最強魔道士と、旅をする。

@Kawa_haru

第1話 はじまり

 牛乳を毎朝飲むのが私の日課である。旅人になってからでも、訪れた土地の牛乳を飲む。


「あっ、やっべ。消費期限ちょっときれてる……



…まぁ、大丈夫かなぁ」



ごくりと一杯飲みきり、宿を出る。



※※※



それはある日のこと。大通りの路地を少し入るとその店はある。


カフェ、居酒屋『フラワーズノウ』


店主のフロアーは自身の人生最大の危機に面していた。

額からは冷や汗が止まらない。手はぐっしょりと湿り、行きは少し荒い。

 

ガシャッ!


悲鳴が店内に響く。


「おら、金出せよっ」


急に店に押し入った強盗が、レジの金を取ると今度は身代金を要求するために政府に連絡を取ったらしい。


どうしよう…わたしの魔力ではかないそうもない。


「やばいっすよ、どうやら国の魔道士らしいっすね…」

アルバイトのタロウマルくんがこそっと話しかけてくれた。


「魔道士か…私でもかないそうもないよ、タロウマルくんは?」


「一応学校で、一般教養の魔法は習いました。適正はBでした…おれ、魔道士よりも先生になりたくて、そっちの勉強メインだったんすよ…」


弱々しくタロウマルくんは言った。一般教養か…なんとかいかないか。

 ていうかタロウマルくん適正Bなのか…ごめんEくらいかと思ったよ。弱そうだし



「はやく警察来てくんないかな」


「通報できてないのに??」


タロウマルくん…きみってやつは。


「政府に身代金を用意してもらってるならすでに連絡いってるだろ」


「そっ、…そうっすね。」


張り詰めた空気のなか、私はなんとか打開しようと頭の中で色んな方法を考える。相手が絶対的強者であると、弱者は服従か死。この場合、強盗なので絶対的な死である。


どうにもなんないよな、政府の警察がくるまで…、でも私たちが無事でいる保証なんてない。


これはもう一縷の望みにかけるしか!


「タロウマルくん、キミ適性Bなんだよね?」


「う、うっす。」


「正義の味方タロウマルくんよ、いやこれといって君に頼るつもりはないのだよ。決して…」


「なっ、なんですか…、こわいっすよ店長」


「いや、まぁ…、ほんとたいしたことじゃあないんだ。」


 タロウマルくんはゴクリと唾を飲んだ。それは店長は自分の力の可能性を見出してくれているのかもしれない。なにせ、店長は頭がいいのだから。とか思ったからだ。

 小心者タロウマルは昔から優しい少年だった。だが少し優柔不断で、自分から行動することが苦手だったのである。

 それに、昔小学校にて黒板の前に立たされ、発表する場のにも少し時間をようすほど恥ずかしがり屋だった。それも算数の答え「45」このたった一言、いいや一言にも満たないこのをなかなか言い出せなかった。それがタロウマルの幼少期である。


 店長が、こうしろというのなら、やってみよう、客のため、店長のため、俺のために。そんなことを考えていた。


 このときタロウマルは、自身の人生最大に輝いていた。やってみようという気力に溢れていたのだ。ここぞというときには力を出せるのだ!そういう意志に溢れていた。




「タロウマルくん、……」



「…ごくり」






「う○こきばるかんじで魔力しぼりだしてさ、なんとかならんかね?」






"おいぃっ!店長コノヤロー!"

店の常連たち、他の客ははみんなそう思った。


 しかし、その時、店長フロアも、とても混乱していた。

 私はなんてことを言ってしまったんだ…。


 これは私の本当の気持ちではあったけれど、なんだか丸投げ感満載だよな。

 さーて、どーしたもんかねぇ…




「本当にうんこでたらどうするんすか?」


「………?」


「ほんとに、うんこもらしちゃったら、どうするんすか!?」


「…ま、まじ?」


「………。」



冗談のつもりだったのにな…



タロウマル、君は本気なのか。




そうなんだな?



 

 私には「やろう!」といきごんだ少年の意志をとめることはできない。それはいつもペコペコよそよそこそこそしていたタロウマルくんではない気がしたのだ。




「…もし、もしもだぜ?タロウマルくんがその年で、しかもこの修羅場の中、もらしたらよ。タロウマル。




骨ならひろうぜ」




「ちょっ、勘弁してくださいよ店長!それが雇い主の態度っすか…、従業員にそんなことして、労基が黙ってないっすよ!見捨ててるじゃないですか!」


「もしそうなったら、特別ボーナスだすよ」


タロウマルくんは少しうつむき、おもむろにくちをひらいた。


「妹が、学校の学費必要なんすよ。」 


「…!?」


 タロウマル…きみは…、なんて好青年なんだ…。



 やっぱり、


うーん、タロウマルくんだけに頼るのはだめだよな…、心もとない。どうしようか…



「俺はこう見えても魔導騎士団の団員だったんだ…、こんな小規模な街、政府にとっちゃ気にしてられる存在じゃない。」


 魔導騎士団か?…この強盗男。


「店長…」


「タロウマルくん、政府はいますこし騒ぎが起きていると情報通のノヤさんから聞いたことがあるよ。どうやらそのスキを狙ってきたらしいね。」


「な、なんでこの店なんすか」


「たまたま…だろうな。」


「たまたま…っすか。」



「「(´Д`)ハァ…」」




 魔道士の称号を持つものは一般人とは比べ物にならない戦力なのだ。国に雇われるとなればなおさらである。一般で雇われる魔道士と国に仕える魔道士は格が違う。

 ましてや、一般人の魔法と魔道士の魔法では比べ物にならない。



 この世界は魔法とそれを使うものに支配されてきた。


約1000年ほど前の話、世界は魔道士を持て余していた。統制がとれず、力を持て余した魔道士たちが暴れ、戦争が絶えない世界だった。


 ある時、突如として現れ、世界の戦争を集結させた組織が登場した。


『治安維持組織S』


現在は『治安維持組織S』は世界の統制をとる、世界の頂点であり、その組織は魔道士からなる。


 『S』に属する魔道士は、国仕えの魔道士ということである。

 それは一般に雇われる魔道士とは魔力の量の桁が違う。

 国に仕える魔道士の中には一人で一般人100人以上の戦力であるものもいる。

 国の上部に位置する魔道士の中には1つの街を余裕で潰せるものもいるらしい。


 この世界に産まれた子供は、その99%魔力をもって産まれる。その中から優れたものが、後に「S」の部隊、魔法騎士団へと加入していくのである。



「俺は騎士団なんかでコソコソやってられっかての、この金で俺は世界を!…」


 どことなく小者臭するんだよな…。こいつら。ほんとうに国に仕えてたのか、うそか。うそなら…なんとか。


…でももし嘘じゃなければ?


「タロウマルくん、私も実はそこそこ魔力がある。念動力系が得意なんだが、すきをつくる。君の瞬間移動で、店の客とキミはどうにかならんか」


「お、おれの瞬間移動…3人くらいまでなんすよ。」


 3人か…、一般人にしては多いほうだが、今、店には5人。

 他の人の魔力は、瞬間移動できるか微妙だな。


クソ…どうする


ばあちゃんの店が…ばあちゃんどうしよう…。



今日、皿洗いでぼちぼち魔力消費しちゃってるんだよ。こんなことなら乾燥機買うんだったな…、魔力で乾かすんじゃなかった…。



「わたしも、瞬間移動を使えるかは微妙なんだ。」


 タロウマルくんが3人瞬間移動したとしても、2回に分けると、強盗たちに気づかれてなにされるかわからない。

 もしこいつら強盗が、国に所属してた魔道士であるなら、たぶん気づいている。瞬間移動できる可能性も、一度で全員移動できないことも。だから、魔力を封じることをあえてしていないのだろう。


「妙なこと考えたら、殺すぞ」




はぁ…、どうしたもんか。



ほんとうに、ついてねぇなぁ…


私の人生、ここまでか…


こいつらは、たぶん身代金を受け取ったとしても、私達を殺すだろう。



くそ野郎…







ガラッ!!


勢いよく扉が開く。


少し背丈の高い男が立っていた。瞳は黒い。肌は白く、髪の毛も白い。不思議な感じの男だ。顔がすこし汗ばみ、焦った様子だった。





「すいませーーーーんっ!!!!!


 おトイレかりて!!!


 いいっすかあぁぁぁぁっ!!!!!!!」



 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る