第269話
「い、いきなり何しやがるんですの!」
おぉ……さすが始祖龍だ。かなーり加減したとはいえ無意識にぶっ放した魔法に対してほとんど傷がついてないじゃないか。若干鼻血が出ててる程度で済んでるとかさすがだね。
「ごめんごめん。俺には魔石をでっかくすることが出来ないとかふざけたことを抜かすからつい……」
「そんな理由でワタクシは痛い思いをしたんですの⁉」
「で? なんだって魔石をでっかくする方法を教えてくれない訳?」
すでに少しだけでっかくすることが出来てる以上、始祖龍の言い分には全くもって納得できないからな。その辺の事をキッチリ聞き出さないと。
「ちょっと! ワタクシへの暴力への謝罪はございませんの!」
「そうだね。理由いかんによってはきちんとした謝罪をするよ」
「……まぁいいですわ。魔石の巨大化ですが、これを行うには魔石の構造理解と繊細な魔力操作が必要なので、貴方みたいな生まれて間もない様な雑種には不可能なのですわ」
「ふーん……でもちょっとは出来るよ?」
証拠——としては始祖龍としては小さいかもしんないけど、とりあえず手に入れたオークの魔石をちょこっとだけでっかくして見せる。
「どうよ? この延長線上なんじゃないの?」
「……貴方、本当にあの貧弱の極みに属する人種ですの?」
「随分と失礼な物言いだけど、確かに5歳の人間の子供だよ」
「そんなの偽装に決まっておりますわ! でなければ、それだけの魔力操作は不可能に決まっているではありませんの!」
「お? という事はもっとでっかく出来るって事だな。ならさっさと教えてもらおうか。痛い目にあいたくないだろう?」
「……教えたらすぐに帰っていただけます?」
「もちろん」
だってそれ以外に用事なんてないからな。とはいえ貸しが10個くらいあるんで、それを返済させるまでは絶対に逃がさない。
「それが出来るのであれば簡単ですわ。魔石に魔力をぐわーっと入れながら、壊れないようにぷーっと膨らませるだけですわ」
「……何言ってんだお前」
「何って、魔石を巨大化させる方法を教えて差し上げたんではありませんの」
ヤバいなー。まさかの脳筋タイプだったとはな。何を言っているのか全く分からんぞ。こいつは困ったな……聞いても欠片も役に立たんとは本当に考えもしなかった。
「言ってる意味がさっぱり分からん。もっとわかりやすく言えないのか?」
「分かりやすいではございませんお。何が不満なんですの?」
「すべてに置いてだよ。なんだよぐわーっとか。ぷーっとか。ガキじゃないんだからもっと理論的な言葉で説明しろって」
「難しい事を言われても分かりませんわ。そもそも、これを教えてくれた先代の言葉をそのまま伝えているだけですわ」
マジかよ……せっかく時間を割いてこんなところまで来たっていうのに、まさかの何の収穫もナシ⁉ それはさすがにぐーたら神も許さないだろうし、ぐーたら道を歩む者としてもそれだけは許されないに決まってんだろ。
——————
「——という事で連れて来た」
1人で駄目なら2人3人という訳で、始祖龍を連れて別荘まで戻ってきました。
「で? ワシ等に何をしろというのじゃ」
「魔石をでっかくする方法を聞いたんだけどちんぷんかんぷんでね」
「だからワシ等にところに来たと?」
「そう」
他の連中だと始祖龍を見て震えあがって話にもならないだろうからな。その点、ここならフェルトが始祖龍より強いし雑魚エルフも雑魚なりにへこへこして多少離れてるけど、逃走はしないからな。
「で? 一体どんな説明をしたんじゃ? 小僧が理解出来んほどの理論をワシが理解できるとは思えんがのぉ」
「何も難しい事は言っておりませんわ。ただ魔力をぐわーっと入れて、ぷくーっと膨らませればいいだけど至極簡単に説明しているんですのよ」
ふんす! と始祖龍がドヤ顔を披露してるけど、目の前のフェルトはその説明にやっぱり理解が出来ないようで、珍しく少しの間きょとんとした顔をしてたと思ったら、額を押さえて深い深いため息をついた。
「……すまんな小僧。ワシにもこの馬鹿龍が何を言っておるのかさっぱりじゃな。なんじゃその抽象的な説明は! 人に伝える気がないじゃろ!」
「な、何故ですの? これほどわかりやすく説明して差し上げているというのに、お2人共頭が悪いのではなくって?」
俺達が理解できない事を馬鹿なんだと勘違いした始祖龍が、あからさまにこちらを馬鹿にしたような声色でふふんと鼻を鳴らすと、巨体から出てくる物だけにまた後ろ周り4回転。
「何しとるんじゃ小僧?」
「鼻息が荒くて困るよ」
「し、失敬ですわよ! レディに向かってそのような発言をするなんて!」
「しかし困ったな……これじゃあ来た意味がないという事実を捻じ曲げるために、始祖龍の鱗でも引っぺがして帰らないとぐーたら神に怒られるんだけど?」
「何故ワタクシが悪いのですの⁉ こんな簡単な事を理解できない貴方が悪いのでしょう! これだから下等で存在価値が皆無な人種は」
やれやれと言わんばかりに首を左右に振る始祖龍に、俺もフェルトもイラッとして魔法でもぶっ放してやろうかなーと思ったんだが、ふと雑魚エルフが何の反応も示さない事に違和感を覚えたんで見てみると、こっちはこっちでなんとも微妙な表情をしてるぞ。
「なんだよ雑魚エルフ。その小馬鹿にしたような信じられないものを見たような微妙な顔は」
「ふむ……その様子じゃと、どうやらこの遠い孫はこの阿呆龍の説明困難な言語を理解出来ておるんじゃないかのぉ?」
「合っているのかどうは分かりませんが、言っている事は理解できているかと……」
「……ちなみになんと理解したんじゃ?」
ナイスだフェルト。このまま俺が尋ねれば、この雑魚エルフはきっと簡単に口を割らんかっただろう。まぁ、そうなったらそうなったでフェルトを脅せば解決するんだけど――って、もしかして……そうならないように先んじたってのか?
……まぁ、俺としては雑魚エルフの見解が聞ければそれでいいからどうだっていいんだけどね。
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