第十四章「責任」
体育館に集められた僕たちがやらされたのはバレーのトス回しだった。
先程の研修で組まされたチームで輪になって、トスを回していくというもの。
体育の軽いウォーミングアップみたいなものだ。
連携とか、チームワークを強めるためにやらせてんのか?
何にせよ、とんでもない研修内容じゃなくて安心した。
だが、この合宿で“まとも”な研修が行われる筈がない。
トス回しのノルマとして与えられたのは100回。
誰かがミスした場合、チームメンバー全員腹筋、背筋、腕立て伏せを50回ずつ。
トス回し100回というのは、普通に運動ができる人間にとってはこなせない数ではないだろう。
ただ、ランダムに集められたチームメンバーが全員運動できるわけじゃない。実際僕は球技が苦手で、真っ先にミスをした。
申し訳ない想いと共にメンバーに謝り、筋トレをする。筋トレの50回という数字もそこまでヘビーではない。だが、ずっと運動をしていない人間には辛いかもしれない。幸いこの頃の僕は日課で筋トレをしていたので軽く熟すことが出来た。
次に失敗したのは、僕と同じく運動が苦手な同僚W。彼は中々にふくよかな体型をしており、動きも緩慢。ヘビーなウェイトでの筋トレは相当堪えたらしく、トス中も息切れしていた。
……これは早くクリアしないと一生達成できないぞと悟った。
実際僕の予想は的中し、Wのミスは続いた。パス回しの合間に筋トレをしているというよりも、筋トレの合間にパス回しをしているような感じだった。
もしかしてこのまま夜中までやらされるんじゃ……? とさっきの研修のこともあって不安を抱き始めた頃。講師は「じゃあ次は長縄跳び100回」とあっさりパス回しを打ち切った。
あれ? 意外とあっさりしてるな、と思ったが、相手にも勿論合宿内のタイムスケジュールがあるわけで、一見めちゃくちゃに見えてもそれに従う必要がある。
続く長縄跳びでも当然ミスをして筋トレし、最後は全員ランニングで体育館を何周も走らされたりはしたが、体力的に疲れたこと以外は特筆する部分もなかった。
精神的なストレスがなく一安心し、ふと周りを見渡すと、体育館内の他チームにはちらほら険悪なムードの班もあった。
そりゃそうだ。誰かのミスで全員が負担を強いられる。最初はなぁなぁで受け流していても、ミスが続けば嫌な感情を向けてしまうだろう。
幸い僕の所属しているチームは皆聖人か? と思うほど人間性が出来ていたので、ギスギスすることはなかった。
まさか……チーム内に不和を生むことが目的だったのか? なんのために?
全員を集め締めの言葉を喋る講師を伺うが、胡散臭いニコニコ顔からはなんの感情も読み取れない。
あとから考えれば、これも「自身のミスに対する罪悪感」を与えること、チーム内で本音の感情を吐き出させるための研修だったのだが、当時の僕はそこまで深く考えていなかった。
ひとまず体育館での研修を終え、夕飯を取った僕たちは、その後お風呂に入って合宿所へと集められた。
慣れない研修に先程の体育館での運動が合わさり、既に疲労困憊といったオーラを全員が出していたが、1日目の研修はまだ終わりではない。
次に待ち受ける研修、それは……自己の否定だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます