第五章「初めの一歩」


2014年1月。

OVLでの落選後。大学の授業もそこそこに、僕はOVLの第二ターンに向け新作の執筆に取り掛かっていた。


今とは締切時期・発表時期も異なるので曖昧ではあるが、8月末には入稿していたので締切もそこらへんだと思う。


7ヶ月間。大学と執筆の日々がまた始まる。

当時の僕はサークルにも入らず、バイトもしてなかったので、時間自体は余裕があった。

しかし、OVLの第二ターンへと応募した作品は、新作一つと改稿一作のみであった。

平均的なワナビと比べても遅筆な方だと思う。

小説を書く上で資料を集めたり、必要であれば実地調査をしたりなんかで時間がかかることもあるが、それを抜きにしても書くのが遅い。

余程調子が良ければ1ヶ月程で長編が書けるけど、基本的には早くても2,3ヶ月。場合によっては数年かかる。理由の一端としては、ある程度書き上げた作品でも「なんかしっくりこない」と思ったら全ボツしてしまうからだ。


遅々とした進捗ながらもなんとか第二ターンに応募し、僕は気もそぞろになりながら過ごしていた。

これから何度も新人賞に応募することになるのだから、一次選考でそわそわしていても仕方ないだろ、と思うけれど、当時の僕はまだまだニュービー。一次を通るか通らないかは今以上に重要だった。


そして10月。

OVL文庫大賞、第二ターンの一次結果が発表された。

今もそうではあるが、結果を確認する時はどうあっても緊張する。

僕は初めてブラクラを見た中学生のように震えながら公式サイトを開き、選考発表のページに目を通す。

上から順にスクロールしていき……。


あった。

改稿した一作だけだが、確かに自分の名前があった。


どこらへんで自分の名前を見つけたかも覚えてないが、嬉しかったことだけは覚えている。

そりゃそうだ。

まずは一次を通らなきゃどうしようもない。

今となっては受賞しなきゃ意味がない……という想いもあるが、この時は純粋に一次を通過しただけでも嬉しかった。


ワナビにとって、長編を完成させ、新人賞に応募するのがスタートラインにつくことだとするならば、一次通過はまさしく初めの一歩だ。


僕は夢に向けての第一歩を、ようやく踏み出したのだ。


一次通過の評価シートでも、やはり百合とSFはラノベ向きではない、との旨は書かれていた。それでも通った。得点は16点。おそらく、一次を通るか通らないかのボーダーだろう。


それでも323作品中の44作品に選ばれた。僕の小説が他の誰かよりも優れてると認められた。


pixivでの初投稿以来、ネットで誰かに小説を見せることもなく、他人からの評価に飢えていた僕は、暫しの優越感に浸った。


僕は勢いのまま友人を呑みに誘い、初めて自分が小説家を目指していることをリアルの人間に打ち明け、祝勝会とした。


この時が、きっと小説を書いてて一番楽しかった時だろう。

ちなみに、一次通過したこの作品も二次では落ちた。

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