第15話【大西教授のリケジョへの献身・4】

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15【大西教授のリケジョへの献身・4】   





 下着姿の明里に驚いたのは、若い父だった……。


「き、キミは……?」

「お、お父さ……?」


「え……?」


 どうやら、若い父は記憶を失ってしまっているようだった。


「信じられないでしょうけど、あたし未来から来たんです」


「未来から……?」



 大学のカフェテリアで、二人は話し合った。


 というか、明里がほとんど喋り、大西は聞き役だった。



 父である大西は、頭から否定をすることもせずに、静かに聞いてくれた。その純朴さに心を打たれながら、明里は事情を説明し、決定打を二つ見せようとしたとき、大西が感嘆の声を上げた。


「ボクの娘なのか、明里クンは」


「あ、血は繋がってないけど……信じてくれる前に、これ見てもらえます」


 明里は、研究室でコピーした瑠璃のスタッフ細胞の研究資料を大西に見せた。


「すごい……これはコロンブスの玉子だ。再生医療なんてSFの世界の話かと思っていたけど、これなら、可能だ……ただし、アメリカのスーパーコンピューターでもなければ無理だけどね」


「大丈夫かも。あたし、こんなの持ってきたの」


 明里は、タブレットを見せた。


「これは……?」


「どこまで使えるかは分からないけど、再生医療に関するデータは、出来る限り入れてきた。ちっこいけど、この時代のスパコン並の能力があるわ」


 明里が画面をスクロールさせると、大西は目を輝かせた。


「これで、お父さん、ノーベル賞とれるわよ」


「だめだよ。これは、物部瑠璃さんの研究なんだろ。横取りはできないよ」


「硬いのね、お父さん」


「そのお父さんてのは止めてくれないかなあ、実感無いし、人が聞いたら変に思うよ」


「そうだ、瑠璃さんに知らせなくっちゃ」


 記憶が無くなる恐れがある。そうなる前に伝えておかなければならないと思った。


「ごめんなさい。瑠璃さんのスタッフ細胞使って過去に来てるの。うん、再生能力はある。肌荒れもピアスの穴もなくなってた。それでね……」


「ちょっと貸して」


「あ、お父さん……大西教授と替わるから」


「ボクは、まだ助手だよ。もしもし、瑠璃さん、大西です……いいよ、帰れなくても。いや、明里はなんとか帰す。研究してみるよ。君の研究は進んでいる。ただしタイムリープ機能まで進歩してる。ボクは、ここに来て三十分ほどで記憶を無くしたけど、明里は、まだ記憶している。それに若返らない。若返り機能が生きていれば、明里は、この三十年前には存在しないからね」


「おとうさん……」


「それから、タイムリープに関しては……以上の修正を加えれば出来るはずだ、試して……切れた」


「電池切れ……」


「いや、一定時間しか繋がらないんだろう、ボクも同じようなものを持ってる」


「そのスマホで……」


「繋がらないだろう。もっともボクは、操作方法忘れてしまったけどね」


 それから、数ヶ月、明里は若い血の繋がらない父といっしょに暮らした。そして、大西は未来へ帰れる薬の開発に成功した。



「あ、お帰りなさい」


 珍しく、大西は早く帰ってきた。


「珍しく早いのね、夕食の材料買ってくるわね」


 財布を掴んで、出ようとしたら、腕を掴まれた。


「夕食は、三十年後までお預けだ」


「え……どういうこと?」


「いいことがあったんだ、まずは乾杯しよう」


 大西は、買ってきたシャンパンを開けた。


 ポン!


「キャ!」


 栓の抜ける音に、明里は一瞬目をつぶった。


「ああ、こぼれる、こぼれる……」


 大西は、キッチンに行き、ぶきっちょにシャンパンをグラスに注いだ。


「なんなの、良い事って?」


「仕事上のこと、まずは乾杯!」


「そうだね、じゃ……」


「「乾杯!」」


 二人の声が揃った。


「で、なんなの、準教授にでもなれたとか」


「準教授?」


「ああ、この時代じゃ助教授かな」


「実は……完成した、未来へ帰れる薬が。鮮度が低い、今すぐ飲んで、明里は未来に帰るんだ」


 明里の目から涙が溢れた。


「……分かった。薬を貸して」


「一気に飲むんだぞ。そして2021年12月を念じるんだ!」


「うん」


 そう言うと明里は、受け取った薬を床に流した。


「明里……!」


「あたし、未来になんか帰らない。あたし……お父さんのお嫁さんになる。血が繋がってないんだから、大丈夫」


「……そうなるんじゃないかと思った」


 大西は、別のポーションを出した。


「あたし、絶対に飲まないから!」


「これ、ヤクルト。明里の薬は、シャンパンに入れておいた。もう効いてくる頃だよ」


「お父さん!」


 大西の胸に飛び込んだ明里は、大西の体をすり抜けてしまった。


「ボクは、瑠璃クンの研究が完成されれば、それでいい。そして……明里は、自分の時代に戻って、もっと相応しい人を見つければいい」


「お父さん……」


「ボクは、この時代でやり直す」


「お母さんなんかと結婚しちゃだめだよ」


「お母さんとは結婚するよ。しなければ、お母さんは明里を堕ろしてしまう……大丈夫……」


 言葉を継ごうとしたとき、明里の姿は消えてしまった。


「……初雪か」


 窓の外には三十年後と変わらない雪が降っていた。大西にはひどく新鮮なものに見えた……。

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