第四章「敗戦後夜」

初戦で惨敗した僕は、一週間ぐらいダメージを引きずっていた。

大学で講義を受けてる間も、飯食ってる時も、ラノベ読んでる時も、頭の片隅で「あぁ落ちたんだなぁ」という実感にじわじわと苛まれていた。


“敗者” “失格” “出来損ない”


そんな言葉がずっと頭の中でループして、ただただ暗澹たる気持ちにさせられた。


二次以降で落ちるならば、一応は一定以上の評価はあったのだと自分を納得させられるが、一次落ちではそうもいかない。


昔は「小説としての体さえ整ってれば取り敢えず通る」なんて言われてはいたが、それもラノベの新人賞黎明期くらいで、だいぶ前から「ラノベとして一定以上の面白さ」がないと通らない。ネットで手軽に小説が読み書きできるようになり、投稿者全体のレベルが上がっているからだ。


だとしても、自分がその“一定以上の面白さ”というラインに達していないという現実は、ワナビには受け入れがたいものだ。

だってそうだろ?

新人賞に応募する奴なんて、自分が書く小説が一番面白いと思っていて、それで受賞出来るって自信がある奴しかいないんだから。


一次落ちに関していえば、当たった下読み*と相性が悪かったとか、そもそもちゃんと読まれてないとか、そういった運の要素はあると思う。


実際僕も下読みをしたことあるが、下読みの質は保証出来ない。

「これ流行りのジャンルじゃないからな~」とか「このジャンル俺理解できないんだよね~」という理由だけで落とす奴はいるし、あらすじしか読まない、本文読んでも最初の数ページだけ、みたいな奴もいる。

上記は“悪い例”ではなく、“普通にいる”レベルである。

だからこそ納得出来ない部分もある。


しかし、以降の選考でも、小説家としてやっていくにしても、運をものに出来ない人間はどこかで脱落する。

小説家になるためには運と才能どっちも必要なのだ。

ここで文句を言っていても仕方がない。

だから今回は「運がなかった」と切り替える。それが正しいメンタルの持ちようだ。


つまり、今回は勝てなかったけど次勝てばいいのだ。


なんとかメンタルを持ち直した僕は、ひとまず落ちた作品の改稿をすることにした。


一度落ちたとはいえ、この作品にはまだまだ直せるところがある。直して良くなる余地がある。だったら改稿して他の新人賞に使い回すのは当然だ。


個人的な感覚だが、一つの作品は3回くらいは使いまわしても良いと思っている。

レーベルや読み手、時期によって作品の評価なんてころころ変わるんだから、一回落ちたからもうその作品に目はない、というのは早計すぎる。


OVLで評価されなくてもさ、僕の作品を評価してくれるとこはきっとあるよ。どちらかというとお前の作品ラノベっぽくないし、ガガガにでも送ればいんじゃない?


そんな心の声を聞きながら改稿を終えた僕は――OVL文庫にリベンジマッチを仕掛ける。


2014年8月。ワナビになってから1年と2ヶ月後のことだった。





※下読み:新人賞の一次選考で作品の評価や次に上げるかどうかを判断する作業、またはバイト。

編集者も一次選考から作品を読むことはあるが、基本的に一次は下読みバイトが判断することが多い。仕事のない作家や元編集、ライターなどが編集部からの伝手で受けることがある。

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