第263話
「それで? なんだってオークに追われるような事になった訳?」
「大方、実力を勘違いして勝てると思ったのでしょう。しかし結果はさんざん。我々が居なければ全員殺されていたでしょうね」
俺の問いに、間髪を入れずにグレッグが答えてくれて、それが正解だと言わんばかりにこいつ等はうつむいた。
見た感じ、成人して間もないか少し経ったくらいだろうから、冒険者としてちょっとは活躍してきたんだろう。当然魔物も何体か倒してて、依頼をこなしていくうちにまるで自分が勇者か何かと勘違いでもしてきたのかな? その結果としてオークに挑んで返り討ちにあったと。これはあれだ――
「若気の至りって奴だねー」
「この場の誰よりも若い少年が使う言葉ではありませんよ……」
おっとそうだった。ついつい本音がぽろっと出てしまったか。おかげで睨まれてしまったが、グレッグやアリアに劣る実力じゃあビビったりせんよ。
「とにかく。あんた達のおかげで命拾いしたよ」
「助けてもらったんだ。なんか礼がしたいんだが……」
「装備を一新したせいで生憎と金はない!」
「なので他の方法だと助かります」
「……こういう場合どうするの?」
命を助けたんだから礼を貰うのは当たり前。
だが、真っ先に金を要求するつもりだったから出鼻をくじかれた以上、何がいいのかはすぐにパッと思いつかないし、冒険者については全くの無知なので、場数を踏んでるだろうグレッグに全投げする事に。
「そうですね……それなら、ワタシ達の存在を外部に漏らさないという事にしましょうかね。少年はそれでいかがですか?」
「……あぁ。それはいいね」
俺も魔法が結構使えるって事は他人にあんま知られたくないし、近くの村のギルドに勝手にオークを狩って素材を持ち逃げするってのがバレるとあと後面倒臭い事になりそうだからな。
だが、こっちとしてはナイスな提案だったとしても、相手側からしたらそうではなかったらしい。それを聞いた瞬間に明確に警戒心みたいなのが出て来たぞ?
「なんだそれ。もしかしてあんた達……犯罪者か何かなのか?」
そう言って各々が武器に手をかける。なるほど確かに。一般的に素性を秘密にしろと言うのは、見つかったら速攻で奴隷落ちかデストロイされる犯罪者である可能性は高いね。
だがしかし。そんな連中が果たして人助けなんてするか? 普通に考えればおかしいんじゃないかってすぐに気づきそうなもんだけど、冒険者を目指すような連中は基本スペックとしてアリアみたいに脳筋がデフォなのか?
「痛っ⁉ 急に殴んないでくんないかな!」
振り返ると、解体途中だったはずのアリアがすぐそこに居る。殴った犯人は言わずもがなだろう。
「アタシの勘が殴っていいと言ってたのよ」
また勘か……まぁ、それもあながち間違っちゃいないから怖いんだよな。いつもならここで文句の3つや4つくらい言いたいところなんだけど、間が悪い事にヴォルフもエレナも居ないからなー。
まぁ、エレナの場合は居た所で素っ頓狂な勘違いをしまくるから役に立たないし、今はちょっと立て込んでるってのもあるから、正直相手してる場合じゃないんだよねー。
「とりあえず、今話し合いの途中だから邪魔しないでくんない?」
「こっちもそろそろ終わるからさっさと終わらせなさいよ」
どうやら本当に本能に従って殴りに来ただけらしい。そんなアリアのおかげというかせいというか……ピリッとした空気は結構和らいだ感じがする。
「で? なんだったっけ?」
「もういいわ。とりあえずあんた等の事を黙ってりゃいいんだろ?」
「そもそも盗賊や山賊の類なら僕等全員もう死んでるしね」
「確かに!」
「本当にそれだけでいいんですかね?」
「ええ。それさえ守っていただけるのであれば問題はありませんが、反故にされた時には相応の代償を支払ってもらいますので、ゆめゆめ忘れなきように」
グレッグが腰の剣に手を当てながらニッコリ笑顔でそう返すと、冒険者連中は顔を青くしながらヘッドバンキングしてんじゃねーかと突っ込みたくなるくらい激しく上下にシェイクしまくってる。
そりゃそうか。相手はオークを瞬時にこま切れにするくらいの実力者で、その実態は何者か全くわかってないんだ。本当にその場しのぎのウソで切り抜けてギルドに報告でもしようものなら、普通に頭と胴体が離れ離れになって魔物の餌になるんじゃないかな?
「では消えなさい」
そう告げるだけで、冒険者連中は猛スピードで走り去っていった。オークに全くかなわなかった雑魚連中だけど、逃げ足だけは随分と早いなー。
「ちゃんと黙ってると思う?」
「まぁ、あれだけ脅せば問題ないでしょうし、駄目だった場合はルッツに頼んで消してもらえばいいんですよ。商人ですから冒険者の情報などいくらでも入って来るでしょうからね」
わーお。すっごい怖い事を平然と言っちゃってるよこの人。
つっても、命を救った代償の約束なんだから、破ったら死んじゃうのは当たり前か。果たしてその事実に気付いて墓まで持って行くことが出来るのかな? 多分出来ないだろうなー。
「さて。どうやらあちらも終わったみたいですよ」
後ろを振り返ると、ようやくオークの解体が終わったみたいで、全員がドバドバ流れる水魔法に腕や頭を突っ込んで魔物の血を洗い流してる。
「どれどれ……」
戦利品は……魔石は当然として、後は……剝いだ皮があるって事は防具にでもするのかな?
そして当然のように鎮座する大量の豚肉。これにはアリアも満面の笑みを浮かべながら俺に向かって突き出しながら、なんか美味いの作りなさいよ! って顔をしてくるんで、ちらっと眼を向けるだけで特に何も言わずにそれを受け取って土板荷台に放り投げる。
「……これで全部だね」
「ええ。そろそろいい時間ですし、戻りましょう」
「ええー! アタシまだまだ戦い足りないんだけど?」
「ワタシの指示に従う事が同行の条件だったはずですよ? 従えないのであれば仕方ありませんね。二度とこういう事には参加――」
「さーてすぐに帰るわよリック。何ぼーっとしてんのよ。さっさと行くわよ!」
現金な奴だ。
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