第261話

「さて、そろそろ休憩をはさみましょう」


 あれから何時間くらい動き回ったんだろうね。土板にはそこそこな量の魔石が積みあがってるけど、俺としてはもっと欲しいかな。魔石に魔力を込めるのはそう難しくないから、あればあるだけぐーたらに繋がるからな。

 とはいえ、ぶっ続けで働かせるほど俺は悪徳貴族じゃないからね。おまけにブラック経験者でもあるからな。効率よく仕事をしてもらうにはしっかり休むのもまた仕事のうちだろうよ。


「じゃあちょっと待っててねー」


 休憩をするならまずは安全なスペースが要るだろうから、土魔法で木々を押しのけてそれを確保しつつ、さすがに家はやりすぎかなーと思うんでイスやテーブルなんかで止めておく。


「こんなもんでいいかな?」

「やりすぎです。これでは休憩中の警戒訓練が出来ないではないですか」

「仕方ないなー」


 どうやら休憩中も訓練がしたいらしいグレッグの要求に従って、覚えてる限り元の森の形に戻す。完璧かどうかなんてどうでもいいだろうし適当に。


「さて、では宣言通りに魔物の襲撃がないか、感覚を研ぎ澄ませ。気配を察知するように。ワタシも少年も手出しはしませんので、一定時間過ごすように」


 そう言って土板に乗り込んで上を指さすんで、そのまま上昇。一応アリアでも届かないかなー? ってくらいの高度でいったん止まる。


「このくらいで大丈夫?」

「そうですね……もう少し高度を下げてもらえますかね」


 そうして微調整した高さで、グレッグは下を眺めながら。俺は昼食を食べながらぼけーっと魔石に目を向ける。

 水洗いしてるんで血とか汚れないけど、ゴブリンのだからなのかね。色が濁ってて小さく、魔力をちょっと流せばあっという間に一杯になる。つまり、それだけ早く魔力が無くなるって事。

 でも、始祖龍はこれをデッカイ魔石に変えられる。いったいどうやってるのか分かんないけど、俺にもできないかな? そうすればわざわざ転移で移動する無駄な時間を省けるし……ちょっと試してみるか。


「……」


 とりあえず鑑定魔法で魔石を確認。うん……普通にゴブリンの魔石と出たけど、他に特筆すべき情報がない。まぁ、最初からそんなんで分かる訳ないだろうと思ってたから特にガッカリもしない。

 とりあえず、過剰に魔力を込めてみるとすぐにヒビが入って粉々になった。なんか見た事あるなーと思ったら前にも同じ事やってたんだったな。今思い出した。


「何をしているのですか?」

「ちょっとした実験」


 次はどうすっかな……適当に魔力を入れるんじゃなくて、風船を膨らますみたいにしてみるか。


「お?」


 いい感じじゃないか? 心なしか魔石が膨らんでるようにも見える気がするけど、滅茶苦茶効率悪いなー。これだったら1回始祖龍の所に持ってってコツを聞き出した方が何倍も無駄な時間が減るか。


「どうしました?」

「なんでもない。そんな事より下の様子はどうなの?」

「今のところ変わりはありません。しかし――」


 ちらっと下をのぞき込んでみると、確かにみんなが普通に飯を食ってるだけに見える。まぁ、そのうちの何人かは俺が作った武器を手に周囲を警戒してる訳だけど、あの体たらくを見てるともっと人数を割いた方がいいんじゃないかな?


「気付ているのはアリア嬢だけ――ですかね」

「よく見えるねー」


 俺も魔力探知で魔物の位置は分かるけど、肉眼では全く分かんない。遠いってのもあるけど、脳筋側の視力とは比べちゃあいけない。意味がないからね。


「ええ。本来であれば魔物を呼び寄せるために臭いの強い物を用意したかったのですが、あまりに急だったので大して効果がなかった物しか用意できなかったのが残念で仕方ありません」

「兵士にするんだよね?」


 さらっととんでもない事を言ってのけた内容に、さすがに引くわー。そもそもあいつ等は戦争で兵士となるために育ててるって記憶してる。にもかかわらず、対魔物を想定した訓練のために匂いの強い弁当をわざわざ用意するって意に反してないか?


「兵士であろうと魔物との戦闘は避けて通れません。なのでこれも兵士になるための立派な訓練となり得るのですよ」

「ふーん……大変なんだね」


 ますますもって魔法の才能があって助かった。貴族の次男なんで長男のスペアのようなもんなんで、それがなかったら今頃はあそこに俺も参加させられてたかもしれないと考えるだけでゾッとするよ。


「敵襲だ!」


 とか何とか考えてたら、ようやく鉄級冒険者が魔物を発見したようで、声を張り上げて剣を抜いた。

 そうして始まった戦闘だけど、アリアが居るおかげであっさりと片付いた。


「すぐ終わったね」

「ええ。アリア嬢を置いておいたのは失敗でしたね」


 確かにね。アリアの活躍によって、随分とやって来てたゴブリンに少量のコボルト(かわいいタイプ)のほとんどが両断されたからね。村人や鉄級冒険者達も多少は頑張ったのは認めるけど、居なかったらと思うとどうなってたんだろうね。


「リーック! 水とナイフー!」

「はいはーい」


 ちゃんと解体してくれるようなので、一旦下に降りて水をドバドバ流し。ナイフを手渡す。


「……ねぇリック。こんな魔石で本当に涼しくなるの?」


 解体してるアリアが急にそんな事を聞いてきた。それには違和感しかないけど、うちにある冷房に使ってる魔石と比べると明らかに大きさに差があるから気付いたのかな?


「急にどったの? このままだと難しいけど――「じゃあもっと大きな魔石を狙いましょう!」あぁなるほど」


 つまり。こんな雑魚魔物じゃなくてもっと強い魔物と戦いたいと言いたいわけだな。俺としては魔石が集まるなら何と戦おうが興味はないんだけど、グレッグはどうなのかな?


「無理ですね。このような体たらくを披露する足手まとい共が居る限り、今の深度を維持するのが訓練として最も効率的——」


 俺の視線に気づいたグレッグが、アリアに対してそれが出来ない理由を滔々と説明していると、突然明後日の方を向いてため息交じりに剣を抜いた。


「運がいいのか悪いのか。アリア嬢お待ちかねの多少強い魔物ですよ」


 そう宣言すると同時くらいに、数人の――恰好から冒険者だろう連中が茂みの奥から飛び出し、その背後からオークがやって来た。

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