第253話

「さて……始めるとするか」


 ウルフ肉のギョーザもどきの昼飯を食い終わり、疑われないようにしばしリビングでぐーたらする。

 アリア相手にそんな事をする必要はなさそうに感じるかもしれないが、脳筋で知恵が足りない分を野生の勘で補う事が出来る場合があるから意外と気をつけなくちゃいけない。

 しかし。特に怪しまれる事無くささっとハーフエルフの所に飛び出していったところを見ると、考えすぎだったかもしんないのかな?

 ……いいや。これは完遂するまで気を抜いてはいけない大作戦。魔力があれば逐一居場所を把握できるけど、魔力のない人間の気配を感じる事が出来ないからな。注意しすぎる事は悪い事じゃない。

 さて、それだけ念入りに気を付けて俺がするのは、ぬいぐるみを完成させるって事だ。

 何故かって? あの時殴られた事に対する最も効果的な復讐は何かとうんうん悩んでいろいろ考えた結果。思いついたのは姫ちゃんに頼まれたぬいぐるみをさっさと作ってあのハーフエルフをこの村から帰らせる! という回答に行きついたから。

 そうと決まれば行動が早いのが俺の特徴。こういう時ばかりはぐーたら神も草葉の陰から応援してくれてる――気がするんでより一層やる気が満ち溢れるぜ。


「そりゃそりゃー」


 土魔法で作った針に糸を通し、ミシン顔負けの速度で布を縫い合わせ、綿を詰めて猛スピードで形にしていくって作業を黙々とこなしていけばあっという間に……えーっと……名前は忘れたけどぬいぐるみの完成だ。

 後はこれをハーフエルフに押し付けてさっさと村から帰るように追い出せば、何をしてたのか良く分からん訓練や手合わせなんかはその瞬間終わりを告げる。


「ぐっふっふ……今に見てろよ」


 さて。そうと決まればさっさとハーフエルフの所に向かうとしよう。どうせこのクソ暑い中居られるのはあの広場だろうから、探す必要はないだろう。


「あらリックちゃんー。随分と嬉しそうだけどいい事でもあったのかしらー?」


 広場に行こうと玄関に来たらエレナと遭遇。そしてそんな事を言われてとっさに顔を押さえる。


「そう見える?」

「もちろんよー。リックちゃんはー、分かりやすい時は分かりやすいもの―」


 まずいな。そんなにやけ面でハーフエルフの前に出るのはいいとしても、アリアの前に出たら絶対に怪しまれる。気を引き締めないと。ぐーたらで脳内を満たしていつもの俺を取り戻さないと……。


「どう?」

「うーん……いつもより暗いわねー」

「じゃあ大丈夫かな」


 機嫌が良いのは俺にとって不都合だけど、機嫌が悪いって事にでもしとけばいい。そうなるような事がついさっき行われたからな。そこを攻められても誰のせいだと反論しておけばすぐ納得すんだろ。


「じゃあちょっと外出てきまーす」

「何を企んでるのか知らないけどー、あまり悪いことしちゃだめよー?」

「何言ってんのさ母さん、俺は小さいころからいい子じゃないか」


 この村のため、魔法を使って家を作り。畑を耕し。水を確保。

 他にも氷室を作ったり砂糖を普段使いできるくらいにしたりと、貢献度でいえばトップクラスだと自負している。

 それを日々の食事とぐーたらでこなしてると思えば破格も破格。もはや慈善事業と称してもいいんじゃない? ってレベルでこなす俺が——まぁ、中身はおっさんだけど悪い子供な訳がないでしょうに。


「はいはいそうねー。リックちゃんはイイ子よねー」

「……なんか棒読み感がある気がするのは俺だけ?」

「気のせいよー。それよりもー、急がなくていいのかしらー?」

「そうだった。じゃあ行ってきまーす」


 これに遅れると大変な事になる。ぬいぐるみを渡したのにハーフエルフが居なくならないというのだけは回避しないとね。こっちとしてはそうなるのが1番最悪な流れだから、広場に向かう速度もいつもより数段早いよ。


「おいっすー。何してんの?」


 あっという間に広場に到着してみたら、アリアもそこにいて。さっきと同じように目を閉じて突っ立ってるだけって変な状況にある。


「これは気配を探るための訓練だ」

「ふーん。必要なの?」

「当然だ。そこの小娘は冒険者になると聞いた。であれば魔物の気配を探知する訓練が必須だろう?」

「なるほど」


 それは確かにアリアが納得しておとなしく訓練に勤しむのも理解できる。通常の勉学については脳筋ゆえにまともに労働しないあの頭も、戦闘に関する知識に関してだけはスポンジみたいに吸収するからな。


「で? 何故こんなところで暇そうにしている。ぬいぐるみはどうなった」

「それはもう作っちゃいましたー」


 ばばーん! と言わんばかりにポケットから取り出す。


「ふむ……確かに注文通りの物だ」

「じゃあもうこの村に用はないね? さようなら」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 にっこり笑顔で、ハーフエルフに暗に帰れと告げるとさっきまで静かに突っ立ってたアリアが大声を張り上げながら詰め寄って――その前にお姉さん方に赤ちゃんが起きたでしょうが! と説教を受けている。


「時間がかかると言っていたがどういうつもりだ?」

「いやー。さっき姉さんに理不尽に怒られたんで、こうして復讐してやろうとね」


 ニヤリと笑うとハーフエルフも苦笑を返す。


「いい性格をしてるな。まぁ、あの小娘のおかげでこうして自分はようやく王都へ帰還できるという訳か」

「だからはよ帰れ」


 あんまり粘られて今日も泊まるってなったらせっかくのぐーたらタイムを放棄してまで作った意味がないからな。


「……まぁいい。自分もここに長期間滞在するのは苦痛だからな」

「なら次は部下にでも押し付けるといいよ」


 こうしてハーフエルフは村を去っていった。

 当然アリアが文句を喚き散らしてたけど、のらりくらりとはぐらかし。ヴォルフやエレナに文句を言った所で、どっちからも「仕事なんだから当たり前でしょう」と言われる始末。

 いやー。今日は最高の気分でぐっすり眠れますよー。

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