第260話
「え? もう終わりなの? つまんないわね……」
残念そうにそう呟くアリアの足元には、無数のゴブリンの死体が転がっている。
いやー全く持って動きは見えなかったけど、面白いように首が飛んでいく光景は圧巻の一言に尽きる。あれで本当に12歳なのかと本当に思う。
それに比べて――
「うらぁ!」
「馬鹿! なにやってんだ!」
「そっち行ったぞ!」
「痛ぇ! クソ!」
あれはなんなんだろうか? ゴブリンと一緒にお遊戯でもしてるのかな? 一応ちゃんと討伐は出来てるけど、アリアやグレッグと比べれば非常に拙い。鉄級冒険者は多少マシっぽいけど、テンプレの下級冒険者より酷くないかな?
「ねぇグレッグ。あいつらはちゃんとウルフを狩れてるんだよね?」
「ええ」
「じゃああれはどういう事?」
ウルフが狩れてるのに、ゴブリン相手にあれじゃあ嘘ついてますと言ってるようにしか聞こえない。反論があるなら是非ともどうぞ。
「仕方ありません。彼らは初めてゴブリンと戦うのですから」
「ちなみにゴブリンって強いの?」
「意外と強いですよ。特にこういった場所で戦うとなると。よく見れば、苦戦の理由を知る事が出来るでしょう」
そう言われてじーっと眺めてると――なるほど。確かに戦い難いのも頷ける。
よくよく見れば、地面の一部が凹んでたり。ボロボロの縄っぽいのが地面すれすれに張ってあったりと、粗末だけど罠っぽいのをいくつも見つける事が出来て、結構な頻度で引っかかってる。
「じゃあ仕方ないのかね」
「ええ。もちろん後で罰を与えはします」
おお怖。ニッコリ笑みを浮かべるグレッグからエレナの足元にも及ばないけど黒いオーラが見える。
せいぜい死なない程度に加減しといてねと言っている間に、ようやくゴブリンの殲滅が終わった。まだ1回目だっていうのに、グレッグとアリア以外は大なり小なり怪我をしてる。
「さ。終わったなら次行くわよ」
「待ちなさい。ゴブリンが相手ではアリア嬢も面白くないのも分かりますが、これは魔石が欲しいという少年の願いを叶える依頼であって、貴女の欲を満たすためではありませんよ」
「……わーかってますよ。だから飛び出してないじゃない」
「よろしい。では魔石の回収に移ります。少年。適当で構いませんのでナイフを人数分お願いできますか?」
「あいよー」
解体用に使うんだろうと、一応鋭利ではあるけど形にそこまでこだわらない。作りやすい物を人数分土魔法で作ったのを投げ渡——すのは危ないんで、近くに倒れてる木の幹に刺して勝手に使えスタイルにしておくか。
後は適当に水魔法でドバドバ水を吐き出しておけば、勝手に血を洗い流すだろ。
「少年はどうします? 解体してみますか?」
「俺はいいよ。魔法で出来るし、そういう仕事をしてもらうために、グレッグ達が居る訳じゃん? だから頑張ってねー」
大前提として、俺は一生をあの村で過ごすつもりだ。そりゃあ成人して自由が得られれば世界各国を転移で旅する事もない。特に醤油・味噌の可能性が眠ってる神楽ノ国はぜひとも行ってみたいね。
「ところで、普通に全員で解体してるけど、周囲の警戒とかしなくていいの?」
1人でボケーっと解体風景を眺めてるわけだけど、誰も彼もが地面に転がるゴブリンの胸にナイフを突き立てて魔石を回収してる。こういう場合、数人は周囲の警戒をしてるもんじゃないのかな?
そんな疑問もあって問うてみたら、村人や鉄級冒険者は「そうじゃん!」みたいな顔をして慌てて周囲に目を向け始めたけど、普通こう言う事はグレッグがやりそうなんだけどなーと見てみると、なんでか肩をすくめてやれやれといったポーズをしてる。
「ダメではないですか少年。そういうのは、後日説教するための材料としてあえて黙っていたのですから」
「説教するなら今すぐの方がいいんじゃない?」
「ワタシが殺気を出してしまうと魔物が逃げてしまいますがよろしいですか?」
つまり。そのくらいのレベルでガチギレする予定って事か。まぁ、一歩間違えば背中を襲われるかもしれないんだから仕方ないっちゃ仕方ないのかもしんないけど、初見でそれを察しろというのはちょっとだけ酷なんじゃないかと思う。
「さすがにそんな事をされたら困るけど、いきなりそんな事を言われても無理じゃないのかな?」
「何を言っているのですか少年。このごくつぶし共はウルフ討伐を何度もしているのですよ? にもかかわらずこの体たらくは、説教されても仕方のない事だと思いませんか?」
……確かに。そう言われるとぐうの音も出ないね。これはさすがに俺が浅はかだったな。
「そうだね。ウルフ肉をグレッグ達がとって来てくれてるのをすっかり忘れてたよ」
「理解していただけたのなら構いません。アリア嬢も、冒険者として1人で行動するのであれば、解体はせずにギルドに持ち込む事を推奨しますよ」
「確かに。こんな場所でのんびり解体なんて普通出来ないわね」
「一応諦めるのも1つの手段です。ゴブリンであれば価値は常時討伐対象のわずかな報奨金とほぼ価値のない魔石のみですので」
「ふーん……なるほど」
一通り解体が終わり、集まったゴブリンの魔石は15個程度。大量と言えなくもないけど、ぐーたらするんであればもっともっと数が欲しいな。
「ところで、この死体って放っておいていいの?」
「構いませんよ。どうせウルフやコボルトなどの食料となりますので」
「ふーん……」
ウルフやコボルトはこんな肉を食うのか。それを可愛いタイプがやってたらちょっとしたホラーだから、出来る事ならリアルな方でありますように。
しかし、それで森が綺麗になって証拠も隠滅できるってなれば、一石二鳥だな。主に犯罪者にとってはだけど。
「言っておきますが、人間が食す事は出来ませんよ?」
「いや食わないって。ただ考え事してただけ」
とりあえず死体処理の必要がないって事なんで、全員が血を洗い流したのを確認してから土板にのせて、次なる場所へ向けて飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます