第252話
「おい小僧。少し話がある」
朝飯を食べ終え、いつも通り畑仕事を終えて最後に村広場の冷房に魔力を注ぐ仕事が残ってたなーと思いながらいざ到着すると、もはや日常となったお姉さん方の井戸端会議の傍らで、立ったままじっとしてるアリアとハーフエルフの姿をちらっと見たけどあれはいったい何をしてんだろうね。
そして、魔力の補充が終わって降りてきてすぐに声をかけられ今に至る。
「なに?」
「あの娘はいつもああなのか?」
ちらっとハーフエルフの背後を見ると、アリアが1人でぼーっと突っ立ってるだけなのに特に文句も言わずにいるのにもの凄い違和感があるな。
「ああなのって何?」
「訓練に対する姿勢だ。ひたむきで真面目なのは悪くない。物覚えもよくさすが英雄ヴォルフの娘だと感心はする」
「……はぁ」
うーん。なんだろうねこの違和感。アリアが優秀だと評されればされるだけ別の誰かの話を聞いてるみたいであんま耳に入ってこない。
「しかし……こうも四六時中付き纏われるのは嫌気がさしてくる」
あぁ。そこだけに関してはすっと頭に入って来た。やっぱそういうマイナスなイメージの方がしっかりとアリアの事を言ってるんだと理解できるね。脳筋ゆえにそういう事への理解が乏しいのか関心が乏しいのか分かんないけど、迷惑をかけているというのは分かった。
「まぁ、これも仕事だから頑張って」
アリアと手合わせをするんであれば、ぬいぐるみを積極的に作るという契約を結んだ以上、ハーフエルフはちゃんと相手をしないといけない。まぁ、それが訓練大好きの脳筋アリアだった事が運の尽きだな。
「自分の本来の任務は貴様が作ったぬいぐるみの回収なのだが?」
ギロリと睨まれてるような気がするけど、フルフェイスで見えないからよく分かんないや。
「ちゃんと作ってるって」
「ではどこまで完成している」
「胴体と両前足くらいだから、あと数日はかかるかな」
「遅すぎるぞ! 手を抜いてるんじゃないだろうな!」
「しゃーないじゃん。不本意だけど忙しいから」
冷房に畑に砂糖に氷室に魔力補充に調理補助にと、毎日いろいろな事をしなくちゃなんないから、ぐーたらする時間も含めると毎日本当にカツカツだよ。早く大人になって勝手に気ままにぐーたらしたもんだ。
「……暇そうに見えるんだが?」
「1部分を切り取って見てるからでしょ? こっちだってそっちを見てる限りだと、1日中ここでボケーっとして暇そうじゃん」
「仕方あるまい。この異常な暑さでは行動に制限がかかるのも仕方のない事だ」
「だったら鎧だけでも脱いだら? 言うのどうかと思ったけど、臭うよ?」
こんな炎天下で熱がこもりそうな金属鎧で全身を覆ってるんだ。冷房でかなり涼を得られてるとしたって、村人と比べれば熱さの度合いが違う。汗だってかくでしょ。
そうなると風呂に入ったりするのが手っ取り早い。一応共用の風呂があるからそれに入れればいいんだけど、この騎士はハーフエルフ。詳しい理由はどうでもいいんだけど、あまり世間様にその存在を知られちゃいけないらしいから、そういう事も出来ないんだろう。
「黙れ。自分は騎士として――」
「はいはい。そういうのはいいから動くなよー」
いちいち文句を聞くつもりはない。衛生環境が良くないといろいろな病気になりやすいし、それが村人にまで広がるとそれはもう立派な侵略行為になるんで、無魔法で押さえつけて水魔法で全身くまなく洗い流す。
なんかガボガボ言ってる。まぁ、体型の事を全く考慮してないんで、もしかしたら多少痛い思いをしてるかもしれないけど、その辺は我慢してもらうしかないね。
「はいおしまいー」
「ぶはあっ⁉ いきなり何をするか貴様ぁ!」
「汗臭かったから洗ってあげたんだよ」
「だったらそう言えばいいだろう!」
「説明メンドイし。詫びとして今日はもう1か所ぬいぐるみ作るよ」
ぬいぐるみの完成はハーフエルフの最優先事項。それが大きく前進するという提案はかなり喜ばしい事でしょう? だったら、多少なりとも苦しい思いをしたのもすべては姫ちゃんのため――って事で済ませようや。
「……いいだろう。で? あと何日あれば完成する」
「今日の詫びも含めて……2日かな?」
「かかりすぎではないか? 前任の者から聞いた限りではすぐに終わったと聞いているんだが」
「その時はまだ忙しくなかったんじゃない?」
前に作った時はどうだったか。そんなこといちいち覚えちゃいないからな。そうだったんだー。くらいに捉えて後は脳内で補完する。
……うん。多分間違ってない気がする。数か月くらい前までは今ほど労働を強いられてはなかった気がするし、金貨5枚もその時はより魅力的だったはずだろう。
「あの……終わりましたけど」
ハーフエルフと会話をしてたら、いつの間にかアリアがすぐそばにまで来てて、気持ちが悪くなるくらいしおらしいその態度におぞましさを感じてブルリと震えたら脳天に拳骨を落とされた。
「痛ったあ! 何もしてないのに殴るって酷いと思うんだけど⁉」
「アタシの勘が殴って良しと言ってたのよ」
「……」
人のおかげでこうしていられるっていうのに、多少の不満があったからって殴るというのはこうされても文句は言えないって事だと思う。そういう事が考えられないから、いつまでたってもアリアは脳筋から脱しないんだよ。
このイライラをスッキリするには……あるじゃないか最高の復讐方法がよぉ。
「何ニヤニヤしてんのよ」
「別に何でもないよ。で? なにしてたの?」
とっさに話すをズラす。内容も興味は全くないけど、アリアの意識を逸らすにはそういう内容の方が効果的なんでそうしたまでです。
なので、内容は一切頭にとどめる事なく右から左に垂れ流し、生返事を繰り返すことでこの場は切り抜けた。
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