魔族進行
私の名前はラウド・グランツ。
グランディア王国の騎士団長を務める私は魔族進行によって、出現している魔族の討伐に向かうこととなった。魔族の詳細な情報を得られてはいない。だが、通常の魔族進行はそこまで恐れるものではない。
『魔族進行』は時々発生するものだ。魔界で大量発生して行き場を失った魔族達が人間の住む土地に押し寄せてくる。ただ、魔界から追い出された個体だ。そこまで強いものがいることはない。しっかりとした部隊で向かえば、ミスをすることはないだろう。
今回は精鋭部隊の人間を100名も動員されている。少し過剰戦力のような気もするが国王が直々に「嫌な予感がする」と言うのでこんな大所帯になった。目的地の位置を地図で確認するとあと半日もかからないで到着する予定になっている。早急に終わらせて王国に帰還したいところだ。
今回の目的地は【フラン村】という小さな集落。農業が盛んで村人のほとんどが野菜などを作り、生計を立てている。畑を魔族に荒らされては村人の生活は大きく崩れてしまう。一刻も早く向かい被害を抑えなければ、そう焦りながら馬を走らせた。
街道を走っているとフラン村の方角からとてつもない爆音が響いた。
『ドゴォオオオオン』という音と強烈な光が広がった。焦らず情報を頭の中で整理する。
今回の目的は魔族達が村に着く前に私たちが到着して討伐する予定だった。だが、村の方から熱風が流れてくるほどの爆発が起こった。並の魔族じゃこんな大規模な魔法は使えない。私は魔法には詳しくはないが、あの規模の魔法を行使できる人間は聞いたことも無い。いるとしたならば今頃各国でその逸材の奪い合いが始まっているはずだ。
だとしたら非常に強力な魔族の仕業という線が一番可能性が高いだろうか。このまま全員で進むのは危険だ。ひとまず現状を報告するための部隊を出し、部下達にはここに残って貰うことにしよう。
「皆。一度ここを拠点として王国への情報伝達と待機をしていてくれ。恐らく強力な魔族の一撃であろう。先の爆発は私が単騎で確認に向かう。1日経っても戻ってこなかった場合は、私は戦死したとして、すぐに撤退して国王へ報告してほしい。ラウド・グランツも仕留めることが出来ない強大な敵は、王国への厄災になるだろう。残ったものにはその情報を届けて貰いたい。よろしく頼む!」
「我々も同行させてください!」
数名の兵はそう進言してくる。当たり前なことだろう。死地に一人で向かうなど、普通ならば自殺行為にすぎない。
ただ『普通』という括りに収まらないのがラウド・グランツ。これまで、多くの魔族達を屠ってきて得た知識。人間離れした身体能力。魔法を使用しない戦術を貫き。手に入れた称号は『剣聖』。本気を出すと大地が割れると言われ、未だ底知れぬ力を持っている。下手に味方を連れていけば巻き込んでしまう可能性もある。
「すまないが、私一人で向かう。どのような相手か分からない。この規模の攻撃をする相手だ。私の攻撃で部下を巻き込む可能性も考慮しての決断だ。理解してほしい」
そういうと皆理解してくれたようだ。詳細な動きを部下達に伝え終えると、すぐにフラン村へ向け馬を走らせた。
村が近づくにつれて、映る景色が先の爆発の威力を物語っていた。森の木々は焼け焦げており、未だに煙に包まれている。煙の匂いが鼻に刺さる。村はもうすぐそこのところまで来ているがこの有様だ。生存者は期待できない。
それでも、真実を見に行くことが唯一私に出来ることだ。焦げた木々や魔族の死骸や村人の死体が数多く散乱している。ただ、魔族の気配も一切感じられない。あれほどの強力な魔法が使える魔族の気配を感じられないのはおかしい。ひとまず村の一帯を見て回ることに決めた。
歩き回ると村の中はどこも同じような景色だった。家も畑も人間もすべてが焼け焦げてしまっている。
そんな中、異常な光景が目に入ってきた。木造の家が傷一つもつかないでそこに佇んでいた。焼け焦げる周りとはまるで別世界のようにある家。その家にある花壇の花は何事もなかったかのように風に揺られている。一瞬だけ自分の正気を疑った。あっけにとられている場合ではないと、意識を切り替えて家の中に足を踏み入れていく。
その家は実に普通の家だった。生活感の残る家はつい先ほどまで人がいたことを教えてくれる。土のついた作業着と農具。食卓テーブルには2脚の椅子と赤子用の椅子があることから三人家族だと考えられる。未だ家庭を持っていない私にとっては、理想の家庭を体現するような空間だった。
「幸せな時間だっただろうに……」
溢れ出す悔しさ。もっと早く自分がついていれば、助けられたかもしれないのに、悔しさをぶつける相手もいない。握りしめた拳から血が滴り落ちた。一つ不思議なことがあった。何故この家だけは傷一つ付かずに残されていたのか?
その答えはすぐに理解できた。食卓テーブルの上に置かれた一通の置き手紙。そこにはこう記されていた。
【この手紙を読めているということはひとまず上手くいったということですね。
私たちの村は約3000匹の魔族の侵攻を受けました。今の私たちではすべてを守ることは出来ませんでした。だから、せめて、未来への希望を残します。3000の魔族をすべて排除して、私たちの役目は終わりです。そして、この手紙を読んでいるあなた。私たちの息子であるユーステスをどうかよろしくお願いします! 小さな希望には大きな力が集います。それが世界を救う希望になるのです】
先の爆発はこの手紙主によるものだとすれば納得は出来るが、3000の魔族を滅ぼすなんて人間に出来る所業ではないはずだ。
ただ、手紙の最後に記された『エルランド』という名前を読んで納得した。
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