第249話

「さて……ぬいぐるみを作りますかね」


 フェアリーラビットなる魔物が描かれた羊皮紙をじっと眺める。


「相変わらず足りねぇんだよなー」


 2回作って思った。1方向の絵しかない事に。

 一応想像で作りはしたけど、詳細に作るんだったら上下左右とか羽だけの図とか細かい絵が必要と考えないのかね。左右で違う色とかだったりしても責任はすべてあっちにある。

 とりあえず今日は胴体だけ作ろう。1日1か所ペースでのんびりゆったり作って、冷房ものんびりゆったり作ってのんびり終わらせるか。


「ふんふーん」


 体毛は薄い緑……だけど用意された布は濃いめの緑。この時点で本物とは別物なんだけど、姫ちゃんが相手であれば別にいいのか。どうせ魔物なんて見た事ないだろうし、多少の違いはこの絵を描いた人間が悪いって事にすれば何の問題もない。


「よし終わり」


 作った胴体を受け取った木箱の中に放り込んで、今日も今日とて畑仕事に行きますかね。


「リーック! 話がある!」


 土板に乗り込んでさぁ行くかと多くない気合を入れて飛び出そうとしたところに、リンが全力疾走してきた勢いのまま飛び乗って来た。また面倒なのが来たなぁ。


「なんだよ」

「あれなんだよ! あれはおれにも作れるのか!」

「あれってなんだ?」

「なんかつめてー風が出る奴だよ!」

「それは無理だ。ってか多分俺以外には無理じゃないかな?」


 現状、あれが自作手出来る可能性があるのはフェルトくらいだと思う。そのくらい魔力のコントロールが繊細だし、鉄の円盤とはいえミスリルが混じってんだ。威力もそこそこ必要ってなると、俺の知る魔法使いは軒並みダメってなる。

 もちろん。魔法が使えず彫刻刀っぽいので彫って製作してるリンにはもっと無理。


「……そんなの難しいのか?」

「見た方が早い」


 円盤サイズならかなり集中力を使うけど、その制限がなければ多少は楽に彫れるんで、手早く地面に土魔法を使ってから全体が見えるくらいまで上昇する。


「こんな感じだ」

「……うーわ。よくこんなの間違わず普通に作れんな」

「まぁね。それで? 無理だとわかったろ?」

「むぐぐ……悔しいけど認めてやるよ」

「なんで上からなんだよ。ところで用事はそれだけか?」

「違ぇよ。後はしょくぎょうたいけん――だっけ? あの話がどうなったか全然教えてくれねーじゃん! だから聞きに来たんだよ」


 あぁ……そういえばそんな事もやるんだったっけ。ここ最近本当にいろいろな事を押し付けられてマジで頭から抜けてたな。


「それに関しては父さんに一任してるし、ルッツを巻き込んでやるらしいって事までは決まってるから、次にあいつが来るまで準備はするだろうけど始まりはしないぞ」

「でもやる事は決まってんだな」

「そうだな。特にダメな理由もないしちゃんとやるんじゃないか?」


 どうなってるのかはさっぱりだけど、中止はないと思う。ルッツがNOを出しても滞りなく職業体験は行える程度には最低限職種は揃ってるからな。


「じゃあ皆に伝えるから乗せてけ」

「まぁ、別にいいけど」


 とりあえず地面の魔法陣は消そう。じゃないとエレナに叱られるかもしんないからね。安全安心にぐーたらライフを送るには、こういった日ごろの努力が必要なのですよ。


「おーいお前らー」

「あーリンだー」

「リックさまもいるー」


 熱期になってから、ガキ連中がいるのはもっぱらプール一択。灼熱の炎天下で遊べるって言ったら、広場はこいつらの母親たちに占拠されてるんでここしかない。


「おっす。元気かお前ら」

「元気ー」

「げんきー」


 とりあえず元気そうで何よりだ。一応安全に気を付けるためと、前みたいにバカ騒ぎして水量を減らしたりしないように大人1人に見てもらってるけど、随分と疲れた様子って事は随分と相手させられたんだろうな。


「そっか。ところで社会見学の話だけど、次ルッツが来る時にやる事が決まったから、お前等病気したりすんなよー」

「「「わー!」」」


 一大発表にガキ連中がわちゃわちゃと騒ぎまくる。何気に収穫祭以外ではこの村初の大規模? イベントだけど一応勉強の一環なんだけどな。その辺の事をちゃんとわかってなさそうだなー。

 よし。ここは1つ、身を引き締めるために追加要素でも入れるか。


「ちなみにだけど、成績が悪かった奴は罰があるから」

「「「えー!」」」

「当たり前だろうが。これは遊びじゃなくて勉強なんだぞ? 成績が悪かったら反省させるために罰くらい与えるのが当然だろ」


 大した罰を与えるつもりはないけどそれは黙っておく。じゃないとその程度なら別にいいや。とか思われたらやりがいがないんで、その時になるまで内容は秘密だ。


「おうぼうだー」

「はんたいー」

「じゃあやらないか? 今からやめる事も出来るぞ?」

「「「……」」」


 それは嫌らしい。とはいえ止めようと思えば本当に止める事は出来るからな。何せ関係者は全員俺の言う事には絶対——ではないけどかなり従ってくれる連中ばかりだからな。


「つっても罰だけじゃやる気も出ないだろうから、成績優秀者にはご褒美をやろう」

「「「わー!」」」


 そっちに関しては普通に受け入れるんだな。まぁ、とりあえずやる気になったって事はいい事だ。やっぱ祭りとは言えないかもだけど、賑やかな催しを開催するならパーッと楽しい方がいい。


「リック。褒美と罰って何なんだ?」

「教えたらつまんねーだろ。だから秘密」

「なんだよ教えろよー」

「そーだそーだ」

「おしえろー」


 ギャーギャー騒ぐガキどもを無視して飛び去り。いつも通り畑仕事に精を出した。

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