第258話

「さて、これで全部か……」


 1日1枚作るという重労働を己に課してかれこれ半月程度。時々複数枚作ったりしてたおかげでようやく全部の家に設置する分を作り終えた。

 あの見習い商人にも散々文句を言われたな。俺、1時間にも満たなかったとはいっても一応主人だったんだけどなー。

 とりあえず、これで村人全員が同じ程度に涼しい環境で日々を暮らすことが出来るようになるんだけど、そうなると次なる問題として浮上するのが魔石の量になる。一応そこそこ使い続けられるとは思うけど、切れるたびにいちいち魔石を補充するのって超絶面倒臭い。


「……よし。狩りに行くか」


 大量の魔石をゲットし、そこにパンパンに魔力を詰め込んでどっかに置いとけば勝手に持ってくだろ。ガキにでも在庫の量をチェックさせて、無くなりそうになったら一遍に充填。それでだいぶ手間が省けるけど楽をするには数が要る。

 1人で集めるのも面倒だ。グレッグと腕っぷし自慢の村人連中にでも遠出をしてもらって魔石狩りでも頼むか。


「狩りって何を狩るのよ」


 方向性が決まり、さて朝食の手伝いでもと立ち上がろうとしたら、目の前に楽しそうな笑みを浮かべて仁王立ちをしてるアリアが居た。


「アリア姉さん、入る時はノックしてって言ったよね?」

「気づかないアンタが悪いんでしょ。そんな事より狩りってなに?」


 これは聞きだすまで退かないか? まぁ、別に言った所で困るもんでもないだろうし別にいいか。


「魔石が大量に欲しいから、グレッグに頼んで取って来てもらおうかなって」

「魔石って事は魔物と戦うって事よね?」

「そうだけど?」

「……面白そうじゃない。当然アタシも参加させてもらうわ」

「いいんじゃない? 父さんに許可を貰ったらどうぞご自由に」

「すぐもらってくるわ!」


 そう言ってあっという間にいなくなった。相変わらず戦闘に関する事に対してだけは行動が早いね。あんなのに将来ついていく仲間の人は大変だろうな。

 さて、とりあえず魔道具は亜空間にしまって、さっさと手伝いに行きますかね。


「あぁリック。さっきアリアがすごい勢いで出て行ったけど何かしたのかい?」


 道中。何故かサミィが開口1番に俺が原因と言わんばかりに質問をしてきた。


「俺は何もしてないよ。ただ、ようやく全部の家に冷房を設置できるだけ魔道具が出来たから、次に稼働させるための魔石が大量に欲しいなーってつぶやきを聞かれただけ」

「なるほどね。それはアリアがああなる訳だ」


 説明を聞いて納得したサミィは苦笑いを浮かべながらリビングへと戻っていったんで、俺も急ぎ足でキッチンへ。


「おはよう母さん」

「はいおはようリックちゃんー。ところでー、さっきアリアちゃんが騒いでいたけど何があったのかしらー?」

「んー? 村の家全部に冷房設置する目途が立ったから、次は稼働用の魔石が大量に欲しいからグレッグに獲って来てもらおうかなーってのを聞かれてて、自分もそれに参加するって父さんに許可貰いに行ったんだと思うよ」

「あらそうなのー。それは大騒ぎするわけねー」


 今日のメニューは鳥つみれの入ったすいとん。出汁は鳥ガラを使ってるみたいだから美味いだろうなー。

 しかし……止める素振りもないって事は、エレナはヴォルフが許可を出さないと思ってるのか? それとも、多少の魔物だったら問題なくやっつけるから大丈夫と信じてるのか。どっちなんだろう。


「母さんは賛成なの?」

「そうねー……魔物次第じゃないかしらー。魔道具に使う魔石の大きさって、どのくらいのが欲しいのかしらー?」

「欲を言えばゴーレムくらいのがいいかな」


 どうせ始祖龍に大きくしてもらうからなんだっていいんだけど、ゴーレムであれば大きさも十分だし、何よりわざわざ転移魔法を使って時間を消費する必要が無くなるんだけどねー。


「それはアリアちゃんには荷が重いし、そもそもこの村の近くには居ないわよー?」

「分かってる。だからスライムでもいいかなーと思ってる」

「極端ねー。でもー、それじゃアリアちゃんが納得しないんじゃないかしらー」


 だろうね。せっかくの実践。出来る事なら強い魔物と戦いたいってのが脳筋アリアの希望だろうけど、居るのはウルフがせいぜいからなんちゃらバードになった。空飛ぶ魔物が相手ってのもまた荷が重そうな気がする。


「この鳥は?」

「飛ぶ魔物はまだ早いわねー」


 飛ぶ魔物を相手にするには特殊な対処法があるらしく、この辺りでは特に見かける事もなかったんで、もう少ししてから教えようかとヴォルフと話し合っていたらしいが、こうしてなんちゃらバードを持ち帰って来ちゃった以上はその対処法ってのを教える必要が出て来たらしい。


「じゃあそれまでお預けかな」

「それだったらー、隣村まで行ってみたらいいんじゃないかしらー?」

「なんで隣村?」

「あっちならー、森があるから魔物がたくさんいるからよー」


 確かにあっちには結構深い森があって、冒険者ギルドがあるくらいには魔物がいるから魔石の確保は容易っちゃ容易だけど、そこに行くまで結構な遠出をする必要があるんだけど?


「いいの? 多分数日かかると思うけど」

「……リックちゃんはいかないのかしらー?」

「え? それが嫌だからグレッグに頼もうとしたら、アリア姉さんが自分も行くって言いだしてるだけだよ?」


 俺が同行するんであれば自分1人で集めた方が早――くはないけど、相手を考える事なく動けるし帰れる。おまけに亜空間も転移魔法も使えるから長時間——は労働基準法違反なんでやらないけどね。


「うーん。それだったら許可できないわねー」

「え? なんでさ」

「だって時間がかかりすぎるものー。リックちゃんが居れば1日で終わるでしょー」

「これも冒険者になるための訓練だと思いなよ」


 危険な場所での野営は冒険者にとっては避けては通れない必須技能。それをグレッグがから教えてもらえるいいチャンスじゃないか。


「うーん。それじゃーこうしましょうー。一緒に行ってくれたら、1日何もしなくてもいいわよー?」

「さて、それじゃあささっとお弁当を作って行くとしますかね」


 1日ぐーたらねぇ。悪くないご褒美じゃないか。それが移動に手を貸す程度で手に入るとは楽勝すぎて笑みが止まらんぜ。

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