第2話 たぶん、強い魔道士。

とてつもない轟音が店内に響く




ドゥドゥドドカァァーンッッッ!




その男は拳を振り上げ、おもいきり振り落とした。その拳は強盗の男の頭に直撃し、とてつもない轟音とともに、強盗は飛んでいく。

それは酒場の壁を突き破り、人形に型のついた穴の奥を見ると、隣の家の壁も突き破り、もう姿は見えない。


「あのぉっ!!トイレ、おおおおトイレ、かりて…いいいいいっすか??」


男は震えた声で、ケツを抑えるなんともみっともないかっこうでトイレの方をチラチラと見る。


「あ、の………ど、どうぞ」


私はあっけにとられて返事をすると、男はなにかを我慢している普通ではない走り方でトイレへ走っていった。





「いやぁ、すっきりしやした〜、今朝のんだ期限切れの牛乳あたっちゃってさー、ほんとまいるよね〜、ははははっ」


「…あの、ありがとうございました、ほんと命の恩人です」

私がトイレから出てきた人影に深々と頭を下げると、そこには見ず知らずの女が立っていた。


「え?」


「え?」


「だれ…?」



 両目が黒く、髪は半分ずつ、白と黒。睫毛も右は白い。

 


 この人、トイレに入ったときと出てくるときの風貌がまったくの別人。

 男が女に、黒が白に、目は黒に。右頬には大きな傷跡があった。全くの別人で、トイレの壁を破壊してどっかいったのでは?と思ったが、そういうわけではないらしい。


「演目術式ってやつだよ。他の人間の瞳に反射する光を魔法の粒子で歪める。私はよく変装するんだよ。趣味ってやつさ、今が本当の姿だよ。」


「そーですか、いやでも、ほんっとありがとうございました!!命の恩人です」


「え?」


「え?」


「なにが?」




顔を見合わせると、あ、この人分かってないんだな。と…


 諸々の事情を説明すると、その人は「あはははっ、あははっ」と笑って、急に真顔になり「……まじ?」と言った。

 私は「まじです。」と答えると、その人はまた笑った。


不思議な人だ。



「はぁ…、」


「にしても、さっきはみんな縛られてて驚いたよ」


「……。」


「……趣味?」


ちげぇーよ!

「だから……強盗が!」


「うんうん、わかってるって、ごめんごめんからかっただけからかっただけ。あはははっ」


なんだぁこいつ…。


「まあ、結果的に君を助けられてのなら良かったよ。……それと、そのことなんだけどさ……」

 コーヒーカップをカウンター席の机に置くと、真剣な顔で「治安維持組織Sの魔道士が来たかい?」と聞いてきた。「地元の警察ならさっききて、犯人を連行していきましたよ。あなたが腹下してる間に」

 その人は、すこし眉をひそめると「そうか、Sの諜報員は来なかったのか」と独り言を言った。


「私は旅人でしばらくはこの街に滞在する予定なんだ、明日も来る。私の名前はシグロ、しがないフリーの魔道士だ。」と言い残して、去っていった。


 かわったひとだなぁ。初めて会う、なんともいえないオーラをまとった女だった。


ガチャッ


「…あの、」

更衣室の扉が開くと、恥ずかしそうに、タロウマルくんが更衣室から出てきた。

「お、タロウマルくん着替えはすんだかい?」

 タロウマルくんは恥ずかしそうに「墓場まで持っていってくださいね」と言った。


「まぁ、私が言い出したことだしね。頑張ろうとしてくれたんだろ?」


「いや…その、なんというか。」


「?」




「昨日飲んだ、消費期限切れの牛乳が当たったみたいで」



…お前もか。


「あの人は?」


「帰ったよ。明日も来るってさ」





「所長、今日おきた居酒屋の強盗事件ですが、犯人を連行、魔道士だったようなので対魔法の手錠をはめました。今は気絶しているようで、医務室にいます」

 最近配属された新人隊員は胸を張り、すこし得意げに話した。

 はじめての手柄に気分が良いのだ。



「こいつを捕らえたのはだれだ?」



「民間の魔道士という情報ですが…、その程度でも倒せてしまうのですから、せいぜいC級の下級隊員だったのでしょう。治安組織に所属していた、などホラのようですね、ぼくでもB級なのに、はははは…」







「おい…こいつ、A級隊員だぞ」





 



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