第264話

「では反省会を始めましょうか」


 森から飛び立ってすぐ、グレッグがそんな事を言うと、腕っぷし自慢の村人連中どころか元・鉄級冒険者まで真っ蒼になりながら頭を抱え始めた。

 それを見るだけで、あぁ……結構酷いんだろうなーってのが分かる。

 そんな中、アリアだけは大量の豚肉をじーっと眺めてる。話を聞いてないのか。それとも自分には関係ないのか。どっちなのかは分かんないなー。


「でも、反省する事あった?」

「むしろそれしかなかったのですが?」

「そうなの?」


 どうやら俺とグレッグの互いの認識は大きく違うようだ。

 俺からすれば、腕っぷし自慢の村人連中も、元・鉄級冒険者の連中も頑張ったと思うよ? 結果はよろしくなかったのかもしんないけど、初めての森で初めてのオーク戦って考えれば十分すぎるんじゃないかな?


「分かっておりませんね少年。今回この廃棄物共が五体満足でこうしていられるのはアリア嬢が同行したからにすぎません。そうでなければウルフ相手にいまだに怪我をするような腰抜け能無し無能共ですからね」

「へー」


 確かにアリアの活躍は凄かった――んだと思う。正直良く分からんけど、他の連中と違って必死な表情は全くなかった。なんとなくだけど、魔物と戦える事に対して嬉々として剣を振り回してたからそう思えるだけだけどね。


「まったくもって情けない。貴様等はそんな体たらくで一人前の領兵になれると思っているのか!」

「いや、そっちの鉄級冒険者は農家だからね?」


 俺的優先順位として、兵士なんて最下層も最下層だ。どうせ戦争なんてそうそう起きないし、そんな物より新鮮野菜を作る人材の方がこの村にはよっぽど必要なんだ。全員にアンケートを取らずとも分かり切ってる事だろう。


「……そう言えばそうでしたね。しかし、こいつ等は兵士となるために訓練を重ねているにもかかわらず、全くと言っていいほど成長が感じられない事に絶望するばかりですよ」

「前々から言ってるけど、やっぱり厳しすぎるからじゃないの?」


 人には人のペースってもんがある。アリアとかであれば、才能があるから1を聞いて10を知る――のは脳筋なんで不可能だから、感じ取れると表現するのが正しいだろう。

 そんなアリアとくらべれば、言っちゃ悪いけど腕っぷし自慢の村人連中だったり、元・鉄級冒険者は才能が乏しいので、普通に死屍累々が出来上がる。

 本来。人を育てるってのは時間と金がかかるもの。それを短縮しようと無茶なスケジュールで鍛えようとすればそりゃあ失敗するわな。


「あれが厳しいと?」

「別に結果が出てるなら文句も言わないよ? でも話を聞く限りだと、その成果って言うのは全くじゃん? そうなると、さすがにグレッグの教育方針が間違ってるんじゃないかって疑い始めるって」


 これでウルフ相手に無双とか出来てるんであればまだ納得してもよかったんだけど、さすがにこれほどまでに体たらくを続けられるとクビにせざるを得ないっしょ。


「何言ってんのよ。グレッグの訓練は結構楽しいわよ」

「それはアリア姉さん的にはでしょ。第一、俺は今までの訓練が身になってるかなってないかって話をしてんの。楽しい楽しくないは別の話だから」


 そもそもあの地獄の訓練を楽しいと言える神経を疑うわ。


「ううむ……確かに少年の言う通りなのですが、だからと言ってすべてワタシが悪いと決めつけるのはいささか荷が重すぎませんか?」

「いやいや。結構時間あったのにこの結果なのはグレッグが悪いでしょ」


 俺が魔法で武具を作るようになって数年。本格的な戦闘訓練をやって来てるわけだけど、結果は見た通り。オーク1匹を相手にするのもやっとの有様。別にこれが悪いとは言わないよ? 初見の魔物を相手に多少の怪我をしながらも死人を出さずに乗り切ったのは頑張ったと思う。


「そもそも。どこを目指してるの?」

「もちろん立派な兵士ですよ」

「その立派ってどのくらい?」


 やる事がないんで、いつもだったらへーそーなんだーくらいで終わっちゃう話を、ここらでいったん詰めるじゃないけど、グレッグの未来予想を聞いてみようじゃないか。


「どのくらい……」

「例えば……ドラゴンの巣に単騎で突っ込んで無傷で帰って来るとか」

「それはもはや人を超越していますね。理想を語るのであれば、オーガ程度を単独で討伐できる程度の力は欲しいですね」

「俺、今5歳なんだけどいつになりそう?」


 つまり。5年かけてオークにひーこら言ってるのに、より上位の存在だろうオーガなんてのを相手に単独撃破が出来るのか? どう考えたって無理っしょ。ってのが俺の本音だ。


「……100年以上はかかりそうですね」

「だろうね。だからって別に止めろって言ってるわけじゃないよ? ウルフ肉は村の大事な新鮮肉だし。水場の様子を見るのも大切な仕事だからね。でもそのくらいでいいっしょ」


 こいつらが居ないと村の経営は成り立たない。だから戦力は必要だけど、別に過剰な戦力は求めてないんで、ほどほどの訓練でよくね? って事。


「まぁ、少年の言わんとする事は分かりますが、ではあの水場はどうするのです?」

「確かにねぇ……」


 今まではウルフだけだったけど、いつの間にか新しい村民? として鳥が新メンバーとして居付いてるからな。あれの対処が出来る程度には確かに今以上の実力が必要だね。


「弓矢でも作る?」

「今からですか?」

「確か難民の中に狩人だった奴が居たはずだから、そいつに教官として仕事を押し付け――げふげふ。頼んでみようよ」

「別に構いませんが、肝心の弓矢はどうするのです? いくら少年でも、弓矢は不可能では?」


 そうだねぇ……矢はある意味無限に生み出す事が出来るけど、弓ばっかりは弦の部分は魔法じゃどうしようもないっぽいもんなー。

 だからと言って、無駄に厳しい訓練を続ける理由にはならないんだけどね。

 弓矢がダメってなると、とりあえずルッツに弓矢本体なり材料なりを入荷してもらうとして、その間に鳥を叩き落せる他の投擲武器を考える必要があるなー。


「とりあえずなんか考えてみるよー」


 パッと思いつく武器はあるけど、それも魔法じゃ代替できない素材が必要だから作る事が出来ないんで、なんか思いついたらって事でこの話はおしまい。

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