第二章「承認と欲求」
大学に入ってから二ヶ月。
東京での一人暮らしに大学の自由度も合わさって、毎日特に不満もなく僕は過ごしていた。仕送りがあるのでバイトもせず、毎日適当に講義を受けて、ラノベを読んで、アニメを見て、そんな日々が続いていた。
しかしふと思ったのだ。
「これでいいのか?」と。
折角暇を持て余してるのに、何でも出来る時間があるのに、なんで僕は何もしてねぇんだって。何かしないと勿体ないだろって。
そこでどうせならタメになることがいいなぁ~なんて考えていたら、「そういや僕、昔は小説家になりたかったんだっけ」なんてことを思い出した。
思い出しついでにきっかけであるイリヤを読み返して、やっぱ秋山さんみたいな文章書いてみたいよなぁと感慨に耽り、今なら書けるんじゃないか? と思った。
中学の時は小説とも呼べない駄文の羅列しか書けなかった。でも今の僕ならちったぁマシなもの書けるんじゃないか?
あれからそれなりに沢山小説は読んできたし、知識だって人並みにはあるはず。今なら小説っぽい何かは書けるだろう。
僕は早速デフォで入っていたwordに思いついた話をさっと書き込み、プロットらしきものを作り上げた。そう、今の僕には“プロットを作る”という知識がある。
いきなり長編は難しいだろ、と取り敢えず短編を2作書き、意気揚々とpixivに投稿した。
普通小説を投稿するならなろうじゃね? ……と思われるが、当時の僕は(今もだけど)あまりなろう系が好きではなく、それだけの理由でpixivに投稿したのだ。
結果として、ポイントはあまりつかなかった。
そらそうだ。pixivの小説ジャンルでポイントが欲しいなら、流行り物の二次創作を書かなきゃダメだ。舞台にすら立ててないようなもんだ。
無名物書きがオリジナルの百合小説を投稿して、一体誰が読むというのか?
こうして、全然ポイントを得られなかった僕は再び筆を折りましたとさ。
――完――
とはなりません。
確かにポイントはあんまりでしたが、生まれて初めて小説の感想を貰えたんです。
たった一人からの感想。でも僕にとっては、それだけで書き続けるには充分でした。同時に、永く僕を苦しめる呪いにもなりました。
『小説面白かったです! キョウトさんならきっと小説家になれますよ!』
当人からすればどこまで本気なのかもわからない賛辞。
でも僕はその言葉を真に受けて、
「あぁ、才能があるなら……僕は小説家にならなきゃな」
と自身に誓いを立ててしまった。
短編小説を投稿したときは、小説家になりたいという想いが明確だった訳じゃない。「どうせ暇だし書いてみるか」くらいの気持ちだった。
予想より自分で読み返しても面白いものが出来て、それで割と満足していた。
でも、誰かから承認される喜びを知ってしまった。
その快楽をより味わうためにも、自分が立てた誓いを守るためにも、僕は小説家にならなければいけなかった。
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