第268話
「さーって。そろそろ行くかー」
昼飯を食い終わり、畑仕事も終わった俺に残ってる今日の予定は、始祖龍の所で魔石をでっかくする方法を見学させてもらうだけだ。
いつもより少しだけ軽く感じる足取りで家を出て、土板に乗り込んでいつもの洞窟へ――と思ったけど、あそこは薬師見習いがいつ顔を出すか分からんデンジャラスゾーンへと変貌しちゃったんだったっけ。
一応確認のために洞窟の前を通ってみると、今日は1日中当番じゃないのかその姿がしっかりと確認出来ちゃったんで、そのままスルーして高度をグングン上げる羽目に。
「あー、面倒臭いなー」
あの洞窟だったらほとんど人が来ないから随分とぐーたらな転移が出来てたのに、あいつのせいでいちいち成層圏まで飛んで行かなくちゃなんなくなった。
かといって、どこかに転移するためになんか新しい場所を作ったりしたらその方が滅茶苦茶怪しまれるよなー。言い訳を考えるのも面倒だから、結局はこれが1番手っ取り早い妥協案だろう。
——————
「おっすー。あれ? なんで始祖龍居ないのにフェルトが居るの?」
転移で別荘にやって来ると、玄関前にフェルトと雑魚エルフが居るけど、始祖龍の姿も確認できないし魔力も欠片も察知できないのには首をかしげる。確か昼飯を食う前に連れて来てねと言ってあったんで、多少なりとも時間的猶予をあげたはずなんだけど、どういう事なんだろう?
「無茶を言うでないわ! どうやって瞬きのような時間であ奴をここに連れて来いというのじゃ!」
「魔法使えばいいじゃん」
確かフェルトは土魔法以外の魔法に適性があったはず。それなら風魔法で体を浮かせ、弾丸みたいな速度で飛んで始祖龍を連れて帰ってこれるだけの魔力量はあるはずなのにそれをしない。それはもはやぐーたらじゃなくて怠けだ。
「どれだけの距離がると思っておる。小僧と一緒にするでないわ」
「なんだよ使えないなー」
薬草の世話を任せてはいるけど、ここに住んでて始祖龍と交流があるならそのくらいのことはしてもらわないとちょっと困るなー。
「貴様! 始祖様に何という言葉遣いをしている。死にたげふぁ⁉」
相変わらず学習能力が皆無らしい雑魚エルフが俺にまた突っかかって来ようとしてたっぽいけど、フェルトがあっという間に魔法で制圧。ここでの暮らしのためなんだとしても容赦ないねー。
「すまんのぉ。この馬鹿は後で叱っておくわい。しかしじゃのぉ……さすがのワシでもあ奴の巣まで飛んで行く事は出来ても魔力が空になってしまうわい」
「そうなの? そんな遠かったっけ?」
1回。始祖龍の巣に転移魔法で飛んだ記憶があるけど、そこまで魔力が減ったような気はしなかったはずなんで、フェルトの魔力量なら十分往復できると思うんだけどなー?
「あれでも龍じゃぞ? そう簡単に見つかるような場所に居る訳なかろうが」
「そう言えばそうだったね」
フェルト以下って知ってるせいか、全くと言っていいほど脅威に感じてなかったからすっかり忘れてた。あれでも世界中から恐れられてる――んだよね? ワイバーンですらひーこら言ってるような戦闘力の世界で、その存在知ってるのって俺とフェルトと雑魚エルフくらいじゃね?
つっても、何にも行動をしなかったのはクソ木の下に住ませてやってる対価としてはあまりにも怠けが過ぎるんで、当然だけど何かしらのペナルティは受けてもらわんとね。
「分かってると思うけど、なんもしなかったことに対して罰があるからね」
「何故じゃ! ワシはなにも出来んと言ったではないか!」
「出来なかったんじゃなくてしなかったんでしょ? そこを間違っちゃいけない」
厳密にいえば、魔力はなくなるけどフェルトは始祖龍のもとに行けると自白してた。だからやりなよとはさすがに言えない。魔力が無くなったフェルトがどんな強さか知らんけど、始祖龍に勝てるかどうかまでは知らんからね。
とはいえ、そうならないように考える事も大切だろう。
パッと思いつくのは、ある程度の距離まで近づいたら、死なない程度の威力で矢を放つとかね。ここに住み続けたいならそういう努力をしないといけないといういい教訓になっただろう。
「た、頼むからここから追い出すというのだけは勘弁してくれんか?」
「そうだね。今のところいい罰が思いつかないんでとりあえず保留にしておくけど、これからはもっとちゃんと考えて行動するといいよ」
「気を付ける事にするわい」
「じゃ。俺は始祖龍の所に行くねー」
———————
結局何の意味もなかった別荘を後にして始祖龍の巣に転移してみるも、1回行った程度の場所だったせいかそこに始祖龍の姿は発見できなかったけど、距離が近づいたおかげでその魔力を感知する事が出来たんでそっちに飛ぶ。
「ぎゃああああああああ!」
「人の顔を見るなり悲鳴上げるって酷くない?」
始祖龍の目の前に現れると、1秒もかからず何故か大絶叫。まだ何もしてないのにその態度はいかがなものかと思うなー。これでもフェルトの魔の手から何回か命を救ってあげたはずなんだけどね。
「ひ、1人ですの?」
「ここに来るのにフェルトは役に立たないからね」
そういうと始祖龍が安堵したのかほっと息を吐いたんだけど、眼前に立ってるせいかそれをもろに受けて後ろ周りを5回6回。
「何をなさっているんですの?」
「お前のせいなんだけど?」
「ワタクシは何もしておりませんわ。言いがかりをつけるのは止めていただきたいですわね」
「……まぁいいや。そんな文句を言うためにこんなド辺境まで来た訳じゃないから」
「では何をしに来たんですの? 正直、貴方ともあのエルフとも二度と関わり合いになりたくないのですけど?」
「とりあえず今回の要件が成功すれば、俺から会いに来ることはほとんどなくなるんじゃないかなー?」
明言しないのは、後でどうなるか分からないから。
正直言って、魔石をでっかくする方法が出来るようになれば始祖龍に用事らしい用事はないんだけど、5年10年と経てば状況が変わるかもしれない。そうなった時に「あの時、関わり合いにないならないって言ったよね?」とか言われないようにしておく必要がある。
「その要件とは一体何ですの?」
「魔石をでっかくする方法を教えて」
「あぁ。それは不可能です――ふぎゃあ⁉」
おっと。ノータイムで言われたんでつい反射的に土魔法で作った岩を顔面に叩き込んじゃったよ。
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