた。
「な、何っ」
「別に。感謝だよ。最近言ってなかったしな」
妙に顔を赤くして、静まり返る我が妹。
若干視線を泳がしながら、喉を鳴らして困ったように呟く。
「——別に、そんなこと言っても何も出ないからね?」
「おい、俺が見返りを求めて言うと思ってるのか?」
「うん」
「ひでぇ」
そう吐き捨てて真っ赤にした頬を隠して台所に戻っていくララ。
サバサバしてる割に俺に構ってくれるし、褒めたらデレてくれる彼女は今日も今日とて最高な妹だ。
ささっとシャワーを浴びて湯船につかって、髪を乾かしながらリビングに行くと食卓にはご飯が並んでいた。
「うぉ、今日はカレー?」
「そうだけど——ってお兄ちゃん。汚いお腹見せないでよ」
「汚いってなんだよ! 同じ腹から産まれた兄妹だろぉ?」
「遠回しに私のお腹をディスらないでっ。これでも褒められてるんだよ?」
「褒められてるって誰に!? お前、まさか彼氏が……」
「友達」
「は……ふぅ、そうだよな。びっくりしたわ……」
「お兄ちゃんは過保護すぎ。だいたい、自分だって中学生の時にいたのにさ?」
「い、いないって。あれは片思いなだけだよ」
「ほんと、女ばっかりたぶらかして……妹ながら辛くなるね」
「過保護はどっちだよ。とにかく、まだお前には彼氏は早い! まずは俺を通してからだな!」
「うわー自分の好きな人が真礼ちゃんなのを良いことに。ほんと、大人げない!」
「べ、別に俺の好きな人は先輩じゃないんだけど?」
「誰が……この前、一緒に泊ってたじゃないのよ」
「ん……ど、どうしてそれを!?」
急にララはムスッとした表情で誰にも言っていない秘密を言い出した。
「あんなのきまってるじゃん。どうせ通り魔事件に巻き込まれた真礼ちゃんを助けるふりしてやってやろうとも思ったんじゃないの?」
「……ど、どこでそんな言葉を」
「論点ずらし~~」
煽り抜群の妹の攻撃が心中に突き刺さる。ぐへっ。
ぐさりと深く刺さってめり込んだ傷でその場にへたり込んだ。
さすがにバレたらそれまでなので開き直るしか出来なかった。
「っく……そ、そうかよ⁉ 駄目かよ⁉」
「別に素直にならないとって言っただけ」
「素直ってなぁ。先輩は命の恩人で……なんかそこに漬け込むのは嫌だろ?」
「漬け込むも何も……兄さんが連れてきた日からほとんどずっと一緒にいた癖に」
「それとこれとは別だよ! い、いいだろ、別に。俺は真面目に行きたいだけだ!」
「うわぁ、よくも呑気なこと言えるね。あんなに可愛い人がモテないわけないのに」
「モテないとかそう言う話じゃなくてだなぁ……」
「じゃあ何が言いたいの?」
「い、いや……言いにくいというかデリカシーの問題で言えないけど」
「胸が小さいって?」
「お、おい!」
「そんなの言われなくても知ってるわよ。一緒にお風呂入ったことあるしね~~」
相手が俺だとしてもなんてこと言い出すんだこの妹は。
一体誰がこいつのお世話を――って俺か。
「……お風呂」
「きもっ」
「あ、そういうことじゃないって! 違うから!」
「はいはい、男は獣だもんね~~。兄さんも例外じゃないわね」
「また先輩みたいなことをってそうじゃない! 別に俺は胸が小さいだなんて一言も言ってないって話だ!」
「知ってるわよ。私が先輩から聞いたからね」
「え?」
「この前、二人で遊びに行ったときに悩み相談受けてね。私がどんなにアプローチしても気づいてくれない人がいて、やっぱりおっぱいが小さい女の子じゃ嫌なのかなって」
「いつの間に、初めて教えてもらったと思ったのに」
「んなわけないでしょ」
確かに先輩と妹は仲がいいとは思ってはいたが、ここまで通じているとは思っていなかった。というか、なんで俺の妹はそんなに色々知ってるんだよ。お兄さん、マジで困るよ。
「それに、そんなことが理由で好きにならないなんて兄さんが一番知ってるでしょ?」
「え」
「ちんたらしてたら、とられちゃうよってこと」
「そ、そんなこと言われてもなぁ」
「また怖気づいて……もう、別にいいけどね。兄さんの事なんてね」
俺が迷っているとララはしびれを切らしたのか吐き捨ててカレーを食べ終わり、直ぐに食卓からキッチンの方へ去っていった。
正直なところ、俺もよく分からない。
好きだと思ってもいいのかどうか。
先輩にとって俺なんて大したことない存在で、そんなこと思うのもおこがましいくらいなんだ。
いつもはいじったり、話したりしてくれるけどあれは構ってくれているだけ。
どんなに俺に対しての話し方が砕けていても、それが好きなわけがない。
単純なわけがないんだ。
俺だって鈍感じゃない。そんなんで思い上がったりはしないさ。
あんなに素晴らしい先輩に、そんな意味もない気持ちで、曖昧な気持ちで、思い上がって向き合っていいだなんてそんなわけがないだろう。
☆☆☆
※妹
「ほんと、兄さんって。美鈴ちゃんといい真礼ちゃんと言い、何でモテるのかね……」
美鈴ちゃんもピンチなところあるわよね。
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