第250話
「さて……ぐーたらするか」
昼飯も食い終わって後は夕飯まで自由な時間がある。ならぐーたらするしかないんだけど……。
「ちょっとリック。聞いてんの?」
「聞いてるよ。でも面倒だから嫌」
こうしてアリアが俺のぐーたらライフを邪魔してくる理由は単純明快。あのハーフエルフと1分1秒でも長く手合わせをしまくりたいために、裏庭に村の広場にあるような冷房を作れとかいうためだ。
当然そんな提案は受け付けない。だって面倒臭いし、何より村人を差し置いてそんなの作ったら信頼度的なものが減少する未来しか見えないし、だったらこっちにもさっさと作れなんて言われるのも必至。
だからやらん。ここにいる約100人の村人は未来のぐーたらライフを支える大事な人員だからな。増える事は大変ウェルカムだが、減る事に関しては可能な限り回避したい。
「いいじゃない。アンタが少し頑張ってくれれば」
「俺にメリット――利点がないよね?」
「涼しいじゃない」
「俺は自分で出来るから」
「……」
それしか思いつかなかったんかい。
ここで何かしら俺に得する事になるんであれば考えなくもなかったけど、脳筋で考えられるメリットってのはその辺りが限界らしい。全く……悲しいというより本当に哀れに思えてくる。
「じゃ、用がないならどっか行って。ぐーたらの邪魔だからさ」
「むぐぐ……なんとかしーなーさーいーよー!」
「ぐええ……いやだって言ってんでしょ!」
「じゃあどうしろってのよ! あの人はあんな格好してるから広場からほとんど移動しないせいで訓練なんかロクにできないのよ!」
「そんなの俺の知った事じゃないし。そもそも朝にめっちゃやってたじゃん」
おかげで寝不足ですよ。これがあのハーフエルフが滞在する限り続くんだとしたら、1日1パーツと決めてたぬいぐるみ作りをあっという間に終わらせないといけなくなるな。俺のぐーたらライフのために!
「あんなの軽い準備運動程度よ。それに、朝は父さんとやるんだから昼と夕方は相手してもらうに決まってるじゃない」
決まってるじゃない! と言われてもね。あっちにもあっちの都合があるだろうとか考えないのかね。そういうところが脳筋たる所以なんだと気づけばもう少し賢くなりそうだけど、アリアには一生無理かな?
「とにかく無理だから諦めてね」
「なによ! 少しくらい姉のために行動したいとか思わない訳!」
「十分してると思うけど?」
なにせアリアのためにゆっくりとしたペースでぬいぐるみを作ってるし、そもそもこの交渉を持ち掛けたのも俺だ。
本来であればそんな事をする必要はないだろうに。だって金貨で5枚も貰ってんだよ? 手合わせして♪ なんて言った所で知るかボケ。と返されればそれまでだ。
そこを俺の華麗な交渉術? でアリアの相手をさせる事に成功したわけだ。これにキッチリと感謝してもいいはずだろうに、まだ足りないというのはあまりにも強欲すぎるよね。
「じゃあもっとしなさいよ」
「なら圧の訓練でもさせてもらったら?」
ヴォルフは救国の英雄だからその圧も強力だろうけど、ハーフエルフくらいであればその強さも随分と緩いはずだから、訓練としても丁度いいんじゃないかとの安易な考えに、アリアは随分と目を輝かせてるな。
「それいいわね! 何で思いつかなかったのかしら。そうと決まれば早速聞いてくるわねー!」
やれやれ。これでようやく静かになったな。本当に迷惑な姉だよ。家族でなかったらとうの昔に魔法で酷い目に合わせてるところだ。
「ふぅ……これでようやくぐーたら出来る」
ハンモックに揺られながらぼーっと空を眺める。こういうなーんもしなくてもいい時間を過ごすのが俺のやりたい事なんだよ。誰かのためにあくせく働くとか、そういうのは前世に置いて来たんだ。だからもっとゆっくりしたい。
でも、そのためにはもうちょっと働かなくちゃいけないんだよねー。
畑は放っておけないし。
冷房は魔石に魔力の補充。
資金調達もしなくちゃだし。
氷室の管理——は魔道具で代用できるけど、やっぱり魔石への魔力補充が要る。
本当に前途多難だなー。もう5年も経つのにほんとうにぐーたらライフへの終着点どころ中間地点すら見えてこない。折れるつもりは欠片もないけど、進まな具合にはさすがに落ち込むよねぇ。
「はぁ……」
こうなったら、もう少しぐーたら力の減少を覚悟して労働に勤しむ――のは無理だな。それを想像するだけで全身から力が抜けて、違う意味で意識が肉体から離れるような感覚に襲われるんで止めておこう。
……あぁ。こういう余計な考えをしないようにしなくちゃいけないのに、どうしてもいろいろと考えちゃうよなー。それもこれも俺がぐーたらの極致まで及んでない証拠でもある。
いずれは、満足するまでぐーたら出来るまで何が起ころうとも気付かないレベルにまで到達したいな。
たとえ始祖龍が暴れようとも――って役には立つけどあいつ事態はさほど脅威でもないか。
ってなると、エレナがガチギレしてても一切気付く事無く――ってのは不可能だな。ぐーたら神が恐れ戦くほどだ。たとえぐーたら道を究めたとしてもどうにもならんだろう。
じゃあどのくらいが妥当なんだろうか。俺の狭いこの世界の常識で1番おっかないのがガチギレエレナで、次点ってなると……ぐっと下がってフェルトになんのかもしんないけど、利害関係でいうとこっちの方が圧倒的に優位だしなぁ……。
とりあえず出来るようになってから考えよう。今の俺じゃどうあがいたってその境地に行くにはさらなる修業が必要だから、1秒でも早くたどり着けるように頑張ってぐーたらを究めよう。
——————
「リック。ちょっといいか?」
「ダメ」
夕飯を食い終わり、さーて後は風呂に入って朝までベッドから1秒でも長く寝転がる事がぐーたら道の修練の1つなので、それを邪魔する奴は誰だろうと許さない。
「すぐに終わる。職業体験の事についてだ」
「別に朝でよくない? 今から俺寝るんだけど?」
「……商店として並べる商品が欲しいとの注文が入った。土魔法でいくつか作っておくように」
「へいへい。朝イチでやっておきますよ」
軽く了承してその晩はぐっすり寝た。
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