第265話
「ただいまー」
「はーいおかえりなさーい。魔石はどうだったかしらー?」
帰って来るなりエレナが出迎えてくれたけど、その理由が冷房のためなんだと分かったんで、家族の心配よりそっちの方が重要なんだねーって目でじっと見つめる。
「あらあらー。3人もいてお母さんが心配になるような事があるのかしらー?」
「だとしてもまずは無事の確認なんじゃないの?」
正直すぎでしょ。まぁ、グレッグが居てアリアが居て俺が居れば、大抵の魔物は相手にできるのは十分理解してるけどさ。母親なんだからポーズであっても無事に帰って来て何よりだねー。みたいなやり取りは必要じゃないかなー?
「アリアちゃんはどう思うかしらー?」
「え? 別に要らないんじゃない? そんな事よりオーク肉よオーク肉。もうすぐ晩御飯なんだからこれで美味しい料理をさっさと作りなさいよ」
どうやらアリアは食い気の方が勝っているらしい。パッと土板から飛び降りた時にはすでにオーク肉の塊を手にしており、ぐいぐいと俺に押し付けて来る。
「ほら見なさーい。アリアちゃんもいいって言ってるじゃなーい」
「……はいはい。じゃあもういいですよ」
心配されないのは信頼の証とでも受け取っておこう。
「じゃあグレッグ。さっきの話をちゃんと胸に刻んでおいてよ?」
「……分かっていますが、少年もきちんと行動してくださいよ」
道中での話し合いの結果、訓練についてはオークが倒せるくらいで十分という結論に至り。訓練の内容を少々見直すとの言に、腕っぷし自慢の村人と鉄級冒険者は歓喜の雄たけびを。逆にアリアは不満そうな顔をしてたっけ。
その代償とでもいうのかね。鳥への対抗手段を生み出せと言われてしまった。
これに関しては別に期限が設けられててないんでそこそこ無視するつもりではある。だって1からそう言うのを作るのって面倒くさいじゃん? なんで、ルッツに丸投げする予定だ。その方が俺も楽だし学ぶ機会があるんだから、魔道具でなんか作るよりはよっぽどぐーたらでしょ。
「あらー。いったい何のお話かしらー?」
「母さんには関係ないから大丈夫。それよりも「冷房を作っちゃいましょうねー」ご飯は?」
「それはお母さんがやっておくからー、リックちゃんは厨房に冷房作るのよー」
「……うい」
怖ぁ……。これが冷房という魔物にとらわれた者の末路か……。まぁ、とはいえ夕飯作りが免除されるのはありがたいが、一応保険をかけておく必要があるだろうから、その辺はゆっくりのんびり作らせてもらうとしますかね。
さて。家で消費する分のオーク肉を確保してから、残りを倉庫に持って行く事で少しでも時間稼ぎをしよっかなーって思ってたら――
「そういうのはグレッグ達に任せなさーい」
と肩をしっかりとつかまれながら言われた。結界で守ってるから痛いと感じないけど、身体がうんともすんとも言わないってのを考えると相当な力が加わってんだろうなーって思う。
「じゃあ。よろしくね」
「ええ。村の者達にオーク肉の事は知らせてよいのですね?」
「いいよ。みんなで食べるためにこうして持って帰って来たんだし」
「骨もですか?」
「そっちは実験がうまくいったらだねー」
豚骨スープ的なものが出来れば濃厚な旨味を感じられるスープが出来るだろうけど、ネギやショウガといった香味野菜がない現状だと臭ぇスープになる未来しか見えない。ちなみに俺はそれが駄目なタイプの人間です。
その臭いがたまらん。という奴も一定数居るらしいけど俺が駄目なんで、臭いがなくて美味いスープを作るのは随分と先になりそうだ。
グレッグ達を見送り、俺はエレナに引きずられるようにしながらキッチンへと連行させられる。
「さぁリックちゃん。お願いねー」
「……とりあえず材料とか取って来るね」
魔石はオークのを使うらしい。まぁまぁでっかいけどゴーレムには劣る。
なので――
「むーん……」
ゴブリンの魔石で成功させた巨大化で、オークの魔石を少しだけ大きくさせてからキッチンに戻ると、オーク肉の塊を切り分けた物を前に頬に手を当てて何やら悩んでいる様子。
「どうしたの母さん?」
「あらリックちゃーん。これからお肉を焼こうと思ってるところよー」
「そうなんだ。じゃあこっちも始めちゃうねー」
「お願いねー」
と言っても、すでに魔法陣を刻んだ鉄板は亜空間にいくつか保管してあったんで、魔石を嵌めてどっか適当な場所に設置すればいいだけなんで、都合5分もかからない。
「どこにつければいいのー?」
「魔石の取り外しがしやすい場所がいいわねー」
最終確認をしてからぐるりとキッチンを見渡して、都合が良さそうなのは入り口そばの壁かな。ここなら出入りの時にスイッチのオンオフもしやすいし、魔石の取り外しも簡単だからな。
「はいおしまい」
「それじゃー暑いからすぐ点けてくれないかしらー」
要求があったんですぐに早速スイッチオン。
近くに居る俺にはすぐに冷気が感じ取れたけど、熱期で絶賛オーク肉を焼いてるエレナまで届くには時間がかかるようで、しきりにこちらを確認するかのようにちらちらと振り返って来る。
「そんなに焦らなくてもすぐに涼しくなるって」
「そ、そんなんじゃないわよー。お母さんはただリックちゃんがちゃんとできてるのか確認してただけよー?」
「ふーん。まぁ、ちゃんとできてるから大丈夫だよー」
それよりも夕飯の方は大丈夫? とばかりに手元をのぞき込んでみると、案の定と言わんばかりに片面が随分と黒くなったオーク肉が。
「あーあ。どうするの……コレ」
「もちろんお父さんの分よー」
ニッコリ笑顔で用意しておいた皿にのせ、新しいオーク肉を焼く。当然俺は何も言わない。なんか言ってあれが俺のになるのは嫌だからな。
「……あらー。ようやく涼しくなってきたわー」
「そりゃよかった。とりあえずオークの魔石がどのくらい長持ちするか分かんないけど、切れたら教えてね」
「わかったわー」
という事で出来上がった夕飯。全員の前にはオーク肉の塩焼きとパンとスープが並んだわけだけど――
「なぁエレナ――」
「なにかしらー?」
「いや。今日もおいしそうなご飯をありがとう」
何も言えない圧にヴォルフはあっという間に屈し、そこそこ焦げた肉をガツガツ食らった。
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