第244話
「おー。いい感じじゃん」
サミィが去ってしばらく。ようやく餃子に使う皮が完成した。途中、ぐーたらしてて寝た時間もあったけど無事でよかったよ。
後はオーク肉をミンチにして包んで焼いたり茹でたり蒸したり揚げたりすれば餃子の完成だな。
「さて、後はミンチにして包むだけだけど……動きたくねー」
まだ夕暮れにもなってないのにぐーたらタイムを終えるのはちょっとなー。でも、早目に動き出しておかないと、餃子が失敗に終わった場合の事を考えて別の料理も作れる時間も確保しとかないといけないよな。
いくら何でも不味い飯で1日を締めくくるのは勘弁願いたい。
「あー。しんどいー」
ハンモックから土板に乗り換え、牛歩みたいな速度で家の玄関にたどり着き、根を張ったように動かない足を引きずるようにしながら一旦リビングで休憩しようと戸を開けると、まさかのおばばの姿が。
「おばばが来るのかよ」
「なんだい。来ちゃ悪いってのかい?」
「そんな事ないけど……普通母さんが行く方じゃない?」
いくら体調不良だと言っても、おばばと比べてエレナは随分と若い。なのにおばばの方が来てるってなると、サミィは随分と無茶をさせるなー。
「さすがにこんな姿の母さんを動かすのは躊躇われて……」
「だからっておばばを歩かせるのもじゃない?」
「年寄り扱いしてんじゃないよ! 病人に無茶させる訳に行かないだろ」
「それで? 母さんの症状はどうなの?」
「体力低下からくるただの風邪だよ。全く……何をしたのか知らないけどね。もう若くないんだからあまり無茶するんじゃないよ」
軽い風邪とはいえ、どうやら本当に病気だったらしい。これで、冷房の効いた部屋でぐーたらしたいがための仮病だったんじゃない? という俺の仮説は見事に外れたわけだ。
「なに言ってるのかしらおばばー。まだ若いわよー」
「さて、取りあえず今日の分はあったけど、もし明日以降も薬が要るんだったら作っておくから取りに来な」
エレナの反論を完全無視したおばばは、広げてた診察道具? らしき物を片付けながらそんな説明する。なんでこっちを見てんのかよく分かんないけど、それはサミィのお仕事ですよ?
「しっかしここはどうなってんだい? 熱期だってのにまるで冷期みたいじゃないか。お前さんがまた何かしたのかい?」
「氷の魔道具作った」
「ならそいつをウチの倉庫にも作りな。そうすりゃ薬草の保存が一層楽になるよ」
「え? 決定事項なの?」
「当然さね。それともなにかい? 領民が死んでもいいのかい?」
むぐぐ……それを言われると弱いな。俺のぐーたらライフにおいて、マンパワーの優先順位はかなり高い。これがないと何も始まらないからね。
「わーかったよ。でも村人の家に設置するのが先だからね。そっちの方が優先順位は高いから」
「構いやしないがさっさとするんだよ。そうそう。ついでに水の補充もしていきな。分かったね?」
つまり水が無くなったから入れに来いって事か……。やれやれ。面倒だけどおばばの薬はこの村にとって大切な物だからな。
「はいはい分かりましたよ。で? 明日の朝まで母さんはどうしてればいいの?」
「飯を食って薬を飲ませてしっかり寝かしときな。そうすりゃ明日には回復してるだろうよ」
そう言い残しておばばは帰っていった。そうしてその助言に従ってエレナを寝室に運ぼうかね。
「じゃあベッドまで運んじゃうけど、魔法使うからね」
「そうしてもらえるとありがたいよ」
無魔法でソファごとエレナを持ち上げ、リビングから寝室に移動しようかとしたんだが、なんとドア枠に手のをばして動きたくないとのアピール。
「母さん。寝ないと治らないよ」
「ここを離れたくないわー。暑いんだものー」
「どうする?」
無理矢理引き剥がす事も出来なくはないけど、それをすればたぶんドア枠はぶっ壊れるし、寝室の所も同じ結末をたどるのは明らかだから出来ればやりたくないし、さすがにリビングにベッドを運ぶのもねぇ……。
「寝室も涼しくすればいいんじゃないだろうか」
「そーよー。そうすれば、お母さんは静かに寝てられるわねー」
「はいはい。じゃあそうしましょうねー」
面倒なんで適当に了承すると、エレナが手を放してくれたんでそのまま寝室へ行き、ベッドに寝かせる。
「さて、それじゃあ涼しくしておくね」
「助かるわー」
まずは自室から取ってきたふりをした風の魔道具を置き、その前に氷柱を設置。これでも多少は涼しくなるからいいだろうと何も言わず出て行こうとすると服が破れんばかりの力で引きずり倒された。
「一応確認だけど、俺ってちゃんと母さんと父さんの息子だよね?」
「当たり前じゃないー」
「の割には扱いが酷くない?」
いくら体調不良だって言っても、止めるために引きずり倒すのってどうよ。中身おっさんでも普通の5歳だからね? 脳筋アリアやゲイツと体のつくりが違うんだから勘弁してほしいね。
「酷いのはリックちゃんよー。どうしてあんなのしか用意してくれないのー?」
「別にいいでしょ。もう夜だし夕飯作んないといけないから放してくんない?」
「リックちゃんが冷たいわー」
「はいはい。ならもう何個か置いていくからちゃんと寝てないと駄目だよー」
エレナの要求に旧式冷房を複数台設置して後にする。まぁ、文句を言ってたみたいだけど当然無視。相手してたらいつまでたっても終わんなそうだし、夕飯作んないとアリアとかヴォルフが文句を言ってくるからね。はぁ……本当に労働って面倒くさい。
——————
「はーい。ご飯持ってきたよー」
リビングのグレッグ達には4種の餃子を提供し、ベッドで寝てるエレナには食べやすいようにスープ餃子にしてみたものを持ってきたが、どうにも機嫌がよくなさそうだなー。
原因は冷房が気に入らないんだろうけど、そこまで甘やかしたりしませんよ。もっと重症であれば話は別だけどね。
「あらー? 見た事ない料理ねー」
「うん。アリア姉さんがようやく簡単な計算を覚えたお祝いに、オーク肉を使った料理をちょっとね」
「オーク肉……あぁ。ゲイツちゃんを送った時に獲ってきたのねー」
さすがに理解が早くて助かる。ちなヴォルフも同じくらい早く理解してくれた。
「……美味しいわー」
「そりゃ良かった」
俺の餃子スープを食べてみる。
……うん。塩味に乾燥野菜の出汁が少し利いてるけどやっぱり物足りないなー。こんな事ならオーク肉の骨も持ち帰って豚骨スープ的な物にすればよかったかも。
「ごちそうさまー。美味しかったわー」
「はいお粗末様。じゃあ後はゆっくり寝て病気を治してね」
さて、これで今日の俺の仕事はおしまい。
おばばの診察だと明日には良くなるって事なんで、これほどの重労働とはようやくおさらば出来るおかげで、悪くない気分でベッドの中に潜り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます