第7話「初夜を過ごします!」
間接キスから数十分。
ご飯を食べ終えた俺は先輩の皿洗いを手伝っていた。
初めてのキス(間接)の味に少し頭をボーっとさせていた。
いや、まじでこう言うの初めてだからキモいとか思わないでもらいたい。
青春ブタ野郎の幻想を砕かないで欲しい。正直、童貞の男子高校生なんてみんなこんなものだ。
異性との間接キスはそのくらい重要なんだと思ってもらいたい。
しかし、俺も俺でキモイだけで終わりたくないのでボーッとさせた頭をフル回転させて、先輩と一緒にお皿を洗うことにした。
「やらなくていいのに……」
「いやいや、その俺こそ変な話でばっかり。このくらいはやっておかないと割に合いませんよ」
先輩は優しいから「しなくていい」と言ってくれていたけど、ご飯を振舞われて何もしないわけにはいかない。
間接キスの味を残していた頭でもそのくらいのことは考えられる。
「無論、このくらい出来ますしっ」
「あ、そこ油汚れ」
「は、はいっ……」
まぁ、一人暮らしもしたことない奴の戯言だったみたいだけどね。
「なんかこんな時間までごめんね」
黙々と洗っていると先輩が横で呟いた。
何を気にしているんだか。
心配性の先輩らしいっちゃらしいけども。
「別にいいですよ? それに、あれは先輩のせいじゃないでしょうに」
「い、いや、だって私が本屋行こうって言ったんだし……」
「俺だって見たい本ありましたし、なにより先輩と一緒に何かするって言うのは悪い気はしませんからね。あ、それに……」
手を止めて俺の顔を見上げる先輩を見る。
見開いた綺麗な瞳と目が合い、少し顔が熱くなった気がした。
「それに?」
「はい。皆の前では真面目で可憐清楚な生徒会長演じてる先輩の真実を知っているわけですからね。背徳感が溜まりませんよ?」
ボっと顔を赤らめて、綺麗な瞳は泳ぎながら視線が反れた。
「……へ、変態ねっ」
「あはは、男を部屋にあげて何を言ってるんですか。男は皆獣なんですよ? ていうか、先輩自分で言っていたじゃないですか」
「それとこれとは違うじゃん。別に翔琉君をそんな目でみたことないし……見られてるとも思ってなかったし」
「……えぇ、そうなんですかぁ?」
「そりゃ、私が助けたいわば弟みたいなところがあるからねっ」
「そ、そうですかぁ」
「なんで投げやりなのよ」
「別にぃ、違いますよぉーだ」
「んもぅ」
どうやら俺は男として見られていないらしい。
にしても弟って言われると少しだけ悲しくなるな。俺は少なからず……す、いや、やっぱり分からないか。
喉元にでかかった言葉を止めて、ふと思い出した話題を振ってみる。
「それで、あれですけど——俺って今日どこで寝た方がいいですかね?」
「え、場所?」
「はい。もう妹にも連絡しちゃったし、先輩が泊まらないって言ってきたじゃないですか?」
「え、いや、私泊まってなんて言ったっけ⁉」
「はい?」
「え?」
あれ?
ん、ちょっと待て。それはつまりどういうことだ?
先輩が泊まってなんて言っていない?
いや、そんなことはないだろ。俺は普通にそう聞いたからついてきただけで……まぁ、確かに怖がってたし、家の前まで送るつもりだったし。
それに、寝るまでは一緒にいてあげることも出来たんだけど——って、あ!!
『今日、うちに来ない?』
確か、先輩はそう言ってた。言われてみれば泊まってなんてこと言ってなかった。
てことは……俺の妄想か。
俺、どんだけ先輩の家泊まりたいんだよ。
でも、まぁ、初めて来れたから嬉しくはなってたけどもさぁ。
「そ、そうでしたね……あぁ、っとはい。一応すぐ帰るんで」
さすがに分かってしまった以上長居するわけにもいかずに帰る準備をしていると、後ろから先輩が服の端を掴んだ。
「ま、待って」
「——え?」
「別に……駄目とは言ってない」
そんなトドメの台詞を可愛げしかない顔でボソりと呟やかれた。
頭一つ分小さな位置で俯きながら表情一つ見せずに彼女はそう言った。
まるで転校する彼氏を引き留める彼女のような情景に俺は少しハッとしてしまう。生唾を飲み込み、赤くした耳を見せる先輩に戸惑いながらも訊き返した。
「い、いいんですか?」
そう言うと先輩はこくりと頷く。
それが意味することは言わずもがな。
俺と先輩は今夜初めての夜を共にするということだった。
「——ま、マジですか」
「え、えぇ」
「そ、そう、ですか」
衝撃の事実に空気が固まった。
いや、衝撃ってわけでもない。先輩が誘ってくれた時点で俺はそう思い込んでいたはずなのに、一度否定されてからの肯定は破壊力があった。
そう、この――どうせ台風でも休みじゃないんだなって思ってた時に特別警報が出てからの学校がやっぱり休校になる的な感じ!
合法的な感じで得られる駄目なことっていうかなんというかだ!
うん、我ながら意味が分からない!!
テヘペロだね、テヘペロ。あ、先輩のテヘペロだったら見てみたいな。
「……べ、別に嫌じゃないからね? 翔琉君と一緒にいるのはさ」
「顔真っ赤ですしね~~」
「それとこれとは違うわよ!」
「ほんとですか~~?」
「ほんとよ。そりゃすk————すき焼き一緒に食べたかった後輩と一夜過ごせるわけだし」
「すき焼き?」
「え、えぇ、すき焼きね」
「……なんか、俺って先輩にとってそんなモブ的な位置でしたっけ?」
「いや、そんなことない。凄くいい位置だと思うけど?」
「そ、それならいいんですけど……ま、まぁ、でも結構緊張しますね!」
「え、えぇ」
またもや顔を赤くして俯く先輩が胸にキュッと来た。
「それじゃ、ほら、時間だし。さきにお風呂入って」
「え、あぁ……はいっ」
綺麗な返事を返して、脱衣所に向かったのだった。
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