第262話
「助けてくれえええええ!」
「邪魔だゴミが!」
「ごふっ⁉」
「えぇ……」
助けを求めて来た冒険者の1人を、グレッグは何のためらいもなく蹴っ飛ばした。
その光景を目にした大抵の連中は思っただろう。もうちょっとやり方ってもんがあるんじゃない? と。
まぁ、それは後で問いただすとして、手を貸したほうがいいのかなーと一応魔法の準備をしたんだけど、先陣を切っていたオークはすでにグレッグの剣によってあっさりとバラバラになってて、続くオーク達の勢いが明らかに弱まった。
「いただき!」
それを見逃す脳筋アリアではなかったようで、すでにオークに切りかかってて、グレッグには遠く及ばないけどその腕に小さくない傷が出来た。
「硬……いのね。うわっと!」
それでもオークは気にも留めずに反撃の横薙ぎをしたけど、アリアは軽く回避。
「そんな大振り、当たる訳ないっての!」
嬉しそうのそう吠えたアリアが地を蹴った。と思ったらすでにオークの背後にいて、腕やわき腹に10近い傷があっという間にできて、野太い悲鳴があがる。
「おー。アリア姉さんすごーい」
「フン。こんな程度、父さんの訓練に比べればどうって事ないわよ」
確かに。ヴォルフに比べればオークの動きなんてほとんど止まってるようなもんだといっても、それはアリアやグレッグの基準に過ぎない。そしてその数は全部で5体。
そのうちグレッグがもう3体目を仕留め終えてて、1体はアリアが嬉々として交戦中。残り1体は――村人や鉄級冒険者が訓練の一環として相手をさせられているわけなんだけど、こっちは悲惨の一言に尽きるね。
「ぎゃあああああ!」
「馬鹿! もうちっと踏ん張れって!」
「無茶言うなよ! 1人であんな一撃……防具は無事でも体がもたねぇって!」
オークが棍棒を振るう度、避けられるほど素早く動けないようで。俺が作ってやった盾で受け止めようとするんだけど、踏ん張り切れずに吹っ飛ぶ。
それでも、1人で駄目なら2人。さらに駄目なら3人と、ちょっとずつではあるけど頭を使って対応し始めてる。これにはグレッグも――表情を見る限りだと合格点には程遠いっぽい。
とりあえず、オークに関しては大丈夫だろう。問題があるとすればあっちかな。
「グレッグ。あっちどうするの?」
なんとなく逃げられない様に、突っ込んで来た冒険者だろう連中は首辺りまで地面に埋めてあるんだけど、一体どうしたらいいんだろうか。
「とりあえず戦闘が終わるまでは放置です。一応怪我にだけは注意してくれると助かります」
「分かったー」
じゃあ結界でも張っておこう。こうしておけば、ドラゴンが踏んづけてきても無傷の自信しかない。
そうこうしているうちに、アリアの方は片が付いたみたいだ。全身切り刻まれて血だらけで倒れるオークを横目に、勝利を喜んだりする事無く何故か剣を見つめてじーっとしてる。
「アリア姉さんどったの?」
「ん? グレッグみたいに1発で腕を切り落としたり腹を薙ぎ払えたり出来なかったなーと反省してんのよ」
グレッグとアリアじゃ戦ってきた年月が違うんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、そう言った所で納得しなさそうだしなー。ここは素直に誉めておくか。普通にすごいと思ったし。
「それでも、1人でオーク倒せたのが凄いんじゃない? あっちはあんなだし」
一応優勢ではあるけど、村人と鉄級冒険者達の方はまだ時間がかかってるし、まだまだかかりそうな気がする。それと比べれば、12歳でオークを1人で倒せるのは十分強いんじゃないかな?
「……アンタも凄いと思う?」
「と思うよ」
他を知らないから確証はないけど、俺のイメージする一般的な12歳からは確実に逸脱した強さをしてるので、そう答えておく。
「ふーん……なるほどね」
「うん。このままいけば父さんくらい強くなれるんじゃない?」
「それじゃ駄目よ。アタシは父さんを超える冒険者になるんだから」
「父さんは傭兵だけど?」
「そういう細かい事はいいのよ!」
さて、ようやく最後のオークが倒れたところで、解体が始まるだろうから水魔法をドバドバ出しながら、地面に埋まってる冒険者だろう連中の所にグレッグと共に近づく。
「やぁ。蹴っ飛ばされた奴以外に怪我人はいないよね?」
「あ、ああ……」
「助けてくれたのには感謝するが、これはどういうつもりだ?」
まぁ、魔物から逃げて。助けを求めたら仲間が蹴っ飛ばされたうえに首まで地面に埋められたら文句の1つや2つくらいは出て当然だろう。
しかし。こっちにはこっちの言い分は当然ある。
「いろいろ話を聞きたいと思ってさ。まず初めに確認なんだけど、あの大量の魔物から逃げて来てたって認識で大丈夫なんだよね?」
「少年。それ以外に何の理由があるというのですか?」
「んー? 単純にああやって他の冒険者殺して回ってるかもしれないじゃん?」
MPKっていうんだったっけか? ネットゲームでそんなやり口を聞いた事もあればやられた経験もある。日本——ってか地球じゃ現実に魔物なんて居ないからそんな事は出来なくとも、この世界だったらこうして魔物は大量に存在する。
だから、一応の確認のために聞いてみたんだけど、埋まってる冒険者どころかあのグレッグまでもがドン引きしてる。何気にそういう表情を見るのが初めてかも。
「お前……年は?」
「ん? 5歳」
「その年でなんちゅうえげつねぇ手段考え付いてんだよ」
「少年の思考回路は時々恐ろしく感じますね。普通はこの愚図共の安否の確認だと思うのですが、何故初めにそんな言葉が出てくるのですか?」
「そう? 結構普通だと思うけどなー?」
「「絶対に普通じゃない」」
あれだけ走れるんだから、大した怪我をしてない事はすぐに分かりそうなもんだと思う。なので次に思いついた疑問を普通に確認しただけなのに、まさかここまで外道扱いされるとはね。
「まぁいいや。それで? やったの? やってないの?」
「「「やってるかぁ‼」」」
「と言ってるけどどう思う?」
「見たところ、多少なりとも怪我を負っているようですし、武具の傷み具合はあまりなかったので、盗賊や山賊の類ではないかと思われます」
「ふーん……」
グレッグがそういうのなら違うのかな? まぁ、なんかあったとしてもグレッグにアリアが居ればこんな奴らすぐに制圧できるだろうって事で、無罪放免って訳じゃないけど地面からは出してやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます