第259話

「いいか? ちゃんとグレッグの指示に従い、不用意に深追いする事は決してするんじゃないぞ? それと夕飯までにはちゃんと帰って来るように。じゃないと父さんが母さんに叱られるからな。それと――」


 朝飯を食い終わり、無事ヴォルフから魔物の討伐のための外出許可も出たおかげで2人して土板に乗って忠告を聞いてるんだけど、一刻でも早く魔物と戦いたいアリアはさっきからずーっとそわそわしてる。


「もーわかってるって。ちゃんと父さんの言った事は守るからもういいでしょ」

「……やれやれ。それじゃあ最後に。怪我なんかするんじゃないぞ」

「はーい。行ってきまーす」


 どうやらもう終わったみたいなんで、グレッグが居るだろう兵錬場へと向かう前に、いつもの畑仕事や広場の魔力充填なんかを終わらせておかないとね。


「ちょっと。どこ向かってんのよ」

「まずは仕事をお終わらせてからって聞いてなかったの?」


 魔石が欲しいと言っても、1日仕事になるんであればまずはやらなくちゃいけない事をキッチリ終わらせる必要がある。さっきのヴォルフの説明の時も言ってたんだけど、アリアは聞き逃していたらしい。


「聞いてたわよ」

「あっそ。そういう訳だから、終わるまでにグレッグに事情を説明しといて」

「はぁ⁉ 前もって言ってないの!」

「言ってないよ? だって今日の朝、魔道具作り終わったんだから」


 そもそも魔力補充が面倒だなーと思ったのがあの時だったからね。朝飯食って、一連の仕事を終えた後に頼むつもりだったんだけど、その前にアリアが説明を聞かずにヴォルフに許可を取りに行ったんだ。


「それって断れるかもしれないって事じゃないの?」

「かもね。でもまぁ大丈夫だよ」


 忙しいとか何とか理由をつけて断られないとも限らないけど、訓練の一環として強引に連れていけばいい。最悪守ってやれるし何とかなるだろ。


「本当でしょうね? ここまでして行けないってなったらぶん殴るわよ」

「心配しなくてもいいって。だから頑張って説明しといてねー」


 ここでいったんアリアと分かれる。さっさと畑仕事を終わらせないと何をしでかすか分からないからな。急ぐか。


 ——————


「遅い! なにちんたらやってんのよ!」

「これでも急いだ方なんだけど……そっちは何とかなったみたいだね」


 一通り仕事を終えて兵錬場に行ってみれば、仁王立ちで大層ご立腹なアリアを先頭に、グレッグや腕っぷし自慢の村人たちがずらりと勢ぞろい――してるかどうかは知んないけど、中には鉄旧冒険者の元・奴隷2人の姿もある。


「アリア嬢から話は聞きました。なんでも魔石が大量に欲しいんだとか」

「うん。各家庭に設置する分の魔道具は出来たんだけど、いちいちそれに魔力充填して回るのって面倒じゃん? だから手伝ってくんない? っていう必要はなさそうだね」

「ええ。少年も同行するという事ですので、今回の依頼を受けようと思います」

「ありがとね。じゃあ早速行こうか」


 全員が乗れるだけのサイズの土板にしてしばし待つ――事はなく、グレッグの喝1発で全員が急かされるように飛び乗って来る。


「じゃあ行くけど、どの辺がいいかはグレッグに任せるね」

「分かりました」


 って訳で、隣村近くの森まで出発。


「「「「「「「ぎゃあああああああああ‼」」」」」」」


 あーうるせー。耳障りなんで連中を端っこに寄せて風魔法で遮音するとすぐ静かになったんで情報収集でもしておくか。


「で? あの森ってそんなに魔物が出るの?」


 前にヴォルフと一緒に通った時は……えーっと……とにかく! なんか魔物が出た記憶があるけど多くなかった……はずだ。


「この時期であれば、素人冒険者が増えているでしょうから浅い場所の魔物は間引きが済んでいると思われますので、少し奥を目指すのが良いかと」

「大丈夫? 奥に行くほど強い魔物が出るって聞いてるけど」


 俺もアリアもグレッグも多少強い程度の魔物は何とも思わないけど、ずーっと喚き散らしてるだろう腕っぷし自慢の村人連中や鉄級冒険者は大丈夫なんだろうか? 正直言ってへばってる情けない姿しか見た事がないぞ?

 魔石の確保は必要だけど、村人が減るようなら連中は魔石運搬役に徹してもらうしかなくなる。まぁ、その方が俺にとっては都合がいいんじゃないかな。


「問題ありませんよ。多少の怪我は訓練の一環として無視しますが、有象無象もあれだけ集まればコボルト程度が現れても互角以上に戦えるでしょう」

「ならいいけど……」


 とりあえずコボルトって魔物は出るらしい。はてさてこの世界のコボルトはどっちなんだろうね。ぬいぐるみみたいに可愛いタイプか? それとも、リアルを追求したタイプかな?

 どっちだろうと魔石のために死んでもらうけどね。


「ねぇねぇグレッグ。コボルトの他にはどんな魔物が居るの?」

「この時期でしたらゴブリンとウルフ。後はオークの姿も確認されていたはずです」

「はい! オークが出たら相手してみたい!」

「ふむ……とりあえず手合わせするのも悪くないでしょう」


 アリアの要求に、グレッグは少し悩んだのちに渋々ながら了承した。どうやら少なからず格上の相手って事なのか? それとも、あの森じゃあ早々出てこないだろうと判断したから? どっちにしろ出てこないほうがいいかなー。


「やった!」

「ただし。いざとなったらワタシが割って入ります。いいですね?」

「……はーい」


 グレッグの忠告に若干むっとした表情をしたけど、ここでごねたら戦闘に参加させてもらえなくなるかもしれないと直感で理解したのか、渋々といった様子だけど了承した。

 さて、そんな話をしているうちに木々の量が増え始める。


「さて……どの辺りにしましょうかね」

「どこでもいいんじゃない? いなくなったら移動すればいいだけだし」

「なるほど。少年が居ればそれも可能ですね。ではまずはあの辺りにしましょう」

「はいよー」


 グレッグが指さす先に着陸すると、ほぼ目の前と言っていい距離にゴブリンが数体居たんだが、瞬きをした次の瞬間にはおもちゃを与えられたんじゃないかってくらい満面の笑みを浮かべながら首を切り飛ばすアリアが居た。

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